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もふもふの伝説  作者: タニシ
獣道編
5/24

弟、死す!?

 その日の朝は騒がしかった。

 姉が俺をぺたぺた尻尾で触ったり、兄がうろつきながら吠えたり、弟が謝罪のポーズをやめなかったり、妹がくっついて離れなかったり、反応は色々であるが慌ただしかった。

 明るくなって気が付いたが萎れた世界樹の葉が1枚洞窟の奥に落ちていた。世界樹の葉は生命力が強く、何もしなければ数か月はもつ代物で俺に今巻かれている葉は少なくとも2枚目以降であるということ。少なくとも数日は眠ったままだったのであろう。木の実が落ちていないので一か月はないと思う。

 昨日匂いが嗅げたのは運がよかった。

 彼らを見ているとリザードマンと戦った時の母の反応が被って見えて笑える。

 俺を恨んでいてもおかしくないのに本当に笑える……グスン




 皆が狩りに出かけようとしたとき俺もついていこうとしたら兄弟全員に怒られた。だいぶ傷も癒えてきているのでそこまで足手まといにはならないと思うのだけどな。

 仕方ないので寝床で作業でもしていることにする……


 ゆさゆさ


 ん……いつの間にか寝てしまっていたようだ。日はすでに傾いており、帰って来た妹に起こされる。木の針は一本も出来ていないので結構すぐに寝てしまったらしい。

 何も食べなかったせいか、俺はいつもより多く食べたけどまだ少し足りない。けど兄弟達に止められたし、いきなりあまり食べたらまずいかと思いやめた。

 そんな日々が数日続いた。食べる量は減ってきていつも通りまできたけど動いてないのにこの量は自分でもおかしく感じるけどお腹はすくので食べる。そして、寝る。

 傷の具合もよくなってきていていて完全に治ってないけど以前と同じように動ける。むしろ体が軽く、前より動けるているかも。気がつかなかったけど疲れがたまっていたのであろうか。それが安静にしたおかげて絶好調な状態になっているのだと思う。

 それなのに兄弟達がまだ外に出してくれない。暇で作ってる道具類を削って作るために魔力の扱いの練習も結構できていて大丈夫なのにな……

 仕方ないので大人しく従っていたのだけど…退屈だ!!

 外に出してもらえないのに遊んでもらえる訳もなく。洞窟で出来ることなどすぐなくなり寝ることもし過ぎは辛くなってくる。もう寝てられん。

 今日兄弟達が狩りに行ってる間にこっそり抜け出そうと思う。匂いでばれ怒られるだろうけどこれ以上洞窟に籠っているのも嫌だし、大丈夫と思われれば明日から狩りに同行できるかもしれない。悪化するかもしれないけど。

 とにかく大きな獲物でも取れれば問題ないと思う。


 皆が出た後しばらくしてからこっそり外へ出る。近くに兄弟たちの魔力の反応はない。病み上がりには変わりないのでこの辺だけにしてあまり遠くに行かないようにしようか。

 作成したナイフとアイスピックより一回り大きい枝を持って森に駆け出す。

 さっそく番の一角兎を見つけた。一角兎はその名の通り兎に耳ほどの角がある、それ以外の見た目は野兎

 と同じでたまに一角兎と普通の兎が番になっていることもある。

 一人で狩りをするのは数えるほどしかないので慎重に行くことにする。


 !?

 ガサガサッ


 あっ逃げちゃった……

 まだかなり遠かったのにな。前ならこの半分の距離でも気づかれなかったのになんでだ?

 というか、一角兎は好戦的で気づかれても襲ってくるはずなのだけど?

 少しなまっているのかと思って何度かやってみるけど、全部気づかれる。

 風向きには気をつけているし、音もたてていない。何か他の要因があるのだろうか。

 ……そういえば、母が狩りをするときはほんと何も感じなかったな。

 あれ? なにも? そういやその時って魔力って感じなかったような。やれるかな?

