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43話 先輩って大変

 今日もまた、フッと鼻で笑うところから仕事が始まる。性格が悪いとは思うけれど、そうでもしないと本人の前で笑っちゃいそうなのだ。

 大量の仕事を雑に押し付けておいて「もー、なんでこんなに終わってないの?」って笑う先輩は嫌すぎる。だからこう、発散してからセスと話すようにしているのだ。


「すみません、何も終わってなくて⋯⋯」

「ううん、大丈夫だよ」


 セスは肩を縮こまらせる。あまりにも可哀想なので、私は間髪入れず笑顔を見せる。

 心の中の「どうして終わっていないんだろう?」という感情は絶対に見せてはいけない。初めての後輩との仕事に、「先輩」とはこんなにも過酷な役職だったのかと、実感する日々だ。


 セスに渡していた分厚い引き継ぎ書を捲る。この私が半日かけて作った傑作は、まだ四分の一ほどしか終わっていないらしい。

 セスは一年目だし、そんなものだろう。作った時の私のテンションがちょっと、おかしかったのだ。多分。


「キラーフィッシュの封印のことで、昨日封印保全課の先輩から何か言われていたよね? 大丈夫そう?」

「えっと、すみません。まだ図面できないのかって言われて」

「謝らなくていいんだよ。あの先輩厳しくてムカつくね」


 あの封印保全課の先輩はちょっと、後輩に対する当たりがきつい。別の先輩と話している最中だったけど、切り上げて間に入ってあげれば良かった。


「え、僕はムカついてはないです」


 ⋯⋯本当に「先輩」って大変だなぁ!



***



 私とセスは、ダンジョンに来ていた。

 このダンジョンでは、池に発生するキラーフィッシュが、少し珍しい。もともと周辺一帯が同じ封印に収まっていたから、その池だけ別の封印に変えて、簡単に解除できるようにするというのが、私がセスに引き継いでいた仕事だった。

 実際の工事は終わり、あとは図面の作成だけらしいが、セスに見せてもらった報告書とメモ書きでは、図面を作るのには情報が足りなさ過ぎたから、実際にダンジョンに来ているのだ。


「セス、灯りつけて」


 そう言えば、ワタワタとセスが荷物からランタンを取り出す。

 その灯りで地図を照らしながら、対象の池に向かっていこうとするセスを止める。


「先に、広範囲の封印を確認しよう。資料ほとんどなかったから」

「わかりました」


 確か、もともと一つだった封印を三つに分けたと、セスの報告書には書いてあった。

 持ってきたノートに、封印の場所や状態、周囲の魔力濃度などを細かく書き込む。


「配置、完璧じゃん! 頑張ったね!」

「エルネスト先輩に五回くらい怒られてここになりました⋯⋯」


 それは怒られたんじゃなくて、修正しろって言われただけなんじゃないかなぁ。不思議に思ったが、私より同じ課だったセスの方が、エルネスト先輩に詳しいだろう。


「終わり良ければ全て良しだよ! 大丈夫!」

「ありがとうございます」


 次は、キラーフィッシュが発生する池に向かう。これは先ほどの封印よりは資料が残っていたけど、肝心の説明書がなかったのだ。

 定期的に解除する封印には、封印開発課が作る資料とは別に、魔法工事課でモンスターへの対応も含めた現地の説明書を作る。

 引き継ぎ書には書いておいたのだが、あんな文字も資料も多い引き継ぎ書の隅々までは読まなかったのだろう。こういうところも気をつけないといけないのか、と勉強になった。


「じゃあ一回、封印解除しよっか」

「わかりました」


 私は申請して借りてきた備品、小型記録晶を取り出す。

 セスが封印に手を伸ばし、私は両手で構えた記録晶にその光景を写す。

 それを何度か繰り返し、無事封印を解除することができた。


「よし、じゃあ一旦キラーフィッシュ片付けようね」


 私がそう言っても、セスは首を横にぶんぶんと振る。キラーフィッシュって、水場から離れて遠距離攻撃すれば倒せるけどな。


「セスって、モンスターダメなの?」

「一応、対モンスター適正はあるらしいです。けど、どうしたらいいのかわからなくて」


 なるほど、と頷く。まぁまぁよくわからなかったので、時間稼ぎである。


「得意魔法は?」

「土と火です」

「土はここでは相性悪いから、火をキラーフィッシュにぶつけてみよう」


 キラーフィッシュを指差す。

 セスは手のひらに、火の玉を出して固定させるが、それは手から離れなかった。


「杖使ったほうがいいよ。お手本見せるね」


 ローブのポケットから杖を出し、その先に光の玉を出す。逆に私は、火属性魔法得意じゃないから⋯⋯。


「光属性魔法、収束。指向方向、速度決定ーー投擲」


 なるべくゆっくり一つ一つの手順をこなす。キラーフィッシュ一体を倒して、残りの二体に向けて、セスに魔法を使うよう指示した。

 セスも同じように杖を出し、詠唱する。すると簡単に火の玉は飛んでいきキラーフィッシュは倒された。

 貴族であるセスは良い教育を受けているだろうし、そりゃあやればできるのだ。


「できました! ありがとうございます!」

「うん、良かったね」


 珍しく良い笑顔を向けてくれるセスに、アクアハースで泣いたこと絶対にバレたくないなと、いらないことを思い出した。

 あぁ、急に先輩ぶってる自分が恥ずかしくなってきた。やっぱり、先輩ってしんどい。私には向いてないよ。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


来週から、水・土の週二回更新します。

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