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もふもふの伝説  作者: タニシ
獣道編
3/24

初戦闘。

マイペースに続きます。

 俺が兎を殺してからまた日が過ぎた。

 俺たちの体は中型犬くらいになって爪や牙はより鋭利になり、俺ですらあの兎を一撃で仕留められるくらいになった。尻尾の扱いもだいぶましになり物を掴んだりするのはスムーズに出来るようになった。

 もう肉しか食べてないけどそのほとんどが母が持って来たものであってのだが今日ついに母の狩りに同行することとなった。

 兄と姉、弟と妹を分けて連れて行って今日は俺の番。

 まぁ、自覚はしているけど俺が一番劣っているからな。俺も一緒に兎を追いかけるようになったから分かったが、走るのも兄が一番で俺が一番遅い。息を潜めるのも弟が一番うまく俺は言わずもがな……

 俺が勝っているのは尻尾の数くらいなものだ。それも器用というわけでもない。練習しないとな。

 母の背中に乗ってもふもふを堪能しながら洞窟から出る。

 眩しい光に目をつぶった瞬間、沢山の匂いが広がる。俺も腐っても狼らしく草花の匂いだけでどの辺りにその匂いがあるか大体わかる。今や前世の走る速さよりは速く走れるし、本能なのか感覚で足の動かし方から8本尻尾の動かし方まで分かるのだからそれは当然ともいえる。それと匂いだけではない。風の音、鳥の声、沢山集まる音の数々なのに一つ一つ聞き分けられる感覚。それまでにない始めての感覚に感動を覚える。


「クァゥ」


 つい声が漏れた。一瞬母が俺を見たが大丈夫そうと判断したのか一気に速度を上げ、落ちる感覚に襲われる。俺は落ちないよう必死に母の毛に尻尾を絡ませ体を巻き込んで固定する。

っと、いつの間にか母は止まっていた。見上げてみると顎でいままで下って来ていた先をさした。

体の固定を解いて母の目線の先を見ると


「グァ……」


 小さい子犬が外は出たとき驚きの連続というが今まさに俺はその子犬であろう。母の大きさにも驚いたがあれはそれよりももっと大きい。


 そう……まるで……世界樹の木だ。


 幹は母より太く、葉は俺たちより大きいかもしれない。キノコのような形をしたとてつもなくでかい木。

 それは大きな石段の上に立っておりその全てを影で覆っているだろう。

 その石段の中にポツンと小さな穴が見える。あれが俺達の住んでいる洞窟であろうか。


「バゥ!」


 おっ母が吠えた。急いでまた体を固定し、姿勢を低くすると母は森の中へ走り出した。

 俺より太い木々の中、音をほとんどたてぬまま走る抜ける母。かっこいいし本当に凄いと思った。そうなりたいとも思った。

 どこまで走ったのかわらないが急に母は止まった。尻尾でそっと俺をおろし、それで軽く頭を撫でる。

 そして姿勢を低くする母に近くに獲物がいるのかと俺も姿勢を低くし、耳を澄ませ、鼻を研ぎ澄ます。

 そのまま音を立てず息を殺したままの母は、これまで向かっていた方向ににじり寄り始める。

 茂みがあって俺の位置からそっちの方向は見えないので、頭を突っ込みたかったが逃げてしまってはいけないので穴を探す。小さな穴を見つけるとその先には大きな茶色い鼠がいた。見た目が鼠なだけで大きさは俺より二回りは大きい。オオカミになり視力も桁違いによくなっているが、距離は俺が認識できるギリギリほどで、ここから飛び出しても4秒くらいはかかる。

 母が止まった位置から体一つ分前にでたとき、鼠の耳がピクッと反応したように見えた。

 その瞬間母は飛び出した。鼠が驚いてこっちを見ずに急に飛び出す。だが、母はほんの一瞬で距離を詰め飛び出す方向が分かっていたように飛んだ鼠の足が着いた瞬間首を捉えれいた。

