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エドガーは別れ際「ヴィーなら、夜の方がジャンさんや守護神様との遭遇率も上がると思いますよ」と教えてくれた。ヴィルド司教、やっぱり夜は来ちゃうのか。そして悪魔の場合、襲撃しちゃうそうだ。完全に模擬戦と同じ感覚で来るそうだから。
悪魔の場合、人間より回復能力も上だから、ボコボコ呪術式も撃ち込んでくるとか。腕力でもやろうと思えば普通に破壊できちゃう人|(?)|らしい。……何を破壊するのだろうか?
とにかく、今日あったことを悪魔祓い師達に報告っと。
バルトさんと猫が台所にいたので、お茶とお菓子を出してもらいながら、兄ちゃんはプリプリと怒っていた。もちろん、お菓子をちゃんと頬張っているが。ちゃんとご飯も食べているけど、お菓子は別腹らしいです。甘いの、好きだねぇ、兄ちゃんも。大地神も好きだったね。二人とも、お子様だからかな?
「チビスケも新入りも災ニャンだったにゃー。おそらく、その使い魔は、今回転化した悪魔の仕業にゃ。腹黒補佐を狙ったにゃ」
机の上に、お座りして言う猫。ここ、行儀悪いって怒る人、誰もいないんだな。
しかし、エドガーが腹黒って、何かの間違いでなかろうか。……いや、無邪気に俺や兄ちゃんをヴィルド司教様寄せに使っていたから、そうでもないか。ブラック・エドガーになってたからな。もし通常運転であれなら、俺は反対に心配だが。
「使い魔の核になっていた、寄り代は燃やしちまったか。かの司教に見せたら、特定できたと思うがな。あの人はその手の資格も持っているからな」
ヴィルド司教様、本当に多彩だな。バルトさんもヴィルド司教様のこと詳しいですね。元同業者同士の繋がりか、な?
「まだ魔王はその悪魔を見付けてにゃいのかにゃ? おっそいにゃあ」
まぁ、まだ使い魔がそこらにうろうろしているってことだからな。エドガーもそのことを危惧していたな。
「悪魔なんて、傍にいなかったぞ! いたら、俺が気付く!」
兄ちゃん、椅子の上に立って、抗議しない。兄ちゃんのセンサーは優秀だから、直径百メートル以内にはいないって意味だからなぁ。遠距離操作のできる使い魔を作れる悪魔の可能性があるね。
「二つにゃが使い魔絡みの可能性があるかもしれにゃいにゃ。あの悪魔が得意だったもう一つの気功絡みでにゃくて、よかったにゃ」
兄ちゃんは猫の言葉よりも、ペタンペタンと左右に揺れる尻尾の方が気になるみたいだ。クッキー片手に、目が追っている。兄ちゃんも、動くものを追う性質というか習性があるよな。―――ほら、お子様だから。
そう考えると、大地神もその気があったな。策士でドエスなところもあったけど。自称、長く生きていたため周囲の影響で性格が変わっただからな。それでも、子供らしい残酷性は失っていなかったと思うけど。そして、それを分かっていて笑ってするところもあるな。本当にいい性格しているよな、大地神。
今まで、大地神以上に強い人ならびに神しかり悪魔って見たことないって言っていたけれど。ヴィルド司教様って、もしかしたら……なんだよね。大地神も、気持ち複雑なんじゃないかな?
思い返してみたら、中央の悪魔祓い師達相手にあの遊び|(大地神にとってであって、悪魔祓い師達にとっては災害や天災に等しかったようだが)|を仕掛けるようになったのも、この一年くらいだったような。もしかしなくても、ヴィルド司教様に再戦を申し込む気ではなかろうか、と不安が。その手の戦いや戦闘も大好きだからね、大地神。
「気功って……なんですか?」
猫に敬語じゃなくて、何でも知っていそうなバルトさんに、だ。猫は、怪しい目の兄ちゃんを牽制し出したからな。じりじりと兄ちゃんから距離を置こうと後ろに後ずさっているよ。俺の話なんて、全然聞いてねぇよ。
「ここから、ずっと東の国から伝わった呪術式の亜種、だな。呪術式を体の内部に刻みつけることができて、ちょっと厄介なんよ。……ラザフォードちゃんもそれで重傷を負わされてな」
ヴィルド司教様とバルトさんがプッツンした話し、そこに繋がるのね。
「その気功って治療系の応用に似ていますね。確か、兄ちゃんもできたよね。……あー、兄ちゃん。何やってんのよ!?」
話、聞いてねぇぇぇ!! 「しっぽー、しっぽー」とか言って、猫の尻尾をつかんでいるよ! 猫はもちろん「やめるにゃー!!」って言って嫌がっているけれど。
バルトさんがいい笑顔で(ブラックがかっていますがっ!)兄ちゃんの手を狙ってナイフを机にぶっ刺していた。兄ちゃんも、反射的に手をひっこめていたから怪我はないが。猫の尻尾も無事で。バルトさんの肩に駆け上っていた。
……どうでもいいが、あのナイフはどこから出したんだろうか。俺、見えなかったよ。いつの間にか、バルトさんの手に握られていたからさ。
バルトさんも猫を慰めるように喉を撫でて……。契約ニャンコって言っているくらいだから。相当可愛がっていて、甘やかしているのは分かっていたが。
今のは、兄ちゃんが悪いよ。猫とバルトさんに、謝んなさい。
「ジャン、あのおっちゃん、こえぇぇぇ!!」
なんて言って、俺に泣き付いてもダメです。兄ちゃんが先に悪さしたんでしょうが。大体、バルトさんが強いって分かってたでしょ。
「すみません、バルトさん」
「いいんよー。おいちゃんも新入りはまとも人って分かっているから。どことなく、坊似の苦労臭がするよ。おう、チビスケ。次、おいちゃんのニャンコに変なことしたら、当てるぞ?」
俺には優しい笑顔を見せてくれたけど、兄ちゃんには殺気立ってくれて。指と指の間に、ナイフをズラーっと挟んでいるのをみせてくれた。元腕利きの暗部出身って言うだけあって、すでに奇術師なんじゃないだろうか。何もないところから、ナイフを出してるよ。
俺と兄ちゃんは、抱き合って「ヒエェェー」と怯えちゃったよ。十分、怖いんですけど! これよりも恐ろしいっていう、ヴィルド司教様ってなんだ!
「もちろん、ニャンコが悪い場合はその限りではないけどな。ま、新入りもその悪魔のことは、もう気にせんでいいよ。地雷、それも特大の踏んじまったからな」
猫オンの肩をすくめてみせる、バルトさん。
……そうですね。エドガーの言からして、あの方がキレそうなんですけど。噂の魔王モードになりそうなんですけど。
「それ、一応ラザフォードちゃんにも伝えといてな」と言ってしまうバルトさん。その話に、もう興味を失くしたのか、猫の喉をくすぐっていた。……なんだかなぁ。
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