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もふもふの伝説  作者: タニシ
獣道編
11/24

住みか。

お久しぶりですみません

 日が沈みかかった頃、洞窟をやっと見つけた。

 少し盛り上がった段差の下に斜め下にむかって広がっている鍾乳洞。

 中には十分な広さがあり入り口も問題なし。明かりはないけど輪郭や距離感がわかる程度には見えているので問題ない。

 中に入ると階段のように下に続いている。横も縦もかなりの余裕がる。


 ピチャンッ


 水滴が落ちて音が響く。そこから波紋のように幻想的な淡く青い光が広がる。

 俺が一番下まで降りると足元から波紋が広がる。まるで水の上に立っているようだ。

 音の反響からかなり奥まであるし、新しい動物の臭いが残ってる。何かがここに住んでいる。

 追い出すつもりはないけれど、寝込みを襲われても嫌だしどんな生き物か確認しておきたい。最悪ヤバイ相手であればここには住めないし逃げなきゃならない。

 歩くと足元に波紋が広がるので相手はもう俺を視認しているだろう。

 落ちてくる水滴は不規則で明かりにするには心もとない。初めから真っ暗の中での行動を心がけて置かねばなるまい。初めからそのつもりであったが、光る部分が見えるとそこに目がいってしまうのも事実。

 物が飛んでくることに警戒かな。ここは動かず最初に奇襲した方が有利である。この世界の生き物たちは知恵が回る。人とまではいかないけれど、集団狩の組織立った動きや地形の利用などは普通にしてくる。俺は動かねばならないからじっと奇襲の機会をうかがっていよう。動かなければ俺の目でも認識できない。物を投げようと動いたとき、もしくは飛び掛って奇襲をかけてきたときが勝負である。飛んでいても動いているなら見えるんだ。どんとこい。

 緊張を纏いながらゆっくり奥へ奥へ進む。


 カラン


 振り向くと鹿が興味深そうに地面をつつき、飛んだり跳ねたりしてる。どうやら石を蹴った音らしい。

暢気なものだとその姿を微笑ましく思った。

 体格が同じならじゃれついたのにと思うほど可愛らしかった。

 この世界では元の世界の常識などあまり役立たない。

 動物が人間に近い思考をして感情がしっかりしていたり、本能を理性や感情が上回ったり、体の大きさが異常だったり、生態系が違ったり様々だ。

 尻尾が8本とか、体が6畳ほどの大きさの狼だとか、角のある兎に、巨大な鼠、人型のトカゲや猪、死にたがる鹿と常識が通じない。

 狼の習性で獲物をこすりつけて匂いを付けて自身の匂いを紛らわす、地面に穴を掘って寝る。

 などの事を見たこともしたこともない。匂いなど消す前に速さでもって獲物を瞬殺してしまうし、寝る場所も同じところに毎日戻って来るので穴掘り自体してない。


 鹿を眺め後ろを向きながら歩いたのが悪かった。視界から鹿が消え辺りに大きな波紋が広がって一時的に明るくなった。

 気がついたら俺は壁際に寝転んでいた。そこで、ようやく何が起こったか分かった。

 熊だ。

 気づかず近づいて吹っ飛ばされたらしい。見えなくなったのか、動かないからか既に俺を見ておらず鹿の方に狙いをさだめていた。

 寝転んだまま石を光らせないように体の状態を確認する。

 うん、大丈夫。少し痛いところもあるけど軽い打ち身位。

 熊は鹿にじわりじわり、と近づいていく。摺り足なのか波紋が縦長だ。

 鹿の方は動かない。そりゃそうか、死にたかったはずなのだ。

 なのに……

 なのになんで震えてるんだ。

 死にたかったのじゃないのか。生きることを諦めたのでは無かったのか。

 だから、震えるんじゃない。恐怖の色を瞳に宿すんじゃない。見えないだろうに俺方を何度も見るんじゃない。まとわりついて鬱陶しいと思っていたのに、勝手に死んでも構わないと思っていたはずなのに……