 あっさり鼠を持ち上げると鼠はしばらくじたばたして急に大人しくなった。首の骨が折れ絶命したようだった。

 この鼠一つで俺たち兄弟の1日分の食料はあるだろう。本当に母は凄いのだと歓喜した。

 まだまだ驚きがいっぱいだった。俺はこの世界のことを何も知らない。だからこそ面白く思えた。


 そのあとも狩り続いた。最初の獲物は母と分けて食べた。動けるようにいっぱいは食べなかったけど。

 今日はあの鼠が一番の大物であったようで他は小物。尻尾で巻いて持ってかえることになった。俺も兎程度であるが手伝った。

 だいぶ集まったしそろそろ帰るのかな~と思いだしたとき、凄く嫌な匂いがした。

 血の匂いは好きではないけど、本能なのか吐き気がすることはない。でもこれは違う。なにか禍々しく、酷く痛く悲しい匂い。

 母も感じているようでその方向を見つめる目はひどく険しい。だが俺がいるからすぐにいけないと考えているようでもあった。

 俺は尻尾で母の毛を掴んで引っ張った。行こう。俺も連れて行って、と訴えたつもりだった。

 この匂いが何かは分からない。でも良くないものということだけは分かる。

 だから何とかしたいと思った。俺達の住んでいる森にこんな匂いがあるのが嫌だった。

 母は俺の事をじっと見ると俺の体に尻尾がまかれ背中に乗せらせえる。

 振り落とされないようにさっきよりしっかり固定し


「ガァゥ」


 と吠えた。それと同時に母は走り出す。匂いがどんどん強くなる中、先程よりも強くかかる力に必死に耐えしばらくすると少し開けた場所に出るとそこに青い物5つが見えた。

母はそこを通り過ぎ体を反転させてから止まる。すると青い物は3つに減っていた。一つは後ろの木、もう一つは母がくわえていた。そいつは青い鱗に剣や盾、弓を携え皮で出来た服のようなものを纏っていた。

 人型のトカゲ、リザードマンだ。

 正式な種族名は分からないがそれが一番しっくりくる。

 嫌な匂いは彼らからもするが、もとはそこじゃない。じゃあ何処だと周りを見渡すと大きな血だまりがあった。そこには血や骨のみならず肉片まで散らかっており、それはまるでなぶってバラバラにしたようであった。捕食ではなく引きちぎり切り刻まれ無残になった元が何かすらわからなくなった生き物。それがここまで嫌な匂いを出すなど知りはしなかった。

 俺は奴らに対して言いようのない怒りを感じていた。

 リザードマンの剣や足、防具などには血がついており、こいつがやったのは明白であった。

 リザードマンの一体が弓を放つ。母は避けず毛に当たると矢は弾けた。兄弟でもみたが俺の種族は自ら毛を堅くできるらしい。また、強い衝撃を与えると固くなり、それ以上強い衝撃には包み込むようにやわらかくなって身を守る性質がある。

 残り二体が突っ込んでくるが母は静止状態から一気にトップスピードまで加速し噛みつく。

 間一髪避けられたと思ったが母はそいつを踏み抜いた。

 もう一体の突っ込んできていたリザードマンは尻尾に捕まり、握りつぶられ骨が折れて絶命した。

 最後の一体が今度は母の顔に矢を放ったがそれは尻尾ではじかれ、残りの尻尾を叩きつけてリザードマンは息絶えた。

 奴らからはここにいない別個体の同種の匂いが沢山していた。その中に一際強い匂いが一つ混じっている。恐らくボスを中心とした群れであり、その一部隊なだけであったようだ。

 匂いで相手の強さが大体わかるようになってきたらしく、俺より格上であるが母よりは遥かに弱い。俺という足手まといさえなければ殲滅すらできるであろう。

 俺は母からの固定を解いて地面に降りる。随分な高さではあるがこの体であるなら余裕だ。尻尾のうち2本も使って着地すると俺は母に向かって


「グァゥ」


 と吠えた。母は俺のわがままを分かってくれたようで俺に頬ずりしてくる。俺も全身を使ってこすり返す。しばらくもふもふを堪能すると母は少し離れ俺の頭をぽんぽんと尻尾で撫でるように二度触れるとリザードマンが来た方向の沢山のリザードマンの匂いのする方へ疾風となっていった。


 母の戦いを見ることができないのは残念であるが仕方あるまい、俺は母が帰ってくるまでしばらく茂みにでも隠れて待っていよう。と近くの茂みに入ると水の匂いがした。

 近くに川があるようだ。そういえば匂いって水で流れちゃうんだよな。と思ってると嫌な感じがした。

 先程の匂いによるものではない何か流れるような力が俺に向けられているような気がして


「っ!?」


 急にそれが強くなって散ったのでとっさに横に思いっきり飛んだ。

 だけど何もなくてどうやら勘違……

バシャンッ

 俺がつい先ほどまでいた茂みに大きな水の塊が飛んできてその辺りを吹き飛ばす。俺のところまで水飛沫と一緒に小石や枝が飛んでくる。

 その水の塊が飛んでいた方向、つまり後ろを振り返ると緑色のリザードマンがいた。全身ずぶむれで剣と盾それと軽装ながら鉄の鎧をまとってこちらに剣を向けていた。

 俺は内心焦っていた。てっきり5人の部隊だと思っていた。匂いも気づかなかった。こいつらの中には頭のいい隊長格の奴がいたのだ。

 俺の脚であれば逃げられるであろうか。相手は近づいてこない。だけど今のは何だ。この世界初の魔法であろうか。今の見ずに避けた一回は偶然であろう。次はわからない。それに今の魔法がこいつじゃなく、もう一体いるのであれば下手に動くのは不味くはなかろうか。

 目の前のリザードマンから目を離さず耳と鼻で辺りにまだいないか注意を払う。すると


「っ!」


 見える範囲になにも変化はないのになの嫌な感覚がまた始まる。つい先ほどのがまた来る。

 今度は出所がはっきりし目の前のリザードマンから感じる。

それがはっきりこっちを向いたように思うと剣の前に大きな円が浮かび上がってくる。


 これが…魔法!!


