掟。
結局のところ弟と妹の使った魔法らしき力は使えるようになっていた。まだあのときの魔法ほどではないけれど、弟は他の影を踏むことでその踏んでる位置を固定できる程度になった。落ち葉の影を落ちてくる前に踏んで、落ち葉が空中に止まった時は驚いた。光で影が消えると効果が無くなるし、落ち葉を尻尾で叩いたら半分位の力で落ちた。弟のドヤ顔に思わずビンタしてしまった。悪い。
あとまだ影に潜ることは出来てない。一回出来ているけどその時は気を失っていたようだし道のりは長そう。
妹の力は元が必要なようである。あの時も足元に木の実が落ちていたらしい。八個同時に育てた時とは違い今は一つが精一杯のようだ。また、妹が操るのは植物だけでなく土も可能なようだ。一メートルほど土が盛り上がりその上に飛び乗ってポーズをとっている。ご満悦のようだ。
姉と兄だが、既に魔法らしきものを使っているようだ。
姉は尻尾の先や爪に炎を灯し投げられるようだ。サイズはマッチより一回り大きい程度。怒らせると鼻を炙られるようになったので下手なことが出来なくなりました。
兄は体に電気を帯びることが出来るようだ。毛が電気で逆立って時折毛から毛の間に電気が流れるのが見える。この状態の兄に触れるとバチッと静電気が来る感じで結構痛い。そうすると電気が抜けるのだが水を弾くあの身震いですぐ復活する。も……もふもふが……出来ない……
あまり強いわけでないが俺がまた一番遅れか……
魔力は俺の専売特許じゃ無かったらしい。兄弟が強くなることは嬉しいが俺が兄弟の中で一番がなくなるのは少し悲しい
オオカミにはいくつか掟が存在している。
この世界のオオカミのしかり、オオカミと呼んでよいのか分からないけど俺も生まれながらにして幾つかの掟を知っている。群れでの規則とか移動の基準とか獲物の取り分とかそんなの。
その中に群れ同士が出会ったときのこともある。
群れの長同士が決闘し負けた方が買った方に吸収合併されるというもので、負けた方の長は基本的に追い出される。基本的というのは今まで長を勤めていた方が部下の立場に甘んじることができず自ら出ていく。または、買った方の長が信用できず追い出すといったことで、両者が納得するのであれば負けた方の長も群れに残ることがある。
群れからの離脱は長に追い出される他に、気に食わなければ出ていく。また、番になると群れを離れるなど存在する。
まぁ掟の話はそのくらいで良いだろう。
問題は今その掟が発動していることだ。目の前に真っ白なオオカミの群れ。六匹ほどの群れで一番大きい兄より少し大きいくらいのオオカミが一匹前に出ており、五本の尻尾をぽんぽん地面を叩きながらずしりと座ってる。群れの全員からの魔力はあまり感じないし、あの長に姉や兄が負けるとは思わない。問題はそこではない。何で俺がこの五本のオオカミと対峙してるかだ。
今日も今日で二、三に別れて狩りを行ってた。この群れに俺や弟、妹が出会った訳ではない。兄と姉が出会ったはずで、狩りをしていたところに姉が走ってきて俺を尻尾で掴んで引っ張ってこられた。決闘を見守るという理由ならともかく何故か俺が一人前に出てるんだ!?
兄弟達は後ろで一列に並んでいる。兄はなにか当然だみたいな顔しているし、姉はなにか応援してるみたいだし、弟は余裕で欠伸してる。
唯一妹がオロオロ心配そうにしてる。そうだよな。俺場違いだよな。どう考えても一番強いのは兄であり、長は一番強いオオカミがなるので一番弱い筈の俺が長として前にでるのはおかしいはずだ。
これはあれか? いじめか? いつに負けるようなら追い出すという意思表示か?
いやそういうのとは違うと思うけど……違うよね?
