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LN東條戦記第3部「売国宰相」  作者: 異不丸
終章 亡国
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1 


帝都、紀尾井町、伏見宮家本邸。夕方。


元帥伏見海軍大将宮博恭王は、祝辞をあげに来る皇族各宮や華族各家の応対を終えると、私室に戻った。一服して間を取った後、元帥服を束帯に着替えると広間に向かう。広間はほとんどの畳が上げられ、板の間となっていた。舎人や内舎人を室内に入れるための方便だ。



伏見宮は、平伏する家人たちに宮家が親王家に復帰することを告げ、皆の奉公のおかげであると礼を言った。水干を着けた家人たちの肩が一段と下がる。面を上げるように伏見宮が宣した。一拍後に、部屋中にふーっとため息が溢れる。伏見宮博恭王の隣には、次の当主で親王になる博明王があった。


今回の皇室典範の改正は、大正7年に増補された王公族についてだった。朝鮮を分離し大韓帝国を復するから、王公族を廃止するのだ。枢密院での会議の席上で、親王宣下により親王を増員することを提議したのは東條首相だったという。博明王は満15歳を以って親王宣下されることに決定した。



その夜、祝宴が終わったあとも、伏見宮は私室で寝酒をやっていた。親王家に復帰できるのはやはり嬉しい。これで一つ終わる。もう一つの海軍の意思統一も目途は立った。特務二部は解散させて、背後にいた予備役大将の始末も終わった。思ったよりも根が張っていて手間取った。


海軍特務の件では、吉内の手を借りた。警察や憲兵などの尋常な手段では始末できないほどに膨れ上がっていたのだ。早苗自身が出たのも1度や2度ではないだろう。公務の始末に家の者を使うのは躊躇いがあったが、修羅場だったのだ。豊田の強引な人事も手助けしてやったから、なすべきことはもうなかろう。



(いるか、早苗)

(はい、殿下)

(明日か、息災でな)

(殿下、過分なお言葉を)



明日の朝早く、吉内の早苗は発つ。婿盗りだ。早苗の一族は、日本のあちこちに散らばっており、一定の周期で嫁入りと婿入りを繰り返していた。血の濃さの問題だという。一族の長に近い早苗の場合は、婿を攫って来て子をなすらしい。いい婿が見つかったと聞いたのは紀元節の頃だったから、だいぶ待たせてしまった。



(子ができれば知らせよ)

(はい、殿下)

(よし)



憂いがなくなった伏見宮は、心地よく眠りについた。









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