袂を分かつ。
妹の大きさは元長を少し越えたところまできた。兄弟達の背中の色違いの毛も鮮やかになってきており、体は大きくならないものの確実に成長している。俺に見せてくれないけど兄弟の魔法も強くなっているっぽい。かくゆう俺も魔力の爆発によるブーストに体が少しずつ対応してきており、筋肉痛も回復までの時間も短くなってきている。
ナイフ作りも順調だ。針は8本貯まったし、ナイフも4本出来ている。既にいくつか駄目にしているけど、どんどん持ちが良くなってきている気がするのは気のせいだろうか。
何にせよ、変わりばえのない兄弟+1との生活は幸せであった。
さて、残念ではあるが、この幸せもここまでか……
俺の魔力に対する感覚も随分上がってきていて、纏まった大きな魔力に気づかない訳もなかった。兄弟達は寝静まっている真夜中。俺は一人起きていた。
魔力の源の数までは分からない。けど、覚えがあるものが1つ、いや2つか。
あのときよりも魔力量が増えていると考えて良いだろう。他そこまで大きくない魔力がたくさん。
魔力探知って珍しいのかな。隠している気配が全くない。
彼らは目的地はまず間違いなくここ世界樹だろう。
いや、正確には俺達オオカミか。
これだけ大きい目印なんだ。迷うこともないだろう集中しないとわからなかったけど昼からゆっくり近づいていた。今は休んでいるのか止まっている。焚き火などの灯りが見えないが僅かながら木の焼けた匂いがする。意識しないと分からない程度しかしないので兄弟の誰も気づいてはないだろう。それに、ときどきリザードマンも松明みたいなものを使ったりするので不思議でもない。
母が死んだときから決めていた。次は俺が戦うと。
それが俺が犯した母を見殺しにするという罪への償いにしようと考えていた。
いや、それだけではないか。
パーティーを組んで俺達を狩りに来ているだろう人間と思わしき種族。
まともに戦って勝ち目などないに等しい。作戦を立てようにも兄弟達に伝えることもできないし、一人で出来る訳もない。あの蜘蛛を例外としてこの森で俺達よりも強い敵はいないし、リザードマンやオークの頭などとぶつける案も使えそうにない。
かといってあてもなくここを出ていって雨風を凌げる場所をそう簡単に見つけられるわけもないし、何より兄弟達がここを出るわけがない。母との大切な場所であるし、もし、敵が来たとしても徹底的に戦うつもりであろう。逃げるという選択肢は兄弟達の中にはないことくらい長い時間があれば分かる。
だから、近くに敵が来ているとわかればこちらから打って出ているだろう。
だから、教えない。
だから、俺一人で打って出る。
勿論死ぬつもりなどない。幸い今回は少数精鋭ではなく、かなりの人数がいる。奇襲をかけて出来るだけ多くの負傷者をだし、治療のために撤収させるのが狙いだ。俺もいざと言うときには躊躇なく殺せるとは思うが出来るだけ人を殺したくはないし、その方が成功しやすいと思われるので問題はない。
一気にいって怪我人を一杯出して一目散に逃げる。
それが今回の作戦。
問題は母を殺した二人。何も思わない訳でもないが憎いわけでも、復讐したいわけでもない。それが、自然の中で生きるということなのだから。
だが、彼らは強い。明らかに今まで俺が戦ってきた中で1·2である。
いかに彼らと戦わず攻撃し、逃げるかが勝敗を分けるだろう。
彼ら以外の人間達だって只ではやられてはくれまい。
獣と違い統率の取れた攻撃や防御を去れてしまうと何もできないかもしれない。連携に注意せねば。
魔法に対する秘策は一つあるが、どこまで通用するかわからない。あとは人より利く夜目、嗅覚、動物的本能による直感と身体能力で何処までやれるかわからない。不安が一杯だ。
思っていた以上に強くてただただ殺られるかもしれない。初めから兄弟と一緒に戦っておけば、救える命があったかもしれない。
俺は強く頭を振って迷いをふりきろうとする。
もう決めたんだ。俺の選択が間違っているか分からないけど、兄弟達を危険に巻き込みたくないという、俺の我儘だ。最後まで貫き通す。
そして、暗闇の中一匹の獣が森へ静かに駆け出した。
風は遠くに見える渓谷から世界樹に向かって吹いてきているので回る必要もない。
あと、問題は医療技術がどこまですぐれているのかだ。
魔法によって怪我を治せるのであればどの位まで大丈夫かわからない。やりすぎると見捨てられるかもしれないし、下手するとそのまま治療して世界樹に向かうかもしれない。だから出来ればどの程度怪我の治療が効くのか調べたいが、二度目はないので医療部隊がいればまずそこを叩かなければなるまい。
あとは救援物資。水はすぐそこの川にあるのであまり影響がないだろうが、かなりの人数ならば食料の量もかなり必要となってくるだろう。
さらに出来れば道具類。弓や矢など武器の消耗を増やす。出来れば剣なども折っておきたい。あとファンタジー的に、魔力の消費効率をよくしたり、増幅したりする杖があるかもなのでそれも狙う。
まぁ、武器類は予備以外装備していると思われるので多少厳しいだろう。
あれこれ考えているうちに明りが見えてきた。開けたスペースに簡易テントが四つ。焚き火が二か所で見張りが二人ずつ。
とテントの一つから二人の男が出てきて片方の見張りと入れ替わった。
強い魔力は違うテントに一つずつ。
どうする?