とにかく理由がよく分からない。けど、どちらにしても負けられないことは分かった。
諦めて正面を向き立ち上がると目の前の長も立ち上がる。そのまま姿勢を低くし静かに牙をむく。
はぁ、気が乗らない。だけど、気合い入れなきゃと頭を振って俺も姿勢を下げ、魔力も練っておく。少し卑怯な気もするけど魔力も実力のうちってね。
木が風で揺れ木の葉の擦れる音が広がる。
最初に動いたのは相手の長だ。俺から動く気がなかったので必然的にそうなる。駆ける速さは兄と同程度といったところか、まともにやるには能力的に俺が不利。まぁ、それが分かってたから動かなかったのだけど。ギリギリまで引き付けて飛びかかった瞬間俺は動く。尻尾でバランスをとって兄弟でもとれない姿勢を取れるのは尻尾の多い俺だけだ。相手も不意をつかれ止まることが出来ない。そのまま右前足の付け根で鼻っ柱に体当たりを食らわす。俺はただぶつかっただけだけど、相手がかなりの速さで突撃してきていたので相当なダメージになるだろう。
吹っ飛んだ相手は着地するなりまた飛びかかろうとするが止まり、俺も周りを周り始める。
俺以外が今みたいな方法をとると少しなり体勢を崩しいくらか尻尾が使えなくなる状況になっていただろうが、俺はすでに一番最初の姿勢を相手に向けとっていた。
今度は尻尾も使って特攻を仕掛けてくる。だけど、俺の方が尻尾が多いしそれは悪手だろう。一本一本掴み合いになり、俺に爪を立ててくるが残っている尻尾でそれも止める。そのまま巻き付けた尻尾を引っ張って体勢を崩すと掴み合っている尻尾で持って回す。俺自身も回ってぐるっと回すと、そのまま縦回転に移行し俺の上を通って地面へと叩きつける。
およ? 兄弟のときは手加減していたけど姿勢を持ち直したのに?
鼻を叩かれて平衡感覚が狂っていたのかもしれないし、初めてだったから対処が遅れたのかもしれない。
このまままた振り回わせるけど、今ので倒れてくれるかもしれないので尻尾をとき、少し離れて様子を見る。
……あれ、動かない? そこまで強烈な一撃でも無かっただろうに。
兄弟の方を見ると兄はそのまま、姉はやり過ぎだと怒っているように、弟は眠そうにこちらを眺めて、妹はポカンとしていた。
相手方を見ると5匹の妹がいた。
え? あれ?
叩きつけた相手の長を見ると、あのときの弟のように目を回して気を失っていた。目立った大きな怪我はないので命に別状はなさそう。
ともあれ俺は決闘に勝ったらしい。
決闘からしばらくたちました。
……何故こうなった。
目の前で元長と妹がいがみ合ってる。
なんか元長が子分みたいになってまして、それに張り合った妹と度々喧嘩するんだ。元長は女の子でした。いや、遠目からはわからないって、兄弟は分かるみたいだけど……
これは前世の記憶のせいかな?
動物としての感性や感情が薄いらしい。
あぁ、元長は俺が追い出す筈もないし、なにかなちかれてしまったので度々俺たちの洞窟に来る。
吸収合併といっても俺達の生活にたいした影響もなく、元長のグループは別の巣を近くに確保し、狩り場が被らないよう離れてある。
それでも時々来ては獲物を俺に渡し、構ってくれとアピールする。
それを妹が気にくわないらしく俺の目の前で喧嘩が始まる。もう、妹の体は兄よりほんの少し大きく、それ以前に勝てていなかった元長が負けっぱなし……
となっていたけど、最近では元長が妹に食らいついてきており、魔法で足元を崩されたり、植物で妨害されたりと妹も魔法を使わなければ厳しくなってきているようだ。
決闘のときよりも格段に強くなってるので俺ではもう厳しいかもと、その喧嘩を眺めながらヒヤヒヤしてる日々であるが、それが新しい日常となっていった。
最近の少し短いかな···
あと人でないな···