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第二章〜夢〜

太一は一限目の授業を聞こうともせず、席に座るやいなや腹を押さえて呻きだした。


「ぐっ、いってぇ……。腹がいてぇ。」


アカデミー賞級の演技である。


「おいおい、大丈夫かよ太一。」


隣に座っているのは太一の親友の青木義彦だ。義彦は心配そうに太一に声をかけた。


「…なぁに、ちょいと休めば平気さ。…先生、腹が痛いんで保健室行ってきます。」


太一は席を立ち、そそくさと教室を後にした。


「へっ、授業なんてうけてられっかよ。そもそも校長が自分の爺だからってムリヤリこんなトコ受験させんなっての。」


太一の祖父はこの学校だ。そのため父にここをムリヤリ受験させられたというわけだ。しかも主席で合格したというのだから驚きだ。人を見かけで判断してはいけないとはこのことである。


と、独り言をぼやきながらも保健室に着いた。


「先生〜。ベッド借りまーす。」


そう言って太一はベッドにもぐりこみ、眠ってしまった。




──やぁ、ど・もこ・・ちは。


どこからか声が聞こえる。女の子の声のようだがノイズは激しくてうまく聞き取れない。


『…誰だ?』


──誰・・・て気に・なく・・い・。こ・は君・・てい・夢だ。


『(なんなんだ?なんだか懐かしい声だ。)よく聞こえないよ。』


──君と話・・・久し・・だ・ね。・・・はよ・・・して・のに。『…何言ってんだ?』


──い・の間・・君と話せ・・なっ・・・だ。


『…なぁ。』


──ま・君・話せ・・・ったよ。


『…なぁ、あんた…。』


──ど・・らここ・は声が・・・・くい・・いね。ま・直接会い・行くよ。


『あんた、誰なんだ?』




「お前は一体誰なんだ!」


太一はうなされて目が覚めた。額が汗だくになっている。


「如月、起きたの?調子はどう?うなされてたけど大丈夫?」


先生がカーテンを開けて入ってきた。手には古ぼけた小さい木箱を持っている。


「あ、大丈夫…です。」


太一は小さな声で答えた。太一の頭の中はさっきの夢のことでいっぱいだ。


「そう。じゃあもう下校時間過ぎてるから帰りなさい。友達も待ってるしね。」


部屋の入り口に目をやると、そこには義彦が立っていた。


「よっ。待ってたぜ。」


どうやらずっと太一の目が覚めるのを待ってくれていたらしい。「じゃあ、俺たち帰りますわ。ありがとうございました。」


太一と義彦は部屋を出ようとした。


「あっ、如月待って!」


先生は太一を呼び止めて古ぼけた小さい木箱を手渡した。


「あんたが寝てる間に女の子が来てね、『これをあの人が起きたら渡して下さい。』ってさ。夏だってのに真っ黒のコート着ててフードで顔隠しててね。なんだか怪しい子だったわよ。」


「女の子…。…!」


太一はおもむろに木箱を開けだした。信じられないがさっきの夢と何か関係していると思ったからだ。中には真新しい紙切れと剣の形をしたキーホルダーが入っていた。


「おい、どうしたんだ?」


義彦は太一に声をかけたが、太一は聞く耳を持たない。太一は真新しい紙切れを開いた。どうやら手紙のようだ。


『如月太一へ。久しぶり。私のこと、覚えてないよね。昔はよく話したのにな。夢からじゃうまく干渉できないのでまた直接会いに行きます。P.S キーホルダー、肌身離さず持っててね。それがあなたの導き手となるはずだから。」


間違いなかった。太一が見た夢と全く同じことが書かれていた。夢の声はノイズであまり聞き取れなかったが、確かに手紙と同じことを話していた。


「なぁ太一。早く帰ろうぜ。日が暮れちまうよ。」


義彦の一言で太一は我にかえった。


「あ、あぁ…。ごめん。」


太一は胸に大きな不安を抱えて学校を後にした。

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