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1章 天才と落ちこぼれと禁断の術 ①―物語のはじまり― 

体が重い。

とてつもない気だるさが俺の全身を包む。

体中に重りを着けられているようなそんな気分だ。


気持ちが悪い。吐き気もする。

右も左もわからなかった。俺は今何をしているんだろう・・・全くわからない。

体が宙に浮いてグルグルと回っているようなそんな気分だ。


ただ、体全体に固くてヒンヤリと気持ちのいいものが当たっていると言う事だけはわかった。


思い瞼をゆっくりと開けると、辺りは暗闇に包まれていて、何も見えなかった。

ただ、自分のおかれている状況はわかった。

どうやら俺はどこかで横になって倒れているようだ。

ここが何処なのかはわからないが・・・。


俺はゆっくりと床に手を付き立ち上がり辺りを見渡してみる。

暗くてよく見えないのだが埃っぽくて汚い場所にいるようだ。


自分に何があったのだろう?わからない。


ここが室内であるという事はわかる。

埃っぽくて汚くて机や椅子が並べられているというのも視界の悪いなかでわかった。

だけど俺は何故こんなところにいるのかがわからない。


だって俺は学校からの帰り道を外を歩いていたはずだ。

急に暗闇の汚い室内で目を覚ますはずがないじゃないか…。


もう一度目を凝らし辺りを見渡してみる。

すると暗闇の中で何かが動いているのが見えた。誰かいるのだろうか?その人影は何かをいじっているようだった。


とりあえず声をかけてみよう。何かわかるかもしれない。


人影に向かって声をかけようとすると、明かりが点いたようだ。うっすらと小さくて弱弱しいが優しい光が見えた。


明かりがついたことで周りが少し見えるようになった事で気づいた。俺の足元に1人の女の子が倒れていた。


その女の子はなんと髪の色が銀色だったのだ。女の子の髪は薄暗い部屋の中で青白く輝いて見えた。


あんな髪の色この世に存在するのだろうか?いや…存在はしているはずだ。

でもこの日本で銀色という髪色を目にかかることはまず無い。


次に目が行くのは女の子の顔だ。

精巧につくられた美しい人形のようなとても綺麗で整っている。

ただ、明らかに日本人の顔立ちではない。アメリカとかフランスとかの外国人のように思えた。なんでそんな子が目の前にいるのだろう?


さらに女の子は見るからに弱っているように見えた。

瞳は固く閉ざされぐったりとしていて動かない。苦しそうな息遣いだけが聞こえていた。


いったいここで何があったんだ?

俺の頭のなかはますます混乱した。


視線をあげ明かりの方を見るともう1人、女の子がいた。

先ほど暗闇の中を動いていた人物なのだろう。


この女の子も息遣いが荒く苦しそうな表情をしているのだが、それよりもやはり女の子の髪の色にどうしても目が行ってしまう。


女の子の髪は紅いのだ。触れたら火傷してしまうのではないかと錯覚するほど紅く燃え上がっている。夕日のように美しい茜色に染まっているのだ。


切れ長の大きな釣り目が印象的な可愛らしい感じのする女の子だ。

女の子は橙色の大きな目を見開き信じられないものを見るような目つきで俺の事を見ていた。


「なぁ…ここは何処だよ?お前達誰だ?…俺はいったいどうしたんだ?…」


震える声を喉の奥から絞り出し女の子に聞く。胸の鼓動がどんどん早くなっていくのがわかった。

目の前の視界がグルグルと回り始めた。あまりの緊張で吐きそうだ。


女の子からの返事は無い。女の子は何度か口を開いたり閉じたりを繰り返していた。恐らく彼女も俺と同じようにとても緊張しているのだろう。

女の子は小さく深呼吸をすると喉の奥から擦れた声を絞り出して言った。



「――――あっ・・・あなたは・・・?」


「それは・・・俺が聞きたいよ・・・俺の――」


「〇×▲§¶\▽??――!!!」


俺が女の子の問いかけに応えようと口を開いたその時だった。

静かで重い緊張感が張り巡らされていた部屋の空気を破壊するかのように、大きな爆発音と雷のような人の怒鳴り声が響いた。


何事かとそちらに目をやると薄暗い部屋に光が差し込んでくる。締め切られていた部屋の扉が開かれたようだった。扉の向こうからは大勢の人が部屋の中へと雪崩のように流れ込んできていた。


部屋に入ってきた人達は映画やテレビなどで見たことはあるが現代では直接目にすることが無いような西洋風の鎧に身を包んでいた。

そしてその手には細長い槍や剣などの武器を手にしていた。


わけがわからなかった。この状況はなんなんだ?


