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LN東條戦記第3部「売国宰相」  作者: 異不丸
終章 亡国
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帝都東京、教育総監部。夜。


地下司令室に土肥原総監、樋口特務兵監、山内副官の3人がいた。土肥原が見つめるのは天下三分儀のうちの北半球、満州だった。


「ひ号作戦ですが」

「どれほど来たかな」

「およそ1万人、うち3千がユダヤ人です」

「この短期間で上出来だ」

「船でないと万単位は無理です」

「そのうちにいろいろできるさ」

「安江所長を哈爾濱に移しました」

「しばらく満洲里は暇だからな」



昨年の満州の総人口は4300万人と推計されていた。日本人が90万人、朝鮮人が150万人、欧米露が8万人、残りが満人漢人である。民籍取得の保留期間が縮まったので日本人は減っていく。朝鮮人はほぼ全員が送還される。昨年末からの新規移民は推計には入っていない。


旧来の欧米露人の半数が哈爾濱、牡丹江などの都市に居住していた。残り半数が営農や狩猟であり、移民村は哈爾濱の東側に多い。引揚中の日本人開拓村は北側だった。ひ号作戦の第一段階は、新規入植者を満州の西側、斉斉哈爾の南北、嫩江沿いに配置することである。



「200万の人口減は痛いですね」

「労働力が不足します」

「それは満州と米国で考えることだ」

「はあ」

「米国人は通遼ですか」

「とりあえずだ。冒険者は蒙古へ行く」

「馬に乗った蒙古人とは仲良く出来る」


「農場はもっと北へ配置すべきです」

「そうなのだが、駐留米軍を何処に置くかだ」

「ああ、集中も分散もまずいですね」

「経営者や技術者は斉斉哈爾ですか」

「鮎川さんの計画ではどうなっている」

「工場地帯は哈爾濱の西100km」

「松花江沿いだな、ええと」



禄雄がセロハン紙を重ねる。出身国別の村の配置、土地利用、植生に加えて遊牧民の宿営地や草地が色分けされていた。青い線は梅津総司令官と多田総長の考えた満洲防衛教義の防衛線である。土肥原は机から朱筆を取る。かなり外側にもう一本の線が太く書かれた。米国資本と駐留軍が進出後の防衛線だ。


「あああ。きれいに色付けしたのに」

「写真はとってあるだろう」

「しまったあ」

「わはは、見たか」

「総監、これでは国境からいくらもありません」

「うむ。山地の使い方だな」

「山の上から撃ち下すか、平地で迎えるか」



戦場では高地を占めたほうが有利とされている。視界が利くし仰角もいらない。標高によっては重力の助けもある。しかし、砲火力を重視すると考えものだ。重くてあっという間に消費する砲弾を、山の上まで大量に運搬しなければならない。撤退路がなければ、せっかく築城した陣地の重砲は置き捨てとなる。



「大興安嶺は大きい、幅がありすぎだ」

「それだけに一度侵入を許せば」

「背後の兵站を断てないかな」

「空爆ですか。迂回飛行になりますね」

「四式兵備には長距離戦闘機が入っている」

「増槽をつけて2500km。なるほど」

「根本から今村に上げさせてくれんか」

「了解しました」



土肥原は哈爾浜の北西150km、濱洲線龍鳳駅の辺りをずっと見ていた。










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