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村人始めました

俺は硬いベットの上で藁の天井を見つめていた。

ここは、村の中心の広場で一日中立ち尽くしていた俺にこの村の村長さんが与えてくれたものだ。

小さな村なだけあり、情報の伝達が早いうえに村人たちは優しかった。


「何があったかは存じませんが、そんなところにずっといては体を壊しますぞ? せめて風だけでもしのげる場所に移りませんか?」


村長さんに声をかけられたとき思わず俺は泣いてしまった。

その後、気持ちの整理や現状の把握などに二週間ほどかかり、ようやくこれが現実なのだと言うことを認めることができた。

もっとも、何もせずにここにいるだけというのが堪えられなかったという理由もある。

何もせずにここにいても一生、元の世界に戻ることはかなわないのだ。

それならば多少なりとも足掻くしかない。


まず最初に俺が行ったことはステータスの確認だった。

種族やスキル、性別や武器適性なんかを知りたかった。

あまりにひどいステータスの場合は最悪、この村に骨を埋めることになるかもしれない。

元の世界には戻りたいが死ぬのはゴメンだ。

死ぬ思いをして元の世界に戻るくらいならば、俺はこの世界で生き抜く。

可能なら帰りたいけど。


はやる鼓動を抑えながら、ステータス画面を開こうと試みるが、どうすればステータスを見れるのかがわからない。

なにせ、チュートリアルすらないのだ、細かい操作方法を知っているわけがない。

とりあえず、「ステータス画面でろ!」と念じてみるも変化はなし。

ポケットがアイテムボックスのようなものになっているかと思いポケットをさぐるがいたって普通のポケットだった。

ポケットの中に紙切れが入っており、それを引っ張り出す。


とりあえず眺めること数分。

わかったことはこれが「リアライズペーパー」というアイテムということだ。

なぜかはわからないが、これはそういうものだと俺は認識していた。

そのまま額にリアライズペーパーを押し当て使用する。

すると、リアライズペーパーが輝きだし、俺の手にはA4サイズの紙が握られていた。


ケイ=ハヤシ(18歳・男)

level:2

---status---

HP:83

STR:15(-5)

DEX:14

VIT:25(+15)

INT:10(-3)

AGI:15

MND:25(+15)

LUK:14(+30)


---skill---

博愛主義: 攻撃系ステータスが微低下、防御系ステータスが増加。レベル上昇で効果UP

隣人愛: キャラクターに好印象を与えやすく。キャラクターの友好度に上方補正

不殺の誓い: どんなことがあっても生物は殺さないという硬い信条。生命のある者への殺傷不可

超幸運: 生まれ持った体質、または才能。LUKが大幅増加レベル上昇にともない増加量も上がる

アイテム鑑定: マジックアイテムの場合、一目見ただけで効果や使用方法がわかる。武器や装飾品は含まれない。

剣技術1(0/100)

盾技術1(0/100)


紙に書かれていたのは、俺のステータスだった。

ケイ=ハヤシっていうのは俺の名前だ。

男でよかった、女とかになってたら精神衛生上よろしくない。

名前が名前なだけに女になってもおかしくなかったから安心も大きい。


そして明らかに防御寄りなステータスに不殺の誓いとかいうハズレスキル。

モンスター倒せないとかレベルの上げようがない。

だけどなんかレベル上がってるな……なにかしたっけ?

