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8話 コカトリス捕獲争奪戦

「コカトリス一斉捕獲、ですか?」

「あぁ、夏の島の風物詩でな。この時期には毎年やる。セリア、モンスターと戦うのも才能ありそうだし、参加して損はないだろ」


 ラウル先輩のお褒めの言葉は嬉しいが、この真夏にダンジョンでモンスターと戦うこと自体が損だ。

 毎日かんかん照りが続く季節に、どうしてそんな風物詩を作ってしまったんだろうと疑問に思わざるを得ない。


「そもそも、モンスターって発生しないよう封印してません?」

「めっちゃ広くてコカトリスしか発生しないダンジョンがあるんだよ。そこの封印を一時的に解除する」

「そこまでして何でコカトリス捕まえるんですか?」

「ん? 食うんだよ」


 何のこともなく言い切ったラウル先輩に引く。この島の人、やけに鶏肉好きだなとは思っていたけど、コカトリスまで食べるって何? どんな物好き?


「食う⋯⋯」

「お前食ったことねえの?」

「⋯⋯はい」

「じゃ、尚更参加だな!」



***



 そして私は、こんな暑い日にコカトリスの捕獲に駆り出されている。


「あつい⋯⋯。帰りたい」

「セリア! 何サボってんだ! 魔法工事課は俺とお前だけなんだから、もっとキリキリ働け! 取り分が減るだろ!」

「暑いんですよ⋯⋯」

「じゃあ半袖着てこい!」


 課長に捲し立てられ、よろよろとその背中を追いかける。やむを得ないとはいえ、七分丈のブラウスは確実に失敗だった。

 そもそもラウル先輩といい課長といい、どうしてこんなに気合いが入ってるんだ。


 このコカトリス一斉捕獲は、完全にコカトリスを食べるためにするイベントらしい。

 捕獲後は毎年決まった量を市場に流し、その残りで参加メンバーが宴会。さらに残ったコカトリスは、貢献度順で、参加した課ごとに割り振られるそうだ。

 という説明を聞いてもなお、この暑い中で気合十分な同僚たちの気持ちがわからない。


「セリア、来たぞ!」

「わかりましたよ⋯⋯。光属性魔法を指向固定、収束ーー放出」


 指示されるままにコカトリスを撃ち落とす。そしてゴロゴロと押してる台車の上の檻に押し込む。

 なんだこの仕事。



「お、セリア! お前んとこまだそんだけなのか!?」


 ひたすらコカトリスを撃ち落とし淡々と進んでいれば、入口で別れたラウル先輩たちダンジョン警備課の人たちと出会う。

 ラウル先輩だけでなく、それぞれ三人の押している台車の中もコカトリスでいっぱいだ。

 とはいえ後ろにいる課長が怖いから、そう煽るのやめてもらっていいですか?


「ラウル先輩たちと違って、モンスターと戦うのが専門じゃないんですよ」

「お前なー、モンスターって言ったってコカトリスだぞ! そんなこと言ってちゃ夏の島でやってけねえぞ」

「私は夏の島にとってのコカトリスが、何かわからなくなってきました⋯⋯」

「ん? 美味い肉」


 ラウル先輩の返事に脱力していたら、後方からすごい量の羽根の音が聞こえてきた。

 振り返ってみれば予想通り、コカトリスの大群だ。


「大漁じゃねーか! よっしゃ! セリア、お前も気張れよ!」

「はーい⋯⋯」


 ラウル先輩をはじめとするダンジョン警備課の皆さんが、嬉々としてコカトリスの群れに向かっていく。もちろん隣の課長も、鼻息荒く魔法を繰り出している。

 なんで皆、こんなに暑いのにあんなに元気なんだ。


 流れる汗を拭って、私も魔法を放つ。だけどその時、視界が一瞬ぐにゃっと曲がったような⋯⋯。

 それからというもの、魔法を放つたびに発生する視界の歪みに、流石にこれは体調不良だと気づいた。

 だけど周りはコカトリスに夢中になっている課長、ラウル先輩。他の先輩方。

 体調が悪いので一人先に帰りますとは、到底言えない。


 群れを捕まえきってからも、ラウル先輩たちの「私の押す檻がスカスカ過ぎるから、手伝ってやる」という謎理論で合同での移動が決定する。

 正直私はどうでも良かったが、課長は異様なほど喜んでいた。


 そうやって一緒に動き、五羽ほど倒したときだった。

 魔法を放ったあとも何故か視界の揺れが止まらず、そのまま目の前が黒く染まった。



***



 目を覚ませば、知らない天井。というより、天幕?

