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LN東條戦記第3部「売国宰相」  作者: 異不丸
序章 売国
6/59

 4


夜。首相公邸、洋間。


東條、重光、本間、栗林の四人は、シャツ姿で乾杯した。

しかし、四人共に真顔である。


「本間は英国に長かった、聞いてくれ」

「はっ」

「重光さんも英国に長い。栗林も米国にいた」

「「はい」」

「私は独語だった、駐在は独逸だけ」

「「「・・・」」」

「だから、米英には疎い」

「「「・・・」」」

「助言を頼みたい」

「「「!」」」



東條英機は陸士17期だが、陸大は27期である。一方で、3歳年下の本間雅晴は陸士19期ながら、陸大27期の優等であった。東條と本間は、陸軍大学の同期なのだ。


東條は、ごくごくとコップを飲み干すと話し始めた。

「正直言って、わしはアングロサクソンが怖い。米国と英国が怖い」

「「首相!」」

異口同音に詰め寄る二人を、重光外相が鋭く制止した。

「待ちなさい。今は聞くべきです」

「「・・・」」


東條は続ける。

「幕末の先輩たちが感じた恐怖と同じだ。滅ぼされるのではないか?」

「だから、アングロサクソンと協同したい。共闘してもいい」

「日英同盟の例はあるが、米国に崩された。英国も強いて反対しなかった」

「対等の同盟は、彼らアングロサクソンの利益ではない」

「ならば、協力も無理だろう」

「であれば、自発的に共闘を敷く」

「飼い犬ではない。餌はもらわない。だが猟犬になる」

「犬小屋の中での生存はいらない。猟場の中での自由をもらう」

「そうして、他の犬たちよりも優先権をもらう」

「その程度がやっとだろう」



一気に話し終えた東條は、息をつくと、注がれたコップをまた干す。

「ふーっ。どうだろう?」

「「「・・・」」」


重光も、本間も栗林も、思いもよらぬ東條の本音に驚愕して、声が出ない。

帝国の首相であり軍人でもある身で、怖いと言うのだ。その重さの前に、迂闊な発言は出来ない。

三人は必死に、自分が接した米英人を、在留した頃を脳裏に蘇らせる。



(あっ、今がその時なのか)

栗林軍務局長は、山下陸相から念押しされていた。

(そうとも)

栗林は、視線で重光と本間に発言の許可をもらう。


「首相、よろしいですか」

「もちろん」

「米英両国が同時に来るのが脅威なのですか?」

「いや。単独でも脅威なのだ」

「米英不可分論、でしょうか?」

「少し違う。米英の国としての現れよりも、その源であるアングロサクソンが脅威なのだ」

「すると?」

「見た目では、米国と英国は違う。例えば、共和制と立憲君主制」

「「「うんうん」」」

「帝国からの地勢としても、東側と西側」

「「「うんうん」」」

「だが、米英両国の根は共通だ。根源はアングロサクソンなのだ」

「「「・・・」」」



ようやく、重光が口を開く。

「総理、アングロサクソンのどこを脅威と感じられましたか?」

「外相。彼らが目的遂行にあたってとる手法が脅威なのだ」

「目的遂行の手法、ですか」

「ああ。手段を選ばない、という意味においてな」

「なるほど。私が知る限りでは、彼らの目的は利益です」

「そう、利益が目的だ」

「「うんうん」」

「手段を選ばんというのは、例えば異教徒のユダヤ人と組む」


本間と栗林も話しに加わった。

「オランダ独立戦争の時ですか」

「ああ、スペインのアルマダを破った」

「英国は戦費をユダヤ人から借りた」

「情報戦もユダヤ人を使ってやっていますね」

「その50年後には英蘭が戦う」

「オランダを独立させたのはスペインの力を削ぐため」

「しかし、オランダがアジアで台頭してくれば、これを潰す」

「まさしく利益の追求ですね」

「そして手段を選ばない」


「首相は、英蘭戦争に日米を重ねてみろと?」

「もともと明治の日本は脱亜入欧を目指したはずだ」

「つまり、日露戦争の戦後処理ですか」

「そうなりますね」

「戦費を借りておいて、いざ勝利したらば満州を独り占め」

「米国は日本を裏切り者とみているだろう」

「怖い話です」

「「・・・」」






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