二度目の遭遇。2
途中こちらの様子を何度も伺いながらも、金髪少女はしっかり三匹の魚と木の実を食べきった。
その最中、空中で指を踊らせる仕草をみたが魔力が板状に集まっていることが分かっただけでなにをしているのかさっぱりだった。しかし、警戒は続けていたが敵意も脅威も感じなかったので気にしないことにした。
……もしかしたらウインドウがあるのではと唸ったりなどしていない。
結局彼女はどうしよう。食べ終わるまで護衛っぽいことはしたし、もうお別れでいいのはずなのだが帰ってくれるかわからないし、彼女は今矢を持っていないので肉食動物にまた襲われでもしたら大変だろう。たとえ矢を渡したとしても危ないことには違いないし、せめて街道まで送った方がいいだろうか。
「ごちそうさま」
手を合わせて呟くと立ち上がって俺を一瞥、そのまま踵を返して川の下流へと歩いていく。
あぁ良かった帰ってくれた。
そう思ったのも束の間、彼女が通過する先のところに微かな魔力の反応を感じて、俺は石から飛び降り落下の力も使って飛び出していく。少し魔力も使ったので安定していない地面石が弾け飛ぶ。
少女は真横から飛び出してきた生物に驚くが、ぶつかる前に俺が前足で捕縛、押さえつける。勢い余って少女はの前を通り、少し川に突っ込んでしまった。そいつは牙のはえた猪だ。野生動物は基本皆臆病である。水飲み場である川に来たが、俺がいて出ることを躊躇い近づいてしまった少女に怯えて飛び出して来たのだろう。
じたばたするそいつから前足を退けると一直線に森へ逃げていった。毎度ながら少し悲しい。
川にはそれだけ動物が集まる。仕方がないので街道まで送ることにするか。
少女の方を見ると唖然とし、次第にひきつった笑みを浮かべた。
なんだ、助けたことが可笑しいのか。
そう叫びたかったが、実際俺は狼で彼女が俺を狩りに来ていたのなら笑うしかないのかもしれない。
兎に角先行して俺が歩き出すと少し固まっていたが素直についてきた。
このまま道までついて行こうと思う。思ったのだが……
「はぁ……はぁ……」
まだ半分も過ぎていないのに、少女は既に息が上がっていた。
ペースを考え少し緩めたつもりだったがそれでも速かったらしく、下は歩きにくい岩場なこともあり、さらには対抗心を燃やしてかそのペースに無理に着いてきていたようだ。俺自身足場の影響がほとんどないから気が付かなかったが当たり前だ。そのせいでペースはグンッと落ち、今俺はふり返ってよろよろと歩く彼女を眺めている。
ようやく俺の横までたどり着くともう駄目と言わんばかりに尻餅をついて肩で息をしている。まだ日が高いがこのままでは道に出るまでに日が暮れてしまう。さらに彼女は町まで行かなくてはならないだろうから森の中で一泊することになる。仕方がないので背負うか
「ひゃぁ!」
疲れていたせいか、四本用意した尻尾にあっさり捕まって余裕で軽々持ち上がる。そのまま俺の背中に落とすと、反射的にか俺の背中の毛をグッと掴まれた。
「な、なに!?」
驚いているところ悪いが上半身を起こしていると落ちても知らないぞと言わんばかりに全力で走り出してやる。
「ひやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
戸惑っている間に屈む暇が無くなったのか、後ろに大きくのけ反って絶叫マシーンが如く叫び声をあげる。勿論尻尾で落ちないように支えているが、背中に四本もあれば椅子のようで石を避けて上下左右に大きく動くもう絶叫マシーンと変わらない気がしてきた。
初めは悲鳴が絶えなかったが、すぐ慣れたのか声は聞こえなくなった。
魔力で軽く強化して真っ直ぐ川を下っていくと、少女を背負って重くなってるはずだし風の抵抗もあるはずなのに、前回とほとんど変わらないで橋まで着いてしまった気がする。気のせいかな?
道まで来てまだ日は沈んでいない。少女に降りるよう促そうとふり返ってみると、彼女にはもう意識がなかった。気絶している……
声をあげなくなったのは慣れたのではなく、意識が飛んでいたからであるらしい……
悪いことをしたかも、しかし、起こさなければ暗くなってしまう。
「……ん……ふ……」
……町まで俺が届ければいいか。
そうだ、そうすれば町の人も少しは警戒心を解いてくれるかもしれない。してるかも分からないが、彼女を助けたということで良い方へ印象付けられることに変わりあるまい。今度は少し整った道なので先程より速度を出す必要もないので激しく無理してスピードを出して激しく動く必要もないだろう。
断じて穏やかそうな寝顔を見てしまったからではない。これは俺の為なのだ。
そうしてまた走り出した。
町近づいてきた。町の回りにはでできているらしい壁と門が設置されていた。そこに見張りっぽい人もたっている。道はほぼ直線だ。よって俺の姿はすでに確認されていることだろう。
少女は俺にもたれかかっており、寝息がすごく近い。耳が良いせいでくすぐったい。両足は地面に引きずらないように尻尾で持ち上げており、体がずれて落ちないように四本の尻尾で支えている。はたから見れば1つの変な生き物にでも見えるだろうかと、内心自虐的になる。
結局俺は不安なのだ。狼となり、狼として生きる決意をしたつもりではあったが、もとは人。会話に飢えていたのかもしれないし、その人に敵意を向けられる覚悟も出来ていなかったのかもしれない。
そしてとうとう森を抜ける。あとは平原だけ、町まで目と鼻の先であった。
すると全身に鳥肌が立つような感覚と嫌な感じ。
すぐさま俺は止まり後方へ跳ぶ。
すると真上から俺の体長を超す岩が降ってきて、先程まで俺がいた場所に落ちる。
ドンッと響かせ土煙を上げる。
呆然と眺めているとまた嫌な感じ、正確には更に奥から岩に伸びていくように感じる。
俺、こんなに感知の精度よかったかな?
