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もふもふの伝説  作者: タニシ
獣道編
10/24

ここどこ!?

ぷかぷかとした浮遊感。

また、あの何もない空間に来たのだろうか。それとは少し違うような…

まどろみのなか目を開けると光が差し込み眩しい。目を細めてようやく慣れてくる。


……川?


 両側は高い崖になっており、自身は川の中ゆったり揺られている。顎のしたに木の板があってこれのおかげで溺れなかったのだろう。

 全身筋肉痛で、ほとんど動けないので助かった。

 思えば橋を落とそうとしたあのとき必死すぎて間違った選択をしたが、そのおかげで生きている。


 この川何処まで続くのだろうか。


 両側の崖は例え全快であっても登れそうではない。であれば、登れるところまで流されるしかないが、狩りに行くときは基本的に上流にいく。リザードマンと最初に戦ったのもそこだ。

 今この川の深さは俺の尻尾がぎりぎり底に届く程でありかなり深い。

 ソウやリリシャなるパーティーは撤退しただろうか。兄弟の安否が気になるところだが今は自分のことを何とかしなくては。


 ……と、いっても動けないし暇だな~

 あまり動くと板から落ちかねないし、体は水で冷たいのにじっとしてなきゃいけないのは辛いな。動けても何も出来なさそうなのだけど。


 日は随分高くなり俺に陽射しが当たる。

 顔が暑い。

 いつまでこうしていればいいのか……

 水面が眩しいので目を閉じているが、寝るわけにもいかない。


 ん……心なしか流れが速くなっているような……

 あれ、定番からいくとこれって……

 眩しさに耐えながら目を開けると、先には森が開けていた。


 あ……川……ない……


 やっぱりこうなるのか、折角拾った命なのになにこの高さ。死ぬって凄く遠くまでみえるもん、死ぬ、死んじゃう、ダメだって!


 なんとかしようにも無慈悲にも体は動かない。動けたところで無駄な足掻きではあったが。


 あ、ダメ、死ぬ死ぬ死ぬ死んじゃう。あ、あぁ、あああぁぁぁぁぁ


 水より重い俺は慣性で水より遠くに飛ぶ。

 滝から飛び出し、宙に舞い、またいつもの浮遊感。


 あぁ、空が綺麗だな~


 ビシャーン


 水面に何か大きなものが落ちた音と同時に俺は意識失った。




















「グル……」

 あ~つい声が出た。いつもの鳴き声であるけれど。

 どうやらまだ生きているらしい。でも、まだ体のあちこちが痛い。

 俺は川の端に打ち上げられていた。陸続きになっている川は川幅が広くなっている。それにかなり深そうである。辺りは木だらけでか川がなければ僅かな木漏れ日しか入らないであろう場所である。その隙間から崖は見えるけど滝は見えない。


 よく生きていたな……俺……


 前世ではあっさり死んだというのに、オオカミになってから何度死にかけただろう。それでも生きているのは悪運が強かったのか、思い返してみても死んでもおかしくないことがちらほら。

 ……気を付けよう

 気を付けても無駄なものもあるだろうが無駄に危険に突っ込まないと固く誓う。

 っとそこで俺に向かっている視線に気がついた。それもたくさんの。辺りは木々が生い茂り人の手が全く入っていないよう。

 視線の主はここの生き物たち。鹿とかリスとか鳥とか、川の反対側にもちらほらと。

 かなりの距離をとってはいるが、逃げ出す気配はない。

 警戒心薄すぎないか?

 野うさぎなんてどれだけ遠くても姿を見た瞬間身を隠し逃げていくし、不自然な物音ひとつで跳び跳ねるんだぞ。

 そのままゆっくり立ち上がって犬のように体を震って残ってる水気を飛ばすと


「グワンッ」


 一発吠えてやった。お腹は空いていたけどこのまま襲って食べるのも気が引けたからだ。

 鳥は鳴き声をあげて飛び立ち動物たちも逃げていく。これでよし。心配してくれていたかもしれないが、そんなこと考えていたら肉が食えなくなる。


 あれ、そういえば、足怪我しなかったっけ?