焚き火同士が離れているから片方を強襲すればもう片方に気づかれる。かといってテントの方には布に魔力が感じられ迂闊に手を出すわけにもいかない。
強い奴が出てきたときに襲うか? だが、下手すると襲う前に気づかれてしまうかも知れない。
あぁ、くそ。意気込んで出てきたのにいきなりつまずいた。情けない。
悩んでいたその時、俺の耳が離れた見張りの奴の会話が聞こえているのに気付いた。追い込まれて注意力が鈍っていたらしい。注意せねば。
と心に刻みながら、耳を澄まして見張り達の会話に集中する。
「……たく、なんだって俺達だけで見張りなんだか」
「そういうな。彼らがいなければ依頼を達成出来るわけもないのだから」
「でもよ。嬢ちゃんはともかく、あのクソ坊主は気に食わねぇ。なんであんな奴のために俺達が見張りをせにゃならん」
「少しでも体力を温存するべきと言ったのはお前だろう」
「それは嬢ちゃんであってあのクソ坊主に言ったんじゃねぇ」
「だが、彼の代わりにあの子の壁役が出来るか?」
「……出来ねぇな。だが、むかつくもんはむかつく」
「確かに態度はいいとは言えんがな」
「だろぅ!」
「うるさいぞ。俺たちは見張り中なんだ」
「へいへい、分かってますよ~」
そのあとも会話は続くけど他愛もない話ばっかりである。
だが、偶然にも強い魔力持ちが見張りに出てこないということは分かった。
強い魔力持ちのテントには片方にもう一人片方は一人で寝ているようなので、計11人か。
あと、片方が前衛もう片方が後衛であることもである。狙うなら後衛の嬢ちゃん。つまり女の子の方の強い魔力持ちを狙うべきか。
とりあえず、見張りの4人を制圧しなければ始まらない。
ナイフ二本、針二本が手持ちだがあまり使うわけにもいくまい。慎重に動き始める。
音をたてず、片方の見張り組に近づいていく。すぐそこで見つけた水分を多く含んでいる大きい葉っぱを利用して奇襲をかける。
……おし、いくぞ。
木に登って、焚き火の上に葉っぱを下にして着地する。一瞬で火は消え辺りを暗闇が包む。
「なっ!?」
「がっ!?」
見張りの二人が声をあげるが、首に尻尾を巻きそれぞれ剣と杖を奪う。剣は厳しいけど杖は木でできていたのであっさり折れた。
首に巻かれた尻尾を引きはなそうと両手で掴んで引っ掻いたりするがそんなに強くない。
そのまま二人を持ち上げて盾にして、残り二人にも突撃する。
そこさすがな冒険者? であった。背後でほとんど音もしていないのに立ち上がって剣を抜き、弓を構えている。だが、暗闇で見えているわけではないようで、見張り二人を振り回すと驚き、避けきれずにぶつかり吹っ飛ぶ。
暗闇からいきなりの奇襲だけでなく、それが味方となれば攻撃もできないだろう。
一人は木にぶつかって気を失ったようだ。もう一人弓を持っていた方は茂みに落ちたので急いで追いかける。無論焚き火に葉っぱを乗せながら走る。
そいつは仰向けのまま満身創痍の体で笛を取り出してた。慌ててそいつの胸を踏みぬく。
「がはっ」
肺から空気が抜け声をもらすと、そのまま意識を失った。最初の二人も息ができず意識が朦朧としているようなので、地面に叩きつけてとどめをさす。
あばら骨とか折れているかもしれないが、まだ全員息がある。
弓と矢をまとめて折ってまずは第一段階終了。
だが、テントのなかの人は既に異変に気づいているだろう。
現に魔力が強い人がいる二つのテントには既に動きがある感覚がある。
これは直感であろう。
逃げた方がいい。そう告げているのも分かる。どうする。
その時嫌な感覚がした。魔法の方ではない。動かないと不味いと直感が告げていた。そのまま勢いよく後ろに飛ぶ。すると、テントから一人の少年が飛び出してきて、今までいた場所に剣を縦に叩きつけた。
「ちぃ!」
そのまま振り上げて構え直す。茶色い髪の毛で整った顔立ち、両手で太く大きい剣を持っており、全身柔らかそうな布の服である。
「おい、お前ら!お前らは邪魔なのを退けろ。こいつは俺がやる。」
その少年が叫ぶとのこれにテントから見張りをやっていた。奴らが出てきてあの四人を運んでいく。
「ユノちゃんは治療を、ソウ君援護します。」
「はい」
「はっよく言うぜ」
二人の杖を持った普通サイズの女の子と小さな女の子が出てきて、小さい方が男達に駆けていく。
その子は白い髪で兎のような垂れた大きな耳がついていた。
普通サイズの方が強い魔力持ち。少し長めの黒い髪に聖職者のような白い羽衣を纏っている。
どちらも危険であることにかわりないが、俺の感覚は女の子の方が危ないと判断している。
あぁ、でも少年方がすごいやる気だ。なんか魔力が剣に集まってるし、
こうなったらとる手段は決まってる。
逃げ
ヒュン
嫌な予感がしたんだ。少年がかなりの距離があるなか剣を振るった。逃げようとしていたからすぐ動けたけど、というか動かなくても当たらなかっただろうけど、魔力が軌跡に残って飛んできたんだ。
定番だ。
ただ、目の前で敵が使うなんて冷や汗が出る。
当たらなかったその魔力の塊は後ろの木を切り裂いた。何なの!?
