沼の底から見上げる空
受験に落ちたので自暴自棄になり書いてみました。
合格発表のページを、私は何度も更新した。
スマホの画面が白く光るたび、心臓が少しだけ跳ねる。
番号は、ない。
何度見ても、ない。
指先が震えて、スクロールを戻す。
もう一度、最初から探す。
けれど、そこにあるのは知らない数字ばかりだった。
「……あ」
小さく声が漏れた。
それが泣き声なのか、笑いなのか、自分でもわからない。
外は、よく晴れていた。
春の光は優しくて、どこか残酷だった。
私は制服のまま、家を出た。
誰にも何も言わずに。
通い慣れた塾の前を通る。
窓の中では、もう次の受験生たちが問題集を開いていた。
去年の私と同じ顔をしている。
必死で、
真面目で、
どこか愚かで。
「がんばれば報われる」
先生はそう言っていた。
でも、画面の中に私の番号はなかった。
河川敷に出ると、風が冷たかった。
春なのに、冬の残りカスみたいな風。
私は草の上に座り込む。
泥が制服についた。
(ああ)
どうでもいいや、と思った。
必死に勉強して、
眠い目をこすって、
友達と遊ぶのもやめて、
それでも私は、落ちた。
勝った人たちは、今ごろ喜んでいるのだろう。
家族と笑って、未来の話をしている。
楽園へ向かう人たち。
私はその後ろから、ただ見ている。
泥の底から。
ふと、空を見上げた。
青かった。
あまりにも青い。
「……別に」
誰もいない空に向かって呟く。
「死ぬわけじゃないし」
言葉は、思ったより軽かった。
それでも胸の奥には、黒いものが沈んでいる。
泥の塊みたいに重い。
風が吹く。
制服の裾が揺れる。
遠くで、電車の音がした。
世界は、何事もなかったように動いている。
私は泥の上に座ったまま、
しばらく空を見ていた。
楽園へ行く人たちの背中は、
きっともう見えない場所まで歩いていってしまったのだろう。
だから私は、立ち上がる。
泥のついたままで。




