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“夢”に関する短編連作

作者: 阿木玲太郎

第一夜


 こんな夢を見た。



 目覚めると、そこは古い日本家屋の和室だった。裸電球が一つ天井からぶら下がっていて、天井板の幾つものの節が私を見下ろしているようだった。


 外に出ると目の前に一面の青田が広がっていた。それは風に吹かれて波のように揺れていた。青田の向こうに白い満月が浮かんでいて、青田が月明かりで光っていた。それは、まるで本物の海のようだった。

 人の気配がした。

 夜空にスクリーンに楽譜が写し出され、その下で大勢の若者が楽器を吹いているのが見えた。

 私は歩き始めた。

 私の期待通りだった。大勢の吹奏楽部員の中から彼女を見つけた。彼女だけ光り輝いていた。オーボエを吹く彼女、名前しか知らず一言も喋ったこともない彼女がいた。彼女は私が事務職で勤める私立高校の二年生。彼女は吹奏楽部でオーボエを吹いていた。

 “オーボエ”。 ジャズしか聴かない私には最初その楽器の名前すら分からなかった。

 彼女はリードを咥えていた。私は妄想を抱き、久しぶりに勃起した。

 彼女は私が二十五歳の頃、愛した女によく似ていた。

 女は私の一番親しい友人と結婚した。結婚式の女は幸せに輝いていた。

 夜空に浮かんだ楽譜が消えた。練習時間が終わったのだ。楽器を片付ける彼女の周りに部員達が寄ってくる。男だけでなく、女子生徒も彼女に話しかけくる。彼女はそれに笑顔で答えている。彼女はオーボエを入れたバックを抱えスクール・バスに乗り、バスは夜の中に消えた。


<「あなたは自分しか愛せない可哀相な人なのよ」と、旅行鞄を脇に置いた妻が言った。

「私達の間に子どもが出来なかったのがせめてもの救いだったわ……」と、妻は付け足した。その意見には私も同意した。私達夫婦の意見が合ったのは五年間の結婚生活で初めてだった。

 妻の後ろには図体の大きな気の弱そうな男がいた。

 妻は男の車の助手席の乗り「行くわよ! 」と男に言った。

 男は妻の旅行鞄を車の後部座席に積み、ペコリと大きな頭を下げると運転席の乗り込み車を発進させ、直ぐの角を左折して私の視界から消えた。

 妻、正確には元妻の乗った車は消える間際、警笛を短く鳴らした。

 数日前のことだ。>



 納屋に入り明かりをつけ苦労して梁にロープを掛け、脚立に乗りロープの端を自分の首に回した。

「五年間一緒に生活したのに、結局、君は私を少しも理解しなかった。私は自分も愛せない可哀想な男だよ。でも、一人の女性だけは愛したよ」

 私はそう呟くと脚立を蹴った。


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