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もふもふの伝説  作者: タニシ
獣道編
4/24

親離れ。

 俺がこの世界に来てもうすぐ1年。というのも暦はわからないけど去年辺り母が離乳食としてであろう持って来た木の実の匂いのする花が咲いているからだ。一年中緑に包まれたこの辺りは季節の変化が分かりずらかったがもうそんなになるのかと思いふけった。

 俺の体は大型犬より少し大きいくらい。兄が一番大きく妹が一番小さいその差は一回り程度、姉、俺、弟はほとんど同じくらい。もう俺たち兄弟だけで狩りに出ても怒られなくなった。姉は耳と鼻で見つけるのがうまく、兄は奇襲がうまく、弟は待ち伏せがうまく、妹は尻尾の扱いがうまい。

 その全てにおいて俺は劣っているのだけど、優っているのもが一つあった。

 それはあの嫌な感覚……恐らくは魔力か何かの検知だ。

 あのリザードマンと戦った日からその感覚は鋭くなった。魔力は兄弟全員にも俺にも感じられた、もちろん母にも。だけど兄弟と違って母の魔力は大きく、そして整っているように感じる。

 そうそう、嫌な感覚は敵意がある時だけで、その他は何となくあるな~と感じる。

 他の兄弟も俺に遅れてわかるようになってきているけどまだまだ俺の方がうまいし、まだ伸びているのでそうそう追いつけないだろう。

 あと魔力検知で分かったことなのだけど、母は堅いもの齧ったり削ったりするときは爪や牙など魔力を集めてるんだ。走るときは足に集まってるし肉体強化にも使えるらしい。俺たちの毛の堅くなったり柔らかくなったりするのも同じ魔力の力で無意識にやってるっぽい。

 俺は今それを意図的にやる練習をしてる。食べた獣の硬い骨とか、世界樹の滅茶苦茶堅い枝とか齧ったり引っ掻いたり、走るときに足に魔力を集めるのも練習中。それで分かったけど、成功した時は尻尾とか鞭みたいにしてみたら近くの木をへし折っちゃった。

 魔力はかなり凄い。どこにでも集められるし色々な効果を使い分けられる。堅くしたり、速くしたり、力を強くしたり。でも速くするだけして堅くも強くもしないと痛いだけなので配分に注意が必要そう。これに魔法とかもあるのだから面白い。ただ魔力は体力のバックアップみたいな役割もあるようなので注意が必要。

 あと、武器の作成。一角兎の角とかあのリザードマンの剣とか使ってるけど数あった方がいいし、魔力の扱いの練習もかねて骨とか枝とかを削って先端を細くしたりナイフみたいのを作ってる。まだあまり上手くはないので使えるくらいの物ができるのはもう少し先になりそう。だけど劣っている俺がこの世界で生き残るためには必要そうなので頑張る。

 それと至福の時間も忘れてはいけない。一日の終わりに兄弟たちとじゃれ合う。時折めんどくさそうにするけど皆いつも誰かが遊んでくれて幸せ。母の機嫌がいいときは兄弟仲良く一緒に母に埋もれて寝る。流石にもうはみ出るけどもふもふしてて幸せ。

 そういえばこの世界でまだ人間って見てないな~って思いつつ俺は眠りについた。


 次の日も兄弟で狩りに来ていた。今回の獲物は母と最初に行った時のあの大きな鼠である。姉が匂いを辿って見つけると、弟は息を殺し俺達と反対側へ回る。俺達も取り囲むように広がり、兄が飛び出すと同時に俺達も飛び出る。兄が捉えられるといいが反応が早く取り逃がしてもまだある。一方向だけ誰も来ていない方向に逃げると息を潜め待ち伏せしていた弟が噛みつく。もしそれで息の根を止められなくてもあとは袋叩きである。俺と妹の出番はほとんどない。

 今回は兄が仕留めた。このやり方でほとんど取り逃がしはしない。

 既にいくつか狩っていたので今日はもう帰ることにした。姉、兄、弟が獲物を持ちかえる。俺と妹はその道の途中に仕掛けた罠を見てくる。

 蔓と大きな石を使った簡単な罠で、足元に仕掛けた小枝を折ると木の上まであげた石が落ち蔓が持ち上がる。あとは自重で蔓が閉まるというものだ。

 いくつか仕掛けたの内一つは野兎が掛かってた。もう一つは壊されてた。兎を捕まえて2つの罠を作り直し兄達と合流、帰るというのがいつもの流れであった。

 その日も何もなくいつもどうり帰った。もう俺達で俺たちの分の食料は十分確保できていた。


そして俺たちは母に追い出された。





 なんてこともなく平和に暮らしている。たまにリザードマンみたいな嫌な奴とか豚の人型、オークとかが出たけどあまり脅威は感じなかった。俺の活躍の場でもあったしね。

 なんで彼らみたいなのが来るのかは分からなかったけど森を壊すような奴らとは戦うまでである。




 世界は理不尽である。そんなの前世で知っていたはずだった。いきなり死ぬことなど当たり前でいつどこに死がが転がっていいるなんてわからないんだって思い知ったはずだった。