 そのとき、熊が鹿に飛びかかった。逃げればいいものを鹿は全く動かない。小刻みに震えて自らの居場所を示しているだけだ。


 これは違うから、大切な非常食を守るだけで鹿が可哀想になったとかじゃない。少し固めに見えるの毛をまだ堪能していないからであって、鹿がいつ死のうと関係ないから。


 誰に向かってか、心のなかで言い訳が渦巻くなか、地面を思いっきり蹴って魔力も惜しまず熊の前に躍り出た。さっきは油断してたけど踏ん張りと4つの尻尾で体を固定し、両腕をそれぞれ2本の尻尾で押さえ込む。

 熊は唸りを上げて前のめりで両腕の尻尾を振り払おうとしたり、直接噛みつこうとして足掻いている、けど、油断しなければ、なんとか大丈夫。

 そのまま、お返しに壁に向かって放り投げてやった。

 大きな波紋が壁に広がる。俺が壁にぶつかったときより大きいのでかなりの衝撃であったはずである。そのまま俺は向きを変えて元来た道へ走り出した。呆然と固まっている鹿に尻尾を体に巻き付けて走って逃げた。




 もういいかな?

 洞窟を抜けてしばらく適当に走った。もう日は沈んでしまっていて辺りは暗い。俺が今までいたところと比べると背が低く幹が細いうえに木の密集もあまりないからか、世界樹にいたときより暗くない。仕方ないので前の世界の習慣に習って適当に穴でも掘って寝ることにする。

 尻尾で巻いた鹿を放すともう寝ていた。いや、気絶してた。そんなに速かったかな?

  まぁいいや。掘った穴に伏せて寝そべり、尻尾を束ねて体の回りをぐるっと巻いた。尻尾と体の間に鹿も入れた。今日はもうお休み………
























 はい、朝でございます。

 寝てる鹿は置いといて、食べ物を探し出します。ここら辺の生き物っておいしそうな臭いしないだよね。と、魔力探知で臭いがない生き物っぽい何かの方を探し始める。

 そういえば、あの時魔力探知が上手く働いてなかったなと思う。熊には臭いもあったし光る石が関係しているのだろうか。あの熊無理なく倒せただろうけど、もうひとつ臭いがした。それはとても弱弱しくあの熊に似た臭い。だからあの熊を追い出したり食べたりなんかしようとする気が失せちゃった。

 自分自身かなり獣に近づてきているつもりであったが、鹿といい熊といい甘いままであるな。


 カサッカサ


 草木を分ける音がする。

 そこには鹿があせった様子で懸命に何かを探しているようであった。何を探しているなんて明白であるのに。その姿にこのままでもいいかなと思う。


 このままでもいいけどこの先どうしよう。

 現実を忘れていたわけではないけど、自力であの崖を登るなんて無理だし、人と接触するにも襲われそう。せめてコミュニケーションが取れればいいのだけれどこちらの字なども知らない。話すことなどもできない。完全に手詰まりである。

 どうしよう……


 とりあえずは腹ごしらえである。10匹ほど捕まえたところで大分お腹に溜まった。鹿は追って来ながら草を食べてた。この辺りでは食べるものには困らないだろうな。

 鹿は俺が食べるものに興味を持っていたようなのでガラス玉みたいなのをひとつあげた。匂いを嗅いでかじったけど、砕けないようで口に含んでいた。それはいつのまにかなくなっていた。おおかた見ていない時に吐いたのだろうと思う。


 辺りのはあくに歩き回っていると鹿の群れを見つけた。俺は別に隠れていないので向こうもすぐ見つけ瞬間走り出した。一匹が走り出したら全員一気にちりはじめる。俺は鹿の背を押した。群れに戻るなら今が一番よいだろう。鹿がよろよろとバランスを崩したとき俺は上に飛ぶ。振り返った鹿には俺が消えたように映るだろう。しばらく俺を探していたようだが、諦めたのか群れの方へ走っていく。