アイテム鑑定はありがたいけど、武器や装飾品はわからないのか……こう、なんというか、かゆいところに手が届かない感じがもどかしい。

剣技術と盾技術ってのは剣と盾の適性があるってことでいいのかな。

横の数字は熟練度か……


「とにかく、村人のみんなにお世話になってばかりじゃいけないな!」


声に出し気合を入れる。

考えたら喋ったのは久しぶりかも知れない。

村人が食料を分けてくれた時も頭下げただけだったし。

俺、すごい嫌な奴じゃないか。


「畑つくって耕して、種をもらってきて育てるか。農具も借りなきゃな……」


なんやかんやでお世話になってばかりで村長さんをはじめ、村人の皆さんには頭が上がらない。

俺は家を出ると真っ直ぐに村長の家へと向かった。

道中(村長の家まで徒歩5分もかからないが)村人立ちに声をかけられる。


「あら! ようやく家から出てきたのかい!」


「おはようございます。たまには日差しを浴びるのも気持ちいでしょう?」


「ヒキコモリのにーちゃんがでてきたー」


「おう、何かあったらなんでも言えよな! なーに、二週間も村にいたらあんたもここの村人さ!」


現実世界なら2週間もひきこもれば多分大半には見捨てられるだろう。

だが、ここの人たちは見捨てるどころかあたかかく受け入れてくれる。

嬉しくもすこし、くすぐったい気持ちになりながら俺も挨拶を返しながら村長の家へと向かった。


「おー、これはこれは旅人さん。ご気分はいかがですかな?」


「ええ、ようやく気持ちの整理がつきました」


「それはよかった。うちの娘も旅人さんを心配しておりましてな。喜ぶことでしょう」


微笑む村長さんに思わずお父さんと言いたくなったが堪える。

俺の本当の父親はここまで優しくはない。

村長さんには「リリミア」という名前の娘さんがいる。


俺が引きこもっている時にも何度か食料を届けに来てくれた可愛らしい子だ。

俺とだいたい同じくらいの年齢で、引きこもりの俺とは違い村長さんの手伝いや村の子供の遊び相手などをしているいい娘だ。


「ははは、俺なんかを心配していただいて、なんだか悪いな……」


「そう自分を卑下になさらんでください。だれでもつまずき止まることはあります。肝心なのは、そこから再び進めるかどうかということですぞ?」


「そう言ってもらえると、助かります」


なんだ、この人格者は。

これが村の代表ということか……

まだまだ老人とは言い難い年にも関わらず、その貫禄は熟練の賢者にすらも匹敵する(個人の見解です)。


「それで、本日はどのような用で?」


「ああ、このままでいるわけにもいかないので、せめて自給自足をしようかと。家まで貸してもらっておいて悪いのですが、可能でしたら農具と野菜の種をわけていただけませんかね?」


「おお、それならば先日農具を買い換えて処分に困っていた古い農具を差し上げましょう。種は……そうですな、いくつか残っていた種芋をお持ちくだされ」


「助かります。感謝してもしきれません……」


「なに、小さく寂れた村ゆえ、若者が一人増えるだけで活気がつくのです。よかったら娘とも遊んでやってくだされ。だいたい年の同じ旅人さんとなら話も合うでしょう。あの娘は何かと苦労をかけておりましてな」