その謎の軍団の1人が俺の方を指さして何かを話していた。何を話しているのかはわからなかったがその人物はゆっくりと俺の方へ歩み寄ってくる。


男なのか女なのかは顔全体を覆い隠している兜を被っているのでわからない。


そいつは持っていた槍を俺の喉元に突然押し当ててきた。全身に寒気を感じた。喉元にはヒンヤリとした気持ちの良い鉄の感触があった。


「@§∀¶〇××②▼―!?」


その人物は俺に向かって何かを話しかけているようだった。だけど何を話しているのかわからなかった。明らかに日本語ではない、英語でもない謎の言葉だ。


このままだとダメだ…殺される…。気づくと足が震えていた。何を話していいのかわからない…。俺はいったい何をすればいいんだ…?


「#&%@§∀¶〇××②▼!?」


そいつはまた俺に向かって話しかけてくる。

ダメだ…やはり何を言っているのかわからない。


今まで感じた事のないような恐怖感が襲ってくる。緊張で体が固まり全身から滝のように汗が吹き出してきた。

息を吸っているのか吐いているのかもわからないそんな息苦しさを感じていた。


とりあえず敵ではないという事をアピールしよう。俺に出来ることはそれだけだ。やるだけやってみるしかない。

俺は震える体に力を込めてゆっくりと自分の両手を真上に上げて思いの程を叫んだ。


「おっ俺の名前は、宮本和哉です!!じゅっじゅうろく歳です!!こっこ高校…2年生です!にっ日本人です!あなた方の敵ではありません!!ゆっ許してください…こっころ・・・さないでぇ・・・。」


今まで生きてきた中で最もかっこ悪くて醜い姿だと思うがそんなことは関係なかった。

今の俺にはプライドとか羞恥心と言った感情はなかった。どんなにみっともなくても情けなくても、生き残れる可能性がほんの少しでもあるのならば、その可能性に全力を尽くそう。

ただそれだけだ。


恐怖で震えて擦れる声をなんとか腹の底から絞り出して自分の思いつく限りのセリフを言う。


こういう時俺の知っているアニメや漫画の主人公とかだったらきっとかっこよくこの辺の兵士をガンガン倒したりしてかっこよく決めるんだろうな・・・。


だが、現実はそうはいかない。ピンチの時に隠された特殊能力に目覚める事は無いし、この状況をなんとかする打開策を思いつくなんて事はありえない。一歩間違えれば本当に殺されてしまう。現実は非情で残酷なのだ。


どんなにみっともなくてもいい無様でかっこ悪くてもいい。俺はかっこいい主人公になることはできないと思う。だから、どんな形であっても生き残れればそれで良いのだ。


しかし、俺の精一杯の命乞いは効果がなかったようだ。兵士が持っていた槍の鋭く硬い金属の切っ先が喉に当たる。


シャーペンの切っ先を腕に突き刺された時のようなそんな感触だ。チクリとした微かな痛みがあった。

ただ違う部分は、この棒は俺の命を今すぐに簡単に奪うことが出来るのだ。


俺の無様で醜い命乞いはおそらく無駄に終わったのだろう。嫌だなぁこんなわけもわからない状況で、しかも槍で喉を突き破られて死ぬのなんて…。

きっと凄く痛いんだろうなぁ。喉をつぶされるという事は苦しみもあるのだろうか?