 これでいい。実際俺といるよりいいはずなのだ。

 走っていく鹿達が見えなくなるまで見届けた。少しだって寂しくなってなんかないさ。本当に……


 無駄に時間を使ってしまった。辺りは大体把握したし、街に行ってみようかな。襲われないようにする手段は思い付かないけど、もしかしたら大丈夫かもしれないし見に行く位なら問題ないだろう。どっちにいったほうがいいかなどの直感は働かないし、とりあえず、その中間位に行きながら考える。


 特に問題なく中間についた。遠く感じていたけれど、道のりが厳しい訳でなく思っていたより早くついた。世界樹の周りってかなり厳しい環境だったことをはじめて知った。

 結局一刻もしないうちについてしまった。ここからさらに一時間の距離で街につく。

 街と街との間には道があった、といっても木を取り除いただけで土がむき出しになっているが。川には石の橋が架かっており、平坦なので渡るのには問題ない。最初に右の荒野の方に使用と思った理由が川を渡るのが面倒~だったので、結局どうしようか悩む。

 う~ん、と悩んで脇の茂みで立ち止まっていると左側から二匹の馬が引いている馬車が見えてきた。今見つかると面倒になる気がしたので息を潜めていることにする。

 通りすぎるのを待ちながら眺めていると何か様子が変なことに気がついた。

 馬の足音、車輪の回る音……だけじゃない。

 もっとたくさんのドスドスとした足音が聞こえる。

 馬車で見えなけれど何かが群れで馬車を追いかけている。なんてテンプレな、別に俺には関係ないのでそのまま動かない。橋に差し掛かった頃そいつは見えた。1m位のサイズでまるでドラゴンのような外見をしていた。トカゲモドキの方が近いかな? 二足歩行で馬車を十数匹で追いかけている。矢や何かの荷物を放っているがほとんど当たっておらず、当たってもダメージは薄いようで遅れてまた追いかけてきている。このままでは追い付かれてしまうだろう。


……どうしよう。


 きっと助けるべきなのだろうけど、俺まで的認定されては敵わない。何より、俺の存在が認知されてしまう。

 馬車は俺の目の前を通過した。トカゲモドキもあとに続き、俺には気付かない。

 そのとき、馬車が石につまずき跳ねた。その拍子に、弓を持って立っていた女の子が落ちた。落ちた!?

 何かのごつく、女の子に似合わない刺が2つ矢を支えるようについている黒く禍々しい弓を持った女の子が勢いよく落ちた!!

 そう理解したときには、もう飛び出してしまった。魔力など惜しまずにだ。

 複数のトカゲモドキは無視して横をすり抜け、女の子に飛び掛かろうとしていた二匹を尻尾で捕らえ、そのまま近場のトカゲモドキに投げつける。他のトカゲモドキは波状で次々襲いかかってくる。そいつらを尻尾で押し返し、投げ飛ばす。何匹かに噛まれ引っ掻かれたけど、尻尾に魔力を籠めて硬くする。それで痛いけれど怪我まではいかない。

 尻尾で足りないほど数が多いので、一匹の首に噛みつき振り回す。

 一度全員弾き飛ばすと何匹かは動かなくなったがバラバラに逃げ出した。俺がくわえていた奴も放り投げて計4匹動かないまま横たわっていた。振り返ると女の子は落ちたときのせいか身体中傷だらけで頭から血が流れていた。気を失っているのか動かない。

 馬車は止まり、何人かの男が馬車から飛び降り鬼気迫る勢いで向かってきた。


 あっこれ駄目なやつだ。


 明らかに敵意剥き出し、直感も危機が迫ってると告げている。

 やはり、飛び出すべきではなかったのかもしれない。でもやってしまったものは仕方ない。

 急いで道を逸れて森の中に紛れた。

 走って走って少し開けたところまでくると止まった。

 追ってくる気配はない。もう、だいぶ、日が傾いてきていた。

 その日は、また何匹か生き物っぽい何かを探して食べて……



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