「その程度でしたら、喜んで。こちらからお願いしたいくらいです」


笑顔で答え、村長さんが持ってきてくれた農具と種芋を片手に俺は家へと戻っていく。

道中、また村人たちに話しかけられた。

こういう何気ないやり取りがとても楽しく感じられた。


「まずは、掃除しなきゃな……」


目の前の畑には小石や雑草、木切れなどの雑物が散乱している。

掘り起こせば更に出てくるかもしれない。

目に付く範囲から取り除いていき、畑の外へと放り投げる。


その後、土を掘り起こし再び出てきた雑物を取り除く。

何回か繰り返すうちに雑物はなくなり、畑も起こすことができた。

こうなると後は種芋を植えるだけだ。

少なくとも小学校の時授業でやったのはここまでだ、多分育つ、多分。

種芋を植えたあと、井戸から組んできた水を畑にぶちまける。


「意外と汗かくな……革の鎧より布の服だな」


革の鎧を脱ぎ、これまた村長からもらった布の服を着用する。

何着もあるので洗濯するときも裸で過ごす事態にはならない。


「剣も邪魔だな。畑仕事の時は家においておこう」


旅人というよりはもはや完全に村人である。

農具を片手に畑を耕し、労働の汗をかく。

満たされる思いにそれでいいのかと疑問も湧き上がるが、現状どうすることもできないので仕方ない。

労働の後の一杯(水)を喉に流し込むと、何やら村人の話声が聞こえてきた。


「リリミアが朝に薬草を取りに行ったきり帰ってこないんだがいくらなんでも遅すぎないか?」


「あの娘、夢中になると周りが見えなくなるから……」


「おいおい、今はボアの繁殖期だぞ? 何かあったらどうするんだ?」


「いつも行ってる道だから大丈夫って言ってたんだよ」


「バカ! それでも一人くらいはついて行かせろよ!」


「お、俺に言うなよ!」


次第に激しく口論に村人たちからリリミアが大切に思われていることが伺える。

これは、いろいろと世話を焼いてくれた村の人たちに対する恩返しになるのではないだろうか。


「俺が様子を見てきましょうか? ちょうど、外に行く予定もありますし」


薬草が取れると聞いたからにはいくつかストックしておきたいというのも本音だが、俺としてもリリミアが心配だ。

それにどの程度は魔物と渡り合えるかというのも気になっている。

死にたくはないが、最初の村のすぐ外にいるスライムみたいなやつに負ける訳はないだろう。

まぁ、スライムではなくボアという猪型の魔物だが。


「おお、それは助かる」


「引きこもってたのを怪我の言い訳にするなよ?」


「はは、腐っても旅人ですから」


旅人の前に異世界からの、という前置詞はつくけどね。

そうなると俺が行ってもまったく意味がないんじゃ……いや、村人が行くよりはいいだろう。

念のため再び革の鎧を着用し、剣を腰に携える。

笑顔で村人と声を交わし、俺は村の外へと向かって歩き出した。


「なんというか、現実なんだよね」


目の前に広がっているのは広大な草原。

真ん中には人の通る道こそあるがそこを歩いていても魔物に襲われる時は襲われるだろう。

草木の香りが幼い時によく行ったばあちゃんの家がある田舎を思い出させる。

ばぁちゃん、元気かな……


「よし、とりあえず村人からもらった薬草の群生地は……道なりに進んで左か」


しかし、のどかなもので周りを闊歩している魔物はこちらに見向きもしない。

ウサギのような魔物の「ラヴィ」やシカのような魔物の「ホーン」などが目に付く。

どうやら猪のような魔物の「ボア」は薬草の群生地まで行かなければいないらしい。


「しかし……のどかだ」


散策気分で歩いていると、分かれ道にぶつかった。

人の足により踏み固められ、道のようになっているここで、左に曲がるのだろう。

そのまま左に曲がり、森のようになっている木々の中へと入っていく。

しばらく歩くと、少しずつとボアが目につくようになってくる。

どうやら草が餌らしく、そこらの草を食べていた。

猪って草食なのだろうかと疑問に思いつつ先を目指す。


「おお、これは……」


森のような木々を抜けると泉にたどり着いた。

巨大な木が一本たっており、その後ろには泉がある。

薬草はその木の下に生えているらしく、そこには俺と同じくらいの年齢の女性が座っていた。

リリミアだ。

そう思い声をかけようとしたとき、俺の横をなにかがすごい勢いで駆け抜けた。


「に、逃げろ!」


俺はそれを認識すると同時に声を張り上げ叫んだ。

ここからは距離がある。

リリミアは自分の方に走ってくるボアに気がつくとすぐにその場を離れる。

だが、それを追うようにボアは方向転換を行う。


「リリミアを狙っている!?」