そんなに威力なくていいじゃん。
当たったら致命傷じゃねぇか!!
ただ、この暗闇は俺に味方しているようで狙いが定まってない。まだ逃げ
「シャインフレア」
少女が杖を上につきだすと、杖の先端の丸いところが光だす。
え、なに?魔力練ってなかったよね。
光ったところから水平方向にテニスボール位の光の玉が飛び出し、辺りの木にくっつく。
凄く綺麗で俺はもう泣き出しそうだ。
辺り一体がまるで別空間とかした。
「ナイス」
「先走り過ぎよ」
まずい……どうしよう……
「おらぁぁぁ!」
また剣に魔力が籠ってる。そして今度は突撃した来た。
魔力による肉体強化も掛かってる。かなり速い。だけど俺の瞬発力の方が速い。
降り下ろされる剣を引き付けてかわすが
ズガンッ
!?
降り下ろした剣は地面をえぐった。
1度目は具現化、2度目は威力強化か!?
あまりにもの衝撃に吹っ飛ばされるが、視線にユノという少女が目に入る。
彼女は回復のすべを持っているはずだ。ならダメ元で狙ってみる。
尻尾で持っていた一本の針を放つ。
「!?、へっ、どこ狙って」
「ユノちゃん!?」
「なっ!?」
大量の魔力持ちの少女が叫び気づいたが彼らでは間に合わない。
「っ!?」
ユノは目を見開くが動けなかった。
が、やはり、この二人以外も中々の手練れのようで見張り達の一人が剣を持って立ちふさがる。
やはり防がれ
グサッ
「グッ!?」
剣の腹にぶつかった針はまるで豆腐でも刺すように貫通し、その見張りの人もとっさに避けようとして致命傷ではない。脇腹に刺さってようやく針は止まる。
「「「……」」」
俺と少年少女はその光景を暫し見つめていた。
最初に動いたのは俺だ。
二人から逃げようと反対側へ走り出す。
「あっ待ちやがれ!」
「ソウ君逃がしちゃダメ!」
「わかってら」
女の子が魔力を練り出した。マジでやば
「おるらぁぁ」
また斬撃が飛んできたんだ。今度は正確にだ。
何とか避けるけど明らかにスピードが落ちた。だがこれだけ距離があれば逃げ
とその斬劇がくるくる回ってブーメランみたいに帰ってくる。
られなかった!そんなのあり!? クソッ
真正面に少し斜め上に上がった斬撃が落ちてくる。
バックして避けるけど
「うるらぁぁぁ」
その間に距離を詰めていたソウなる少年の一撃が落ちてくる。
間一髪かわすが追撃は収まらない。ナイフで受けてはダメだと直感が告げているからかわすしかない。
その間にもナイフで攻撃しようと繰り返し、ようやく仰け反る。
「ちっ」
この瞬間を逃さず俺はもう一本の針を投げる。今度は少女に向かってだ。
が、それはソウの左手に突き刺さって止まる。
「いい度胸じゃねぇか。俺様を1度ならず二度も抜こうとするなんて」
血が滴り落ちるなか。針を引っこ抜いてまた構える。
「殺してやるから掛かってこいこのクソ獣が」
その言葉に俺は突進する。
「おっいいね~」
馬鹿言うな。誰がお前なんかに付き合うか。
ソウの間合いに入った瞬間に魔力の爆発で直角近いカーブをする。
「なっ!?」
カウンター狙いだったソウは流石に反応できない。
そのままもう一回使って今度は魔力練ってる少女に突進する。
「させるかっ」
また後ろから斬撃が迫る。俺は跳んで避け木を蹴って飛び掛かるが少女の頬が緩み、俺に寒気走る。
まさか、もう完成して
「轟響け」
まずい!?避けられない!