 俺が立っても違和感がなかったからすぐに気づかなかった。みても既に傷は塞がっており、少し毛が薄い部分があるだけだ。


 なんでだ?


 だが、その疑問を忘れてしまう。

 俺の目の前に一匹の鹿が何かをくわえてゆっくり歩いてきた。とても小柄で俺より半分以下位しかなく、背中は茶色の毛に覆われており所々白の斑点がある。角はない。身体中に怪我の跡がありボロボロである。その目は光が籠っておらず、まるで世界に絶望し死を望んでいるようであった。

 さて、困った。確かに空腹でもあるが、これは気が進まない。生きるために生き物を殺すのであれば、生きる希望のないこいつを食ってやるのが正しい。正しい筈だが気にくわない。それは俺のエゴであり、良心という名の偽善的感情である。


 その鹿はピタリと急に止まった。そしてくわえていた何か…ってこれ世界樹の葉じゃないか。川に乗ってここまできたのか。かなり川と世界樹は離れていたのに珍しい…のかな?これに治癒効果があるのを分かっていそうである。

 鹿は葉から一歩離れてその場に座り込み、目をつむった。


……よし、決めた。


 俺は尻尾で葉を掴んで持ち上げ、前へ歩き出した。

そしてそのまま……鹿を……



 ぶん殴った。尻尾で。



 手加減はしたけど、鹿は軽く上に跳ね頭から落ちた。まぁ、死にはしない。

 さぁて、川の上流まで行くか。

 崖で見えないけど登れば世界樹で大体場所は分かるだろうし、近づいて行けばいいか。

 スクッ

 どうやって登るかが問題か。あの高さは俺には絶対無理。

 川の両側にあった崖ですら登れないのに。体感から50m以上はあるんじゃね。

 トテトテ

 兄弟達は無事だろうか。何となく大丈夫な気がするけど心配だ。

 今既に終えて要るのだろうか。戦ったのかな。帰ってくれたのかな。

 グリグリ

 って日が昇ってきてる!?ってことは落ちてから一晩は眠ってたってことか。

 タッタッ

 とりあえず、背の高い木に登って見るか。道の確認、遠回りすれば登れるかもしれないからと、もしかしたら世界樹が見えるかもしれないからだ。それで大体距離が分かる。

 ドン

 そこで初めて俺は歩くのを止めて鹿を見た。頭を擦り付けたり、体当たりしてきたりと忙しい奴である。まぁ、その体当たりで微動だにしない俺に対し、頭から突っ込んできた鹿は反動で跳ねて気を失ってる。


 無視して手近な木に登る。高さ、太さは住んでいたところの周りの木の半分以下、幹に爪を立てられるし枝も足場に出来るので5m位は余裕。魔力使えばひとっ飛び出来るかどうかなので落ちても問題ない。


 木を登ると滝が見える。かなり離れているので随分流されていたようだ。視力のあがっている俺でも崖は端が見えない。反対側は……あれ、あそこにも滝?


 ま、まさか、


 視線を滝ではなく森へ向ける最悪の予想が当たっていないことを願ったけれど、この世界に来てから嫌な予想ほどよく当たる。

 足元に流れている川は途中で二手に別れている。それはつまり、遠くに見える滝のどちらにも可能性がある。ということに他ならなかった。


 頭を抱えたくなったが落ち込んでいても仕方がないと頭を振って気をとりなおす。

 まずは目の前の問題からどうにかしなければ。

 崖どうやって登ろう。

 崖を登れれば世界樹が見えるかも知れない。

 そうなれば迷うことはなくなる。

 ならば崖に沿って端までいってみようか。

 食料が不安だし、あの蜘蛛以上の何かがいれば生き残れるかわからない。人と出会っても不味いか。

 何か意思疏通が出来るようになった方が便利か。それがあのとき出来ていれば結果は変わったのだろうか……

 あぁ、ダメダメ。とにかく今はこれからどうするか考えよう。

 あの崖本当に端が有るのかな。ファンタジー世界の地理など微塵もわからないので徒労に終わるかもしれない。ならどうしよう……う~……


 ピヨピヨ


 尻尾になにかの感触があって目を向けると、そこには鳥の巣があり、雛が尻尾をつついていた。

 俺のこうやって母に遊んで貰ったな~と、しばらく尻尾を動かして雛の相手をする。


 あ、そうだ。飛べば良いじゃん。


 ここはファンタジー世界である。俺を乗せて飛ぶ鳥もいよう。それにはコミュニケーションの手段がいるか。何処に要るだろうか大きな鳥。飛んでるところ見たことないしいるかわからないが。あ、途端に不安になってきた。いるかな?