 あれ、私何してたんだっけ?


 体を起こしてみれば、何だか頭がグラグラする。しかも暑い。


「あれ? 起きてるの?」

「⋯⋯アレイシオ殿下?」


 なんでアレイシオ殿下がいるんだろう。私、確か近くに課長がいて、それで。ラウル先輩もいたような?


「まだ寝ておいた方がいいよ、セリア。ああでも、水だけ飲んでおこうか」


 アレイシオ殿下に水袋を渡され、少しずつ嚥下する。もう飲めないと口から離せば、流れるように回収される。

 促されるままに横になれば、おでこに何かひんやりとしたものが乗せられた。


「首と脇と太ももにも置くからね」


 言葉通りどんどん冷たいものが置かれていく。気持ちいい。

 って、あれ⋯⋯? 王子殿下にこんなことさせて私、何か罪に問われないかな⋯⋯?


「セリア、意識ははっきりしてる? それと、さっきまで何をしてたかわかるかい?」


 アレイシオ殿下に問われ、少しずつはっきりしてきた、記憶の断片を集める。


「コカトリスを狩ってました。課長とラウル先輩と、あとダンジョン警備課の先輩たちが何人か。⋯⋯私、もしかしてコカトリスに負けたんですか?」

「熱中症で倒れたんだよ。お馬鹿さん」


 悔しさを露わに問いかけた私に、アレイシオ殿下が呆れを隠さず告げる。


「熱中症⋯⋯。コカトリスに負けるよりはマシか」

「セリア、反省してないね」


 すっと部屋の温度が数度下がる。ぼーっと喋りすぎた! 今のは確実に失言! と気づくもののもう遅い。


「アレイシオ殿下に看病なんかやらせてすみません!」

「⋯⋯そういうことじゃないんだよ。それにこれは、私が一番向いていると自分で名乗り出たんだ。水魔法が得意だからね」


 そう言われ、このヒヤッとしたものは水球かと気づく。

 でもそれなら、アレイシオ殿下はなんで怒っているのだろう。


「セリア、体調が悪いのは気づいていたよね? 魔法工事課長からやたらと暑がっていたと聞いたよ」

「⋯⋯はい」

「君が体調不良を申告せず倒れてしまったから、ラウルは君を抱えてダンジョンの最奥からここまで走ることになったし、他にも小さな計画変更がたくさん生まれている」

「ごめんなさい」


 言葉にされると気づく。周りの熱意がすごくて言いづらいなんて理由で、体調不良を黙っておくべきじゃなかった。結果的にもっとたくさんの迷惑をかけてしまった。


「それに、たまたま熱中症で、たまたま私がいたから良かったけど、ダンジョンなんて辺境にあることが多い。言わずに悪化させたことで、命が危険にさらされることもあるかもしれない」

「⋯⋯ごめんなさい」

「謝ってほしいんじゃなくて、自分の体を大切にしてほしいという話だよ。わかるかな?」

「わかりました」


 私が返事をしたら、アレイシオ殿下は優しく微笑んで「じゃあ馬車に移動しようか」と言う。

 え? 馬車?


「馬車って何でですか?」

「念のため、病院に行くんだよ。ああ、そのまま家まで送ってもらえることになっているから、安心していいよ」


 アレイシオ殿下は、近くにあった私の背負鞄と箒を天幕の外に出す。

 そのまま近づいて来てくれて、私のことも抱えようとしてくれているのはわかる。

 だけどそれ以上に。


「コカトリスのバーベキュー⋯⋯」

「そうだね。セリアはこっそり楽しみにしているんだろうなと思っていたよ」


 アレイシオ殿下の言うとおり、まわりに呆れた顔をしつつも、そんなに美味しいと言うならと、かなり期待していた。

 自業自得とはいえ、この機会を逃したら次は来年しかない。食べたかった。


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