疑問に感じながら更に下がると伸びた魔力が岩に到達し、岩が砕け散る。幸い離れていたので破片に当たることはなかった。
「ふん、臆病な性格が項をそうしたようだね。」
見張りだと思っていた栗色髪の男が、黒いローブをはためかせ睨みを効かせていた。
「だが、この僕がいる限りこの町には手出しさせないよ」
持っている小さな杖を振るとまた嫌な感覚。それは線となり彼の杖から俺の頭上に広がっているような気がする。先程のは彼の魔法らしい。手洗い歓迎である。
また降ってくるので避ける。まともに当たれば只ではすまない。背中に人が乗っているのに外道な事をする。しかし、攻撃に転じて失敗したり、害のある生物と思われたくもない。
「くっ、やるようだね。ならこれならどうだい」
今度は複数同時、更に連続で落ちてくる、ちょっと危ないが魔力を込めれば問題ない。俺の位置が見えないように落ちてきた岩に隠れながら立ち回る。ドンッドンッと連続で響くなか少女はまだ寝ている。早く起きてこいつを止めてくれないかな。その時、彼の後ろの門が開くと耳が尖った黄色い髪の青年が出てきた。援軍か? 背中の少女に気付いてくれよ。
「このっこの」
「ふんっ」
「ぎゃふっ」
その青年がローブの人をぶん殴ると彼は頭から地面にダイブする。
あっ気付いてくれたのか。
「なにするんですか、ハーミットさん。あんな魔物俺に任せて下さいよ。」
「馬鹿、あれは魔物じゃない、獣が来たらまず俺を呼べと言っただろうが」
理由が少し違った。でもまぁ止めてくれたからよしとしよう。
「だとしても、あんな禍々しい奴敵に決まってますよ」
「俺達がこんな長々話しているのに座って待っているような奴がか」
ハーミットと呼ばれた青年は俺を指す。確かに座って待っているけど新手が来たから様子見してるって考えないのかな。
「それは、そう様子見で」
「それに、あいつはお前を何時でも殺せただろうよ。それだけの力がある奴が攻撃せず避けるだけだったんだ。感謝しろよ。」
俺と同じように考えたローブの人の反論にハーミットが言葉を被せて一喝。
うん、買いかぶり過ぎだって、確かに岩の間を縫って接近は出来ただろうけども。
「で、でも」
「それにあいつには敵意がない。俺の魔法まで信用できないのか」
言葉後がキツくなってきた。優しそうな人が怒るとちょっと怖いよね。
敵意のあるなしを判別する魔法もあるらしい。あれか、魔力が感じるとき嫌な感じがするか否かみたいなものだろうか。
「うっ……わ、分かりました……」
ローブの人は俺を睨んでから門の奥へ消えていった。
「俺の後輩が悪かったね。で、君はなにようでここに来たのかな」
優しそうな笑みを浮かべて俺の前にしゃがんだハーミット。もしかして俺の言葉も分かるかな
「ゴメンね。何を伝えたいのかまでは分からないんだ。こう、身振りとかで教えてくれると有り難い」
絶妙なタイミングだったのだけど、言葉までは分からないのか。残念。
と、思うとハーミットは苦笑する。敵意は分かるらしいし、多少の感情も分かってくれるようでちょっぴり嬉しい。感動してないで何時までも俺の背中では可哀想なので少女をハーミットに差し出す。
「あ、アリス!?」
ハーミットが目を丸くして驚く。彼女はアリスというらしい。うむ、気付いてなかった。そんなに見分けつきにくいか? そこでふと思う、俺がアリスという名の少女を襲ったと思われないかと。実際気絶させたのは俺のせいだし
「ありがとう」
そんな懸念を他所にハーミットは彼女を優しく受け取る。
この人はいい人そう。町に入れてくれないかな。
「ゴメンね、どうやら中の人達が怖がっているみたいだ。」
町の方に目を向けると漂う魔力が揺れている。これが怖がっている状態らしい。
仕方がないので森の方へ向き直る。怖がっている生き物に迂闊に近付いてはいけないのだ。
「僕は何時でもこの町にいるから、また気が向いたらおいで」
離れてしまったハーミットが声を上げる。それに落ち込んだ気持ちが少し楽になった。
「グワンッ」
返事のように一吠えすると俺はまた森へ帰っていった。
もうすぐ日が暮れる。全力で行っても集合場所へは遅れるだろうが、その時の足取りは軽かったように思う。今度は鹿と子熊も連れていこう。
そう思っていた。
その日鹿達は帰ってこなかった。
あかね「すみません。結局二回説明してもらって。」
ユグ「別に構わないけどね。理解してもらえたかな」
あかね「あの子の影響で死後に猶予が出来たんですよね。で、一つ気になることがあるのですが。」
毬「あぁ、私もあるんだけど」
ユグ「なんだい?」
あかね「彼ってなんですか?」
ユグ「えっ?」
毬「えっ?」
あかね「えっ?」