そうとしか思えない行動に焦りが生じる。

どうやって動きを止めるかを考え、一つに答えにたどり着く。

腰から剣を抜くと間髪入れずにボアめがけてぶん投げる。

剣はくるくると回転しながら進みやがて前を走るボアの尻に深く突き刺さる。


「ンッグォオオオオオオオオ!」


叫び声をあげ、その場で高く前足を上げ暴れるボア。

そのまま尻から剣を抜き取り二度斬りつけ、距離をとる。


「ブモォオオオオオオオオオオオオ!」


ターゲットが完全に俺にに変わり、ボアはしっかと俺を見据える。

そのまま勢いよくこちらめがけて突進を繰り出す。


それを右によけ斬りつけ、突き刺そうとしたとき、俺の腕が動かなくなる。

どうやらもう一度でも斬りつけるとこのボアは息絶えるらしい。

不殺誓いが発動し、俺の動きを鈍らせる。

その隙を見逃すわけがなくボアは俺に後ろ蹴りをする。

鈍い痛みを腕に感じながら、俺は距離をとる。

殺すのがダメならば気絶させるしかない。

そう思い建を強く握りこんだとき、俺の股の下を小さいボアが駆け抜ける。


「……うり坊?」


それはボアの子供だった。

俺の後ろから来たということはリリミアがうり坊と遊んでたりしたのだろうか。


「モォオオオウ……」


戦意をなくしたようにボアは子供と一緒にその場を去っていく。

残ったのは腕の痛みと案外戦えていたという経験だけである。


「だ、大丈夫ですか!? 薬草を摘んでいたらボアの子供が来て、可愛くてつい遊んでたら……っていけない、治療しなきゃ」


そう言ってリリミアは摘んでいた薬草を俺の傷口に押し当てそのの上から水をかける。

痛みが多少和らぐが、傷口は完全にはふさがらない。


「薬草のままではやはり効果が低い……ごめんなさい」


「加工すれば効果は上がるのか?」


「えっ? ええ……ポーションとかにできるなら傷なんてすぐに塞がるわ。製法とかはわからないので、私たちにはできないけれど」


旅人なのにそんなことも知らないの?

とでも言いたげな視線が痛い。

この話題は切り上げることにしよう。


「そうか。とりあえず無事で良かったよ。村の人たちが心配してたよ」


「ごめんなさい……私、夢中になると周りが見えなくなって……」


「うり坊……あー、ボアの子供に手を出したら危険って知らなかったのか?」


「村の周辺の魔物ってこちらからなにかしなければ襲いかかってこないから……その、ボアはたまに襲ってくるから危険とは言われていたのだけれど、子供だし、大丈夫かなって……」


「逆だ。子供に手を出したら親のボアが黙っていない。子供を守ろうと死ぬ気で襲いかかってくる。繁殖期らしいし、気もたっているんじゃないかな」


実際の猪はうり坊に手を出そうものならば全力で子供を守ろうとするからな。

それはボアも同じだったらしい。


「旅人さんは物知りね! ボアの子供を見つけても我慢して関わらないようにしなきゃ」


リリミアは残念そうにそう言うが、それで怪我をしては元も子もない。

そのままリリミアを連れて村へと向かう。

出るときにちゃっかりと薬草も摘んでおくことも忘れない。


「気が付いたらもうお昼……」


「あそこはあんまり光が入ってこないし、時間とかわかりにくいな」


「ええ、あそこでお昼寝すると気持ちいいの」


「……寝てたのか?」


「……少し」


恥ずかしそうに視線を下に落とすリリミアに若干ときめく。

考えたら、女の子と並んで話すなんて経験初めてだな。

どんだけ女っけのない生活を送っていたんだ、俺は……


「旅人さんも外に出ることにしたのね」


「いつまでもあのままってわけにもいかないからな」


「いいことだと思うわ。人なんだからちゃんとお日様の光を浴びなきゃ」


「まぁ、家の中にいるよりは気分もいいよ」


たわいない話をしているうちに村に着く。

リリミアも心配はしてくれていたらしい。


「しばらくは村にいると思うから、何かあったら言ってよ。可能な限り力になるからさ」


「ありがとう。何かあったら言うわね。それと、今日のお礼はまた今度するわ」


断るのも悪いのでそれを了承し、一言お礼を言って村の入口でリリミアと別れる。

家へと向かって歩いてると何人かの村人にお礼を言われた。

考えたらクエストに分類されるのかもしれない。


メニュー画面なんてものが出てこないせいで判断できないけど。

というか未だにアイテムボックスすら手に入らないのはどういうことだろうか。

そもそもそんなものはあるのだろうか。


いろいろと思うことはあるが、少しずつこの世界に前向きになっている俺がいた。


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