「ライ」
「グワンッ!」
「え?」
魔方陣らしきものが浮き上がった瞬間に俺は全力で吠えた。
リザードマンで実験済みの秘策である。魔力を乗せて吠えると魔方陣をかき消せるんだ。
だが、魔方陣はリザードマンのときの砕けて消えず、ノイズが走ったように揺れ
「っ!?」
少女が焦ったように手を振ると魔方陣は消えた。
「クソが!」
ソウが叫び斬撃がかえって来るが体を捻り尻尾を振った反動で避ける。そのまま少女に切りかかろうとして、
「ひっ」
!!
ナイフは少女の首の皮一枚切り裂いて止まった。
着地した俺に対してソウが跳びかかって来たので二人から離れるように跳ぶ。
ソウは少女を庇うように立つ。
「リリシャ大丈夫か。」
「え……えぇ、ごめんなさい。驚いたわ」
「こいつ、思ったより強いぞ」
「あれを使うわ。あとは頼むわよ」
「そうか。おう」
リリシャなる少女は杖を振るうと彼女の上に白く光る剣が現われる。
あ……マズ……
何がマズいって魔力を練ってもないし魔方陣も現れてない。
最初の光の玉と同じ発動スピードであの剣は当たったらやばいと感じるからだ。
さらにそれだけでは止まらない2本4本8本16本とどんどん増えていく。
鳥肌がたった。全身に寒気が走る。
彼女の頭上が光で埋め尽くされていく。
その光景に俺は全力で走った。ソウという少年の目の色が明らかに変わってる。そんなところに飛び込むほど俺は愚かではないつもりだ。何より死ぬつもりなっど毛頭ない。
守りに入ったソウは攻撃してこず、どんどん距離が離れる。しかし、嫌な感じか一向に消えない。
そのままつい振り向くと空が光で覆いつくされていた。
リリシャの叫び声が聞こえる。なんて言ったかはわからない。受けなさいと聞こえた気もするが冗談じゃない。それどころではない。光の剣の雨が降り注いでいきた。
木を盾にしたところであっさり折り、直感で二本のナイフを使い弾き、一歩一歩魔力を使って走り続ける。
死にたくない。死にたくない。死にたくない!
走って走って走って走って走って、
先に開けた空間が見えた。水の臭いがする。どうやら渓谷の方に 走っていたようだ。
もう少しと思ったのが行けなかったのだろう。
ゾワリッ
一際大きな悪寒がする。
あっ駄目だ……
世界が回る。強い衝撃でようやく止まった。
何がどうした?
立ち上がろうとして後ろ右足に痛みが走る。足に切り傷があってかなりの血が流れており真っ赤になってる。動かせそうではない。他にも俺の白い毛並みが赤く染まっている。背中にの一撃入ったらしい。それを理解したとき寒くなってきた。
あぁ、このまま死ぬのかな。
そう腕を折りそうになった。でもまだだ。まだ諦めない。どうやら俺は1度決めたことに関して諦めが悪いらしい。生きて兄弟のもとへ帰る。それだけのために片足を引きずって地を這うように歩き出す。
ゆっくり、少しずつ進んでく。
渓谷にでた。足はもう痛くもない。そういえば背中の痛みは最初からなかった。強すぎる痛みに脳がシャットアウトしたのだろうか?人間みたいだな。
それでも鼻は効くらしい。近くに渓谷に架かる細い橋があって、そこから彼らの臭いがした。
ここまで追ってこられればどのみち命はない。こんなところに隠れるところなどない。
なら、ならば、彼らを撤退に少しでも追い込もうじゃないか。
正直思っていたより打撃を与えられなかった。なら、この橋を落とせば追加でダメージにならないだろうか。そんな思いが俺を動かす橋まで這っていって橋をみて困った。色々要り組んでいて近くの縄を落とすだけでは橋が落ちないのだ。
ならばと、橋にのって縄を切っていく。真ん中位まできて後ろに気配を感じた。魔力探知か直感かもはや分からないが、せめてとそいつの方へ向き直った。目が霞んではっきりとは見なかったものの、恐らくソウという少年だろう。
姿形すら見えなかったが、遠くから十字の斬撃が見えるからまず間違いないと思う。
俺はいつも眠るようにくるまり目を閉じた。
楽しかったな~
ほんの2、3年ではあったけど幸せだった。
兄弟は無事生き延びるだろうか。
死んだらまた神に会えるかな?
意識が沈んで朦朧としたなか途端に浮遊感を覚えてから完全に眠りについた。