 そうだ、なにも鳥じゃなくても良いじゃん。危ないけど竜もいるかも、なら人だって飛行船あるかも。なくても崖を登る手段をもっているかも。

 どれもコミュニケーションがいる。文字は分からないし…そういう魔法とかないかな。

 魔法を調べるなら人里に行かなくてはいかない。でもむやみに行けば攻撃されかねない。


 とりあえず仕方ないので拠点をどこかに決めよう。野宿でも大丈夫なのだけど洞窟があればいいな。木の幹はこのサイズでは期待できないし、どこかにないかな。


 崖以外の方にも目を向けいい場所を探す。

 そこで、ん? と目を凝らす。遠く開けた平原に小さく小さく人工的な木の建物と思わしき集まりを見つける。森を挟んで反対側にも荒野にわずかながら建物が見える。

 ここに人の痕跡がないので困っていたが、案外近くにあるらしい。丁度その中間くらいなのでどちらか適当に選んで行ってみようか。

 川を渡るのが面倒なので荒野の方にするとして、俺が近づいたら襲撃されたと思われそう。

 あぁ、もどかしい。

 堂々巡りなので、俺は拠点を探しに木を下りる。

 起きて俺を探していたらしい鹿が驚いてひっくり返ったけど、そのまま今度は川を下るように歩き始める。










 しばらく歩くと少し急になり流れの速く小さな滝になっていた。一部水が白く見えるほどである。そこにある段差を降りると足元は土や草から石に変わった。足元が危なっかしいが先程の鹿も依然ついてくる。結構な距離を早足で来たためか、鹿の息があがっており、耳を澄ますと心拍も聞こえ明らかに上がっている。

 なんで俺が鹿を心配してるんだろう、こいつは死にたがっているのに。そもそもなんで俺にこだわるのか。他にも捕食者はいるだろうし、川だってあって死ぬだけならどうとでも出来るはずである。

なにか裏があるのかな……どのみちあの鹿を俺自身が喰うことはないな。

 再度無視することに決めて辺りを見渡す。今まで探していたけれど見つからないものである。

 洞穴とかないかな。

 木の太さはそこの鹿より細く、木の根の穴は期待できない。俺の体で余裕があるほどの穴などそうないので仕方がないが、鍾乳洞のひとつやふたつあってもいいだろうに。

 既に日が傾いてきている。出来れば日が落ちる前に見つけたかったのだけど町がはっきり見えるまで近づいてきている。

 かなり古いものではあるが加工した革、人の痕跡も見つけた。

 これ以上無策のまま人里まで行くのは危険だろう。

 野宿は覚悟しておいて食料調達しないとな。ついてくる鹿は嫌だし、さっさと捕まえますか。











 嗅覚と魔力探知で探したけれど小さい生き物ばっかり、鼠も前世で知ってるサイズ。

 それに、直感か美味しそうに見えない。嗅覚でもある程度分かるけれど前のところに比べるとおいしそうな匂いではないかな。そもそもどういう原理かわからないけど

 それでも食べないとお腹がすくので何か獲らないとな……何がいいだろう。

 と思っていたら匂いのない鼠を見つけた。捕まえて食べる。

 肉はやはり味がしないけど飲み込んだ。それと体内から丸いガラスの破片みたいなものがでてきてそれは美味しかった。結局魔力を探知して全く同じ魔力の鼠を10匹以上捕まえた。味のしない肉も食べているから今日はもういいや。

 何処か寝やすいとこないかとまた辺りを散策しだす。








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