 自分が興奮しているのが分かる。それが初めて魔法を見るからか、命の危機に直面しているかかはさだかではないけれど。

そして嫌な感じがまた一際強くなり散る

 その瞬間俺は一気にその射線上から横に離れろように走ったのだけど、


「っ!?」


 リザードマンは剣を俺に追尾させるように向け続け俺めがけ水の塊が発射される。

 間一髪それを避けるが失速してしまっている。それをリザードマンは見越していたようで距離を詰めてくる。

 こうなったら多少はやるしかないか。

 俺に剣が振り下ろされる。それを更に内側その懐に入り尻尾4つで腕を掴み受け止めようとするが非常に重く何とかそれせた程度危なかった。そのままリザードマンに体当たりするが盾で防がれ弾き飛ばされる。だけど俺の狙いはそれでもう4本の尻尾を片足に引っ掻け俺の力も上乗せして引っ張る。


「グェ!?」


 リザードマンは驚きの声を上げるがもう遅い。今度こそおさらばだ。母なら匂いで俺の居場所が分かるはず。とにかく今は逃げなくては。

 っと、後ろでまた嫌な感じがするが弱いままで散る。飛んでくるのは比較的弱いの、なら無理して逃げる。

 そう思っていたのだが奴の狙いは俺ではなくその地面。急に足元が泥に変わり俺の脚が沈んで頭から地面に突っ込んでしまう。

 かなり痛い。

 その間に態勢を立て直したリザードマンがまた剣を振り下ろしてくる。

 まずいまずいまずい!!

 とっさに尻尾全部で地面を押して回避を試みる。間一髪躱してまた最初と同じ状況。

 また嫌な感じがする。これまで一回も俺が優勢になってないどころか何回間一髪だったことか。

 また繰り返されるとまずい。次はそう簡単にこけてくれないだろうし、何かないか。

 辺りを見渡しても最初と変わっているのは立っている場所でしかなくて。


 ……ひとつ思いついた。けどまた危ないし、上手くいくかはわからないけど……やるしかないか。

 俺は魔法が発射されるタイミングに集中する。嫌な感じが散った。

 今!!

 っと先程と同じく横に走り出す。案の定剣は俺を追ってくる。

 間に合え!!

 飛んできた水の玉を何とか回避するがやはり迫ってくるリザードマン。

 まずは一つ!

 先程と同じく更に懐に入り今度は剣を5本で軌道をずらしにかかる。1回目よりやはりやりにくく4本では厳しかったかもしれない。

 2つ!

 そのまま勢いに任せて体当たりと同時に尻尾を足に絡ませる。やはり縦で防がれはじかれるが足を引っ張ても踏んばっているのか。びくともしない。

 よし!

 それもそうであろう。先程より2本少ないのだから。

 最後の一本は後ろにあった。剣も盾も通り抜けてリザードマンの首めがけ大きく孤を描く。

 その先には一本の剣が握られていた。さっき母が倒したリザードマンの剣だ。最初の水玉を避けたときそこに向かって走り掴みとっていた。遠心力も相手の力も使った一撃を放つ


 いっけぇ!!!



 次の瞬間大きな血飛沫をあげた。剣は切断まではいけどとも半分近く切り裂いていた。

 糸が切れた人形のようにゆっくり膝を打ち、崩れていくリザードマンを見て俺はへたり込んでしまった。

 初めての外で初めての命のやりやいをしたのだ。我ながらよく動けた者だ。今更ながら体が震えてきた。こいつを殺したことに少しの嫌悪感があるが後悔はなかった。

 今他の何かに襲われでもしたら何の抵抗も出来ず死んでしまうだろう。


 幸いにも俺は襲われることはなかった。ほんお少しした後血まみれの母が帰って来た。最初は驚いて慌てたが母の血の匂いはしない。無事終わったようである。

 驚いたのは母も同じなようで俺を見た瞬間大慌てで近づいて体をくまなく見られる。そんなにみられると照れるんだけど。尻尾で持ち上げられくるくるくるくる回される。匂いで確認しようよ。


 そのあと川まで行って血を洗い流したら、過保護にもしっかり母に捕まれてゆっくり帰りました。



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