 魔力の扱いは随分上手くなっていると思う。圧縮したり、循環したり使い方によって魔力の動きが変わるから魔力を隠すなら停止させるのかな? 体の外に出ていかないようにするイメージでもってやってみる。

 お? なんか変わった感覚がある。これでもう一回兎を狙って見ようか。

 また見つけた。気づかれないようにじりじりと近づく。さっきより近づけたけど逃げちゃった。何回か練習が必要か。今までこんなことなんてなかったのに何でだろ。まぁ原因は分かったし練習すれば何とかなりそうだからいっか。

 日が傾むくころ、何度か練習してようやく今日一番の距離であとは飛び出すだけまで来た。

 それなのに邪魔が入った。

 遠くから魔力が近づいてくると塊が二つ飛んできた。それに驚いた兎は逃げた。

 塊は猪と豚との中間ぐらいの顔に剣や弓を持って鎧をまとうオー クだった。すでに絶命している。おそらく彼らを吹き飛ばした魔力の主は母より一回り小さいくらいの猪であった。猪はオークを一瞥してきた道を戻ってい……かなかった。

 嘘!? なんで!?

 一端体の向きを反転させて帰ろうとしてのにこっち向いた!!

 そのまま右前脚で地面こすって今にも突進してきそう。なんでかはわからないけど、あまり上手くない隠蔽がばれ狙われているようだからいつでも動けるように体の力を抜き魔力を体に巡らす、無論体の外に出ないように意識しながらだ。

 大きな猪は真っ直ぐ凄い速さで俺に向かってくっるので出来るだけえ引きつけて横に逃げた。猪は木にぶつかって止まったけど、木がへし折れてしまった。あんなの喰らったらひとたまりもないぞ!?

 体は大きいのに俺より速いだろう。巻くのは難しそうだ。このままこいつを洞窟まで引っ張ればなんとかなるだろうけど、帰ってきてるかわからないし絶対すごく怒られる。

 これ以上怒られる原因を作りたくはないのでちょっと怪我してもらって逃げようか。

 また突進してくる猪を今度は尻尾も使って猪を超える高さのジャンプで躱す。さらに下を通過するときに尻尾のナイフで背中を切り裂く。

 猪は木にぶつかって止まるけど諦める様子もなくむしろ怒ってそう。やっぱ狙うなら足か。

 猪はもうむやみに突進してこず、様子を見ている。このまま逃してくれないかな。

 まぁ、そんなわけもなく今度は俺に向かって木を倒してくる。これは避けたところを狙うのかな。猪は突進の体制をとっている。

 なら、ちょっとずるいけど

 魔力をいったん圧縮して爆発させる。すると一瞬だけ飛躍的に身体能力が増幅し猪に向かって飛び出す。木をすれすれで躱して猪が突進をする前に距離を詰める。あっけにとられている猪の足を切って首に噛みつき体を捻って肉を引きちぎる。

 ……あ。

 着地した瞬間にやりすぎたと思う。本能なのかつい噛みついてしまった。これは意識しておかないといけないなと思う。

 ズドンッ

 と猪が倒れる。まだ息はあるけれど魔力が急激に減っている。詳しいことはあまりわからないけど魔力は生命力に少なからず関係があるようなので、もうこの猪は長くはないであろう。俺が殺したのだ。ならばその命に感謝と敬意を込めて喰うのが自然の定めである。

 リザードマンは肉が固く鱗があるため、オークは肉が腐ったように臭いため喰えたものではないけど。この猪は今日初めての、そして俺の復帰初の獲物だ。残さず食べよう。


 持ち上げられないので尻尾で巻いて引きずって帰ると一足先に兄弟達が帰っていたようで洞窟が見えたとたんに弟と妹が飛び出してきた。俺が洞窟にいないから探しに飛び出してきたのだろうけど俺を見つけて驚いていた。手伝ってもらって猪は運んだけど、しっかり凄く怒られたのは言うまでもあるまい。


 次の日ようやく俺も狩りに出かけることが許された。今では兄姉のペアと弟妹ペアに分かれて狩りをしている。獲物の獲得率1位2位である兄と弟は分けるのは当然として、奇襲が得意な兄と探索が得意な姉が組むのが理に適っているであろう。

俺は弟妹達と出ることとなった。妹となら罠を作るペースが早くなるし、弟が獲るには脅かす役が多い方が成功しやすいので当然であるともいえる。

 まぁ、外に出られるなら文句なんてもとからないしね。

 洞窟に戻って食べ終わると兄弟達との遊びも再開した。兄からはまるで病み上がりで調子に乗るな。といわんばかり尻尾で叩かれたけど楽しかった。久しぶりにもふもふも思う存分堪能できたし満足。

