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大日本帝国、帝都東京、情報局。
外国人記者の質問はまだ続いている。
「欧州大戦について」
「え」
「どうぞ」
「ああ。帝国は平和を好む。仏印からも支那からも撤収した」
「はい」
「いわんや、なぜ欧州戦争に」
「それは中立宣言ですか」
「なんとも言えない。情勢の変化は急です」
「う~む。選択肢は温存すると」
「どこの国もそうではないでしょうか」
「独伊への遠慮はありますか」
「そりゃ、つい先日まで同盟国だった」
「はい」
「手の平を返すのは、日本人には抵抗感がある」
「では、中立ですね」
「断言できる材料がない」
「独伊が敗北した場合、その後に日本が」
「あるかもしれん。それを想定するのが国家戦略だろう」
「なるほど」
「ま、あくまで一般論ですが」
「「う~ん」」
「蘭印進駐はあり得ますか」
「ぎろ」
「ひっ」
「「・・」」
「あり得ます」
「「おおっ!」」
「蘭印への武力発動は、先の日米合意に反するのでは?」
「ぎろり」
「ひぇ」
「たしかに、日米合意のひとつに南太平洋の現状維持があります」
「「ほっ」」
「帝国は、これを破ろうとは思っておりません」
「では?」
「蘭印現地も亡命政府も、帝国の問合せに答えようとしない」
「ええ」
「かたや、日蘭会商は有効だ」
「は、はあ」
「保障占領は、国際的に認められた独立国の権利であります」
「は、はい」
「武装進駐と武力発動は、大いに違うでしょう?」
「あ、ま、そうですね」
「現に、お国はアイスランドに進駐しておられる」
「いや、それは。しかし」
「帝国は、現に保有する権利を放棄しないし、必要であれば行使する」
「そ、それは」
「和蘭国には真摯な対応を求めたいですな」
「「ふ~っ」」
会見が終わると、記者同士が集まって意見を交換する。
相変わらず、日本政府の発言はどちらともつかない玉虫色で、明確に断言したのは蘭印進駐の可能性だけだった。
「これは日本政府からの警告か」
「蘭印は、日蘭会商を破ったままだ」
「それにジャワでの邦人襲撃事件」
「ああ、ヤマグチ一家か」
「いや、山口は前の住人の表札らしい」
「じゃ、タナカかサトーか」
「「・・・」」
「蘭印総督府だけでなく、ロンドンの亡命政府へも抗議したのは異例だ」
「ああ、エンペラーが女王に電報を打ったらしい」
「大事になるか」
「トージョー首相も明言するしかないな」
「なるほど」
「待て」
「どうした」
「今日の会見で指名されたのは米国記者だけだ」
「え、そうだっけ」
「ひい、ふう、みい・・」
「「・・・」」
「これはわが国へのメッセージだというのか」
「ほれ、先々月のダバオでの邦人暴行事件」
「「比島か!」」
「そういえば」
「「どうした?」」
「もう1つ、明言があった」
「「んん」」
「護るべきは護る、と」
「「あああっ」」