表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

沼の底から見上げる空

作者: 真希下まく
掲載日:2026/03/17

受験に落ちたので自暴自棄になり書いてみました。

 合格発表のページを、私は何度も更新した。


 スマホの画面が白く光るたび、心臓が少しだけ跳ねる。


 番号は、ない。


 何度見ても、ない。


 指先が震えて、スクロールを戻す。


 もう一度、最初から探す。


 けれど、そこにあるのは知らない数字ばかりだった。


 「……あ」


 小さく声が漏れた。


 それが泣き声なのか、笑いなのか、自分でもわからない。


 外は、よく晴れていた。


 春の光は優しくて、どこか残酷だった。


 私は制服のまま、家を出た。


 誰にも何も言わずに。


 通い慣れた塾の前を通る。


 窓の中では、もう次の受験生たちが問題集を開いていた。


 去年の私と同じ顔をしている。


 必死で、


 真面目で、


 どこか愚かで。


 「がんばれば報われる」


 先生はそう言っていた。


 でも、画面の中に私の番号はなかった。


 河川敷に出ると、風が冷たかった。


 春なのに、冬の残りカスみたいな風。


 私は草の上に座り込む。


 泥が制服についた。


 (ああ)


 どうでもいいや、と思った。


 必死に勉強して、


 眠い目をこすって、


 友達と遊ぶのもやめて、


 それでも私は、落ちた。


 勝った人たちは、今ごろ喜んでいるのだろう。


 家族と笑って、未来の話をしている。


 楽園へ向かう人たち。


 私はその後ろから、ただ見ている。


 泥の底から。


 ふと、空を見上げた。


 青かった。


 あまりにも青い。


 「……別に」


 誰もいない空に向かって呟く。


 「死ぬわけじゃないし」


 言葉は、思ったより軽かった。


 それでも胸の奥には、黒いものが沈んでいる。


 泥の塊みたいに重い。


 風が吹く。


 制服の裾が揺れる。


 遠くで、電車の音がした。


 世界は、何事もなかったように動いている。


 私は泥の上に座ったまま、


 しばらく空を見ていた。


 楽園へ行く人たちの背中は、


 きっともう見えない場所まで歩いていってしまったのだろう。


 だから私は、立ち上がる。


 泥のついたままで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