痛みもあまり感じることなく一瞬で死ぬことが出来ればいいな・・・。


「辞めて!!殺さないで!!」

諦めかけていた俺の耳に女の子の絶叫が響いた。俺にとっては希望の声だった。


声のする方へゆっくりと視線を移す。紅い髪の女の子だ。

先ほど俺に話しかけてきた女の子がそう叫んだのだった。


先ほどまでの弱弱しい緊張で硬くなっていた様子とは違い鋭い目つきで槍をもった人物に向かってそう言った。


俺の喉元からゆっくりと槍の切っ先が離れていく。

どうやら助かったようだ…。命の危険が去ったという安堵感からだろう足の力が抜けその場に倒れこんでしまった。

体の震えはいまだに収まってはいない。


「●×\△§◆@§◎?」


「これは…私たちの発動した魔術です…彼は何も関係ありません」


女の子と兵士はなにか会話をしているようだった。

でも会話の内容はあまり理解できなかった。というより理解できないのは兵士が話している言語だけで何故か女の子が話している言葉はわかるのだ。


それがなぜなのかはわからないが、今はとにかく何でもいいから情報が欲しかった。なので女の子の発言に意識を集中して耳を傾ける。


「××▼◇〇\§?」


「えぇ、そうです。私たちがやりました。わかっています後で学園長には直接報告しに行きます」


「§@¶∀●×▽▲…▽◎\¶?」


「彼は私たちが呼び出しました。召喚魔法を使って」


「%#$¶∀仝…?」


「それは・・・わかりません。この魔法は未知の部分が多いので・・・」


は?魔法?召喚魔法を使って俺をこの場に呼び出した?この子はいったい何を言っているのだ。


もしかしたらこれは全て俺の夢の世界での出来事なのではないだろうか?

アニメの見過ぎでこんなファンタジー世界の夢を見る機会が増えている気がするし・・・。


やけにリアルで現実的だが夢なのではないだろうか?

それとも俺はどこかに頭を強く打ってとうとう幻覚でも見始めてしまったのだろうか・・・?