 俺の木の針を投げて獲物を捕れるようになってきて、逃しても弟と妹がいる。かなりの率で成功するようになったてきた。


 またそんな日々が続いた。時々リザードマンやオークも倒したけど、もう一人でも危なげなく一個小隊を倒せそう。そんなことしないけどね。

 俺達兄弟の体の成長は止まったようだ。俺は大型犬より少し大きい程度、兄は俺より少し大きめで、弟と姉は俺とほぼ同じくらい。妹は俺より少し小さいくらいだけど兄弟唯一成長が止まっておらず俺と同じか下手をすると兄を超え、母くらいになるのではないかと思っている。


 今日も弟妹と狩りに出た。

 でもその日は森がすごく嫌な感じがした。暗いとは違う、重い感じ。野生の感とでもいうのだろうか。分からないけど警戒するに越したことはないだろう。魔力隠蔽もいつも以上に意識しておく。

外に出て獲物を探すけどなかなか見つからない。弟と妹も次第におかしく感じているようで警戒の色が濃くなってきているのが分かる。あまりに森が静かすぎる。

 獲物は取れなかったけどもう帰ろうと二人に訴えてみると二人とも了承してくれて日が昇り切っていないけど帰ることにした。


 だけど、その判断は遅すぎた。


 俺たちの後ろにいきなり魔力の反応が現われた。


「グァ!?」「ガゥ!?」


 俺はとっさに跳んで避けたけど、弟と妹は飛んできた白い塊にぶつかって痛みに声をあげる。

 白い塊を飛ばしたのは蜘蛛だった。この森で見たことのないあの猪よりも大きな黒い蜘蛛。そいつを見た瞬間凄い寒気がした。こいつは魔力の隠蔽を使っていた。母以外で初めてだったけど、それはいつかあると思っていたから驚きはあってもおかしくはない。そうじゃない。こいつまるで匂いを感じない。魔力も禍々しい感じがして背筋が凍る思いだ。

 弟妹は白い塊、恐らくは糸に捕まって地面に縫い付けられており抜け出そうともがいているけどとてもすぐには無理だ。今回は逃げる訳には行かない。そんな思いが俺を奮い立たせる。

 黒い蜘蛛の魔力が動いた。タイミングを見て横に跳ぶとそれまでいた場所に糸が飛んで着弾した。どうやら糸は魔力で出来ているらしい。そう簡単に切れない訳だ。そのまま俺は蜘蛛に向かって弧を描くように近づき横側をとるけど、8つの脚をばねのように縮めると大きく飛んでいった。その速度は速くまともに走って追いつけないこともないけれど糸を避けながらは難しい。

 隠蔽に使ってた魔力も解く。体が追いつくかわからないけど一気に決めた方がよさそうだ。魔力の圧縮した塊をいくつか作って蜘蛛に対し最短で走る。案の定蜘蛛は糸を飛ばしてくるので魔力を1つはじき斜め前に飛び出して躱す。蜘蛛はまた跳んで逃げようとするけどさせるか。

 更に魔力をはじいて蜘蛛に突っ込む。蜘蛛は糸も間にあわず、俺の爪が蜘蛛の腹を切り裂き、首に木の針を突き刺す。まさに致命傷であるはずである。でも、刺した感覚に違和感を覚えていた。そのままの速度を持って弟達の壁となるよう距離をとる。

 !!

 爪にも針を持っていた尻尾にも返り血がない。蜘蛛の切り傷からも刺したままの針からも血は出ておらず黒い煙が出ているだけである。蜘蛛は倒れることもなくその黒い8つの瞳が俺を見つめたままである。


「グォォォ」


 警戒を解かずに見ていたら雄叫びを上げて崩れるように倒れた。やっぱり致命傷ではあったらしい。


 ふぅ、と緊張をといて一息つく。すごく嫌な感じの奴で生き物と言えるかすらわからないけど何とかなったらしい。とりあえず弟の糸を切ろうと手伝う。粘着性があって引っ張っても切れなかったけど魔力をナイフに込めてみると何とか少しずつなら切れた。


 それが半分くらい切れたころ俺は何かに気づいた弟に突き飛ばされた。

 ドゴンッ

 と大きな音と共に弟のいたところに蜘蛛は落ちてきた。





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