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帝都東京、宮城、枢密院。
東條が案内された部屋に入ると、枢密院議長の原嘉道と内大臣の木戸幸一が待っていた。
「総理、お忙しいところをすみませんな」
「とんでもない。毎度のご助力には感謝しております」
「「・・・」」
「すまんが、首相」
「ご奉公です、どうぞ」
「「おお」」
「では、遠慮なく」
「実際のところ、人種無差別に関しては?」
「もしも、アジアの民族がすべて独立を達成すれば」
「「はい」」
「いずれ、日本が下げます」
「「ええ」」
「日本は、所詮、日本人だけであります」
「しかし、帝国は、台湾を・・」
「台湾は、同化できましょう」
「「は、はい」」
「しかし、インドネシアやインドではできない」
「「はあ」」
「今でも人口は多い。これらが独立すれば、日本は落ちぶれるかもしれない」
「では?」
「わたしは帝国の宰相であり、すべては帝国のため」
「「はい」」
「だから、人種無差別は暇な時にやる」
「暇な時にですか」
「本気でやれば、亡国となりましょう」
「「は、はあ」」
「緊張を作ります。でなければ、日本の出番はない」
「つまり」
「帝国は、彼らの番犬にはなれない。もとより愛玩犬でもない」
「では、闘犬・・」
「ぎろり」
「「ひっ」」
「猟犬、あるいは牧羊犬か」
「「・・・」」
「日本人白人説は、どうなのですか?」
「有効だと思います」
「しかし、蒙古斑は明らかだ」
「所詮は戦術的な目くらましですから」
「戦略的にはどうなのです?」
「国内世論の誘導という意味では、有効です」
「白人説が?」
「いや、人種無差別がです」
「「・・・」」
「米英には勝利できない。特に米国には」
「「そうでした」」
「ですから、作戦的勝利や戦術的勝利をこつこつと稼ぐ」
「「はい」」
「結果は変わらんでしょうが、時には米英も失策する」
「なるほど」
「小さな失敗、少しの消耗でも、何十年も積もれば」
「ああ」
「お上が言っておられた。50年どころか100年の計だと」
「なんと。畏れ多いことです」
「「・・・」」
木戸内大臣は満足した。しかし、天邪鬼な原議長は念を押す。
「首相は精勤運動の日本精神をどう思われますか」
「はい。日本精神とは」
「「・・」」
「日本人精神とは異なり、偏狭なものではいけない」
「「おお」」
「科学の進歩と同調して精神も進歩しなければならない」
「「おおおお」」
「科学と思想は、どちらかに偏ってはいけないのです」
(それはお上のお言葉ではないか!)
「思うに、科学と思想は両足みたいなものでしょう」
「え」
「両足は同じ長さでないと、うまく歩けない」
「ああ」
「成長して背が伸びるとします。両足も同じように伸びないと」
「「なるほど」」




