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大日本帝国、帝都東京。
午後、情報局では、首相の記者会見が行われていた。
出席を許されたのは外国人記者だけである。本邦の新聞・通信記者はいない。
まず、情報局の谷正之総裁が、現今の内外情勢と帝国の対応をざっと説明する。次に、東條首相が各国の友誼に感謝する旨の短い演説を行った。それから質疑応答である。
谷総裁は米国記者を指名する。
「ミスタージョン、どうぞ」
「ウェル。えと、首相にお聞きします」
「はい、なんでしょう」
「日中講和が成って4ヶ月経ちますが、もはや東アジアには戦雲はありませんか?」
「ああ、帝国は東アジアの強国でありますが」
「はいはい」
「残念ながら東アジア全体を代表するには至っていません」
「え」
「ほかの国や地域のことはわかりません」
「ええ」
「ですから、あるともないとも言えませんね」
「「・・・」」
「ミスタートム、どうぞ」
「サンキュー。大日本帝国は武力発動を放棄するのですか?」
「おっしゃる意味がわかりません」
「あれ。えと、その・・」
「帝国防衛の意味であれば、大は帝国の版図、小は邦人の財布。護るべきは護ります!」
「あ、いや。その」
「えと、記者さんは武力発動、つまり戦争をご期待ですか?」
「いや、あれ。えと、ノー!」
「米国の方ならご理解いただけると思いますが」
「ウェル、ソー?」
「軍人は戦争を始めないのであります」
「「オー」」
谷総裁は、あらかじめ重光外相から説明を受けていた。
『今日の記者たちは新顔が多い筈だ。それはワシントンの指令だ』
つまりエージェントか。ならば、今日の記者会見はイコール、米国政府への説明か。
『しかし、決して、弁明や弁解と解されてはいけない』
東條首相は、言質をとられないようにうまく進めている。
「ミスジェーン、どうぞ」
「あら。選挙についてコメントをください」
「え。コミットメント?」
「ごにょごにょ」
「ああ、そうか」
「「・・・」」
「えー。大日本帝国では全ての成人男子に選挙権がありまして・・」
「それは、民主主義だと仰りたいの?」
「げふん。国民は自由意志で代議員を選択できるのであります」
「でも、政府が統制しているのでしょう?」
「えー、行政として違反行為を取り締まっております」
「それは、政府に都合のいい候補を支援していることでしょう?」
「げふん。大政翼賛会を解散させました」
「そうだったわ」
「公開議事録を丹念に見ていただければ・・」
「女性参政のことを言ってるのかしら?」
「ですから、私の口からは言えませんが」
「あら、そうなの。うふふ」
「あっ、いえ。そんな」
「わかったわ。次々回選挙では女性選挙権を施行するのね」
「「わああ!」」