こんなこと信じられるわけがない。

実際にこの現実の世界で異世界に呼び出されるなんていう事が起こるはずがないじゃないか。


「〇\¶∀\×▲」


「わかりました…。あの、ところでレヴィの様子は?」


「@§∀●××」


「そうですか…」


「○\§$%¶∀」


「ええ…そうしてもらえると助かります…」


女の子は少しホッとしたような安堵の表情を浮かべていた。


「それで、今後の事ですが――」


女の子は俺の方へ視線を移しながら言う。

今後の事というのはおそらく俺のことなのだろう。


「私達も状況説明をするために少し時間が欲しいです。レヴィもあんな状態ですし…。正直混乱しています。少し…考える時間をください」


兵士は小首を傾げ無言でこちらを見ていた。表情は読み取れないが何か考え事をしているというのはわかった。


女の子の言っている事はもっともだと思う。俺自身も一度落ち着いて現在の状況について考え直したい。これが俺の夢なのか現実なのかもはっきりさせたい。


それに一度全ての情報を整理することは大切だと思う。

そうしないとこれから俺がどうすればいいのかわからない。俺の進む先はどこまでも先の見えない暗闇だ。少しでも進む先が光が見たい。


「〇×◆±§Δ@…◇仝×―?」


「そうですね。では、今後の事はいったんお任せします・・・。そこのキミ!」


兵士に向けていた丁寧な態度を一変させて女の子は俺の事を指さしながら言った。

あまりの態度の変貌ぶりに少し押されてしまった・・・。


「なっなんだよ?」


「話は聞いていたよね?」


「うん。一応・・・」

といっても本当に聞いていただけで話の内容はほとんど理解できなかったのだが・・・。



「なら、話が早いね。それではシエナ様お願いします」


女の子の発言に兵士はゆっくりと頷くと俺の方へと歩いてきた。命の心配はないとはいえ武器を持った兵士を目の前にするというこの状況はどうしても緊張する。


兵士は俺の方へ再び槍の切っ先を向ける。

本当に俺は大丈夫なのか?殺されないんだよな?一度去ったはずの緊張がまたやってきた。


そんな俺の様子に兵士は無頓着で何か小さな声でぶつぶつと呟いていた。


兵士の声が途切れたときだった。槍の先端が黄色い光を放ち始めた。


そこからレーザー光線のように勢いよく光が飛び出してきたのだった。

光はまるで蛇のように動きうねりながら俺の体に何重にも重なって巻き付いてくる。


なんだこれは・・・?今まで感じたことのない物だった。

体にまとわりつく光の糸を引きはがそうと力を込めてもがいてみるがビクともしない。


光からは物量というか重さを感じない。

何かが体に触れている感触はあるが物体が体に触れているという感触が無いのだ。

体を締め付けられる感触はあるが痛みは無い。まるで水の中で上手く体が動かせない様な気分だ。


引き剥がそうとしても光は伸縮自在のゴムのように俺の動きに合わせて形を変えぴったりとはりつき動きの自由を完璧に奪っていた。

これは暴れても無駄だ。俺の力でどうにか出来るようなものではない。



「あのー…これはいったいどういう状況なんでしょうか?」


「ごめんなさい。キミをここに呼んでしまったのは謝る。でも突然現れた謎の人物を野放しにすることなんてできないのよ。もしかしたら危険な人かもしれないしね」


女の子は不安気な表現でそう言った。

いや、ちょっと待て。俺のどこを見てそういう判断になったのだろう?

例えば100人の人にどこにでもいそうな一般的な高校生の俺と紅い髪の女の子に武器を持った謎の兵士達。どっちが危険な人間に見える?という質問をしたら間違いなくほぼ全員が俺の方が危険のない善良な一般市民だと答えるであろう。



それに先ほど半分涙目になりながら俺に敵意はないという事をおもいきりアピールした後に謎の光の糸を使ってまで身動きを封じられる意味が解らない。



「あの…俺はそんなに危険そうに見えるのでしょうか?」



「私たちが呼び出しておいてこんなこと言うのも申し訳ないのだけど、よくわからないというのが危険なのよ。キミが何処から来たのか、どんな力を隠しているのかわからないからね」


「俺には隠している様な力はありません…。何処にでもいる普通の高校生です」



「ごめんなさいね。その発言が嘘か本当かの判断は簡単には出来ないの。コーコーセイという言葉の意味もよくわからないし…。だから、今は我慢して頂戴。大丈夫よ。住んでいる場所とか身元がわかればすぐに帰れるから」


紅い髪の女の子はそう言うと小さくに微笑んだように見えた。

先ほどからわけのわからないことばかり体験している今の俺にとってはたとえ愛想笑いだったとしても可愛い女の子の笑顔を見る事が出来たという事は励みになる。

どんなにひどい仕打ちを受けても可愛いから許すってやつだ。


動きは拘束され身動きは取れない。

俺が何を言っても無駄きっと何も聞き入れてもらえない。さらにこれからどうなるのかわからないという恐怖もある。


だけど今の俺にとって女の子の言葉は小さな希望だった。


今すぐにとはいかないかもしれないがきっと帰ることが出来る。

女の子はそう言ってくれたのだ。

今の状況が現実なのか夢なのかそれはわからない。確証はないけれど何とかなるような気がした。それに夢ならきっとそのうち覚める。

今は大人しく従っているのが一番良い選択肢なのだろう。


「わかった。今は黙って従うよ」


「そうしてもらえると助かるわ…」


「仝●\%$#¶▽?」


「えぇ、だいたい話は終わりましたよ」


兵士の1人が会話に割り込んできた。相変わらず兵士の方は何を言っているのかわからなかったがおそらく「話はまとまったか?」とかそういう感じの事を言ったのだと思う。


兵士はゆっくりとうなずくと俺の真横に並び肩に手を乗せるとまた何かブツブツと呟き始める。すると、俺と兵士を中心として地面から円形に桃色の光を放ち始めたのだった。

次は何をしようというのだろう?もうどんなことがあっても驚かない自信があった。



「あぁ、そういえばまだ名乗っていなかったわね。私の名前はエステル。エステル・ウェイトよ。泣き虫君」



「なっ泣いてねーよ!俺の名前は宮本和哉だーーー!」


この時の俺の自己紹介がきちんとエステルと名乗る紅い髪の女の子に届いていたかどうかはわからない。


何故なら俺は再び光に飲み込まれて姿を消していたからだ。

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