 だけど、あまりにも幸福な日々が続いて忘れていた。このまま幸せな日々が続くんだって信じて疑わなかった。


 その日は唐突にやって来た。まだ早朝。辺りはまだ暗く兄弟はまだ寝ていた。俺も寝ていたのに外から来るとてつもない嫌な気配に跳び起きた。母はすでに起きていた。洞窟の出入口の外でそこが塞がるほどの大きな岩を3つの尻尾で持ち上げていた。

 母は驚いたように俺を見ると優しい視線を俺に向けた。

 私が帰ってくるまでここを絶対に開けてはいけないよ。

 俺にはそう言っているように見えた。そしてその意味も分かった。

 俺が頷くと母は嬉しそうに目を細め岩で入り口を閉ざした。俺達がそう簡単に開けられないように固く固く……俺は岩を背にして座った。

 順に兄弟たちが起きてきた。次第に異変に気づく。母がいなく、光がほとんど入ってきていないので当然であろう。

 皆どうすればいいのか慌てだすが、魔力を感じたのであろう。外に出ようと入り口の岩をどかそうとする。俺はそれを押して邪魔する。

 俺の前に4匹が並んで座る。どういうことだと問い詰められている気分だ。でも、俺達に言葉はないし俺は首をただただ横に振ることしかできない。

 彼らは気づいているのだろうか。いや、気づいてはいまい。気づけばもっと慌てているだろう。現に俺は今暗くてよかったと考えている。この世界のオオカミは泣けることを初めて知った。


 ズンッ


 と洞窟まで響く振動に彼らは驚き立ち上がってその場を歩き始める。ただ俺と兄だけは動かず見つめ合っていた。どうやら兄も何か感じ取ったらしい。

 それが外にいる4つの大きな魔力かどうかは分からない。それぞれ一つずつは母より弱いがその総量は母を軽く上回る。


 ズンッ


 一番最初に動いたのは兄だった。母の魔力がガクンと減った瞬間に岩に向かって突進した。当然俺がそれを許すはずもなく俺も体でぶつかる。尻尾が俺に巻き付こうとするが俺の尻尾がそれを阻む。

力押しは兄に軍配があがる。俺は後ろの岩を支えにしてようやく拮抗状態だ。

 他の姉弟達は呆然とそれを見つめえていた。次に状況を理解したのは姉なようで


「グルルッ」


 俺に牙をむいた。兄弟から牙をむかれたことは初めてであり悲しかったが俺もここを通す訳にはいかなかった。

 出入り口の道幅は岩のせいで狭くなっており俺が体を横にすると通れないないくらいになっている。

 姉が俺の首に噛みつく。血が出るが動くわけにはいかない。尻尾で引き離そうとするが兄と姉の尻尾の総数は9本。あっさり防がれてしまう。

 弟と妹はようやく状況を掴めたようであったが、呆然としている。おっとりとした弟に臆病な妹なのでこの結果は分かっていたも同然。でももし襲い掛かってきても俺は諦めずここを守るだけである。


 ズンッ






 何度揺れがあっただろう数える余裕がなかった。

 俺はもう頭から尻尾の先まで血だらけ傷だらけだ。

 もう母の魔力はもう微弱。たいして4つはまだ余裕があるように思えた。

 途中から弟もつっこんできた。彼も俺と同じで母が大好きだからだろう。

 妹は泣いていた。わんわんと泣いていた。

 最初のうちは激しかった攻撃も今では力ない一撃である。

 兄だって泣いていた。

 姉だって泣いていた。

 弟だって泣いていた。

 俺は涙を流しながら満身創痍の体に鞭打って気力で岩の前に立っていた。

 そして……












 母の魔力が消えた。


 生きている限り魔力の反応が消えるまで消費などできない。

 つまりは母は死んだのだ。

 今からでもこの岩をどかして仇を取りに行きたかった。でもそれは母が望んではいない。

 母は俺達に生き残って欲しいのだ。

 だから俺は岩の前を動かない。

 兄弟たちもついに床にへたり込んでしまった。

 怒りを覆い尽くすほどの大きな悲しみに体が動かなくなったのだろう。

 4つの魔力が遠ざかっていくのを確認すると俺はそのまま倒れ意識を失った。


 俺が起きたときすでに夜であった。体には治癒効果のある世界樹の葉が巻かれていた。入り口の岩はすでいどかされており星が見える。

 姉、兄、弟は俺を囲むように寝ており目元はまだ濡れている。

 妹がまだ起きていたようで、俺を見ると目元が潤んでいる。既に他の兄弟より濡れているのにどれ程泣くのであろうか。

 あぁ、俺も死にかけて心配をかけたのかと今思い知る。

 兄達を起こさないように抜け出ると体が痛む。あれだけの傷だ。そうすぐには治らないだろう。

 妹の首に首でこすりつけ、尻尾で頭を撫でる。

 そのまま俺は外に出た。妹も付き添ってくれた。どうしても見ておきたかった。

 そのには母の血の匂いと赤い斑点がたくさん。それと4つの生き物の匂い。

 2つは同じ種族の匂いで残り2つは別種の匂い。

 空は黒く空気は湿っている。明日は雨だろう。そうなればここの匂いも血もなくなりいつも通りの光景に戻ってしまう。だからそうなる前に心に刻み込むように4つの匂いを覚え、母を感じる。

 明日からは頼れる存在なく生きていかねばならない。

 だから、泣くのは今日最後にしよう。


 俺は寄り添ってくれている妹の暖かさを感じながら空を見上げた。






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