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42話 ラウル先輩、復帰!

「今一番辛いこと、いいすか」


 ラウル先輩が挙手して、アレイシオ殿下が鷹揚に頷く。真面目ぶっているが、ここは酒場である。そして皆の右手には、乾杯したばかりの木杯。

 ラウル先輩が言いたいことは、もう察しがついている。


「来週まで酒が飲めません!」


 そう言ってラウル先輩は、マンゴージュースの入った木杯を机に叩きつけた。

 当然のようにエールを片手に持っているアレイシオ殿下と、ヴィオラは躊躇いなく笑う。

 私は一人で素面は可哀想だと、若干の遠慮を見せて今日はマンゴージュースだ。


「一昨日聞いたときは、今日でいいって言ってたじゃないですかー」

「ダンジョンで暴れたら、ちょっと開いた」

「あら、お馬鹿さんですこと」


 アクアハース・リストレーションの後始末に時間がかかった私とヴィオラが夏の島に戻れば、不思議なことにもうラウル先輩が復帰していた。

 それならば、お疲れ様会とラウル先輩の復帰を祝う会をやろうと声をかけた。それが一昨日のことだ。


「現場に出るのが、早すぎるのではないかい⋯⋯?」


 ヴィオラどころかアレイシオ殿下にまで呆れられてしまい、ラウル先輩の目が泳いでる。

 もともとの怪我は私のせいでもあるし、フォローするか。そんなことを考えていたけれど、この可哀想な空間は、店員が焼き鳥を持ってきてくれたことで終わった。


「ダルムー! わたくし、あなたが恋しかったですわ!!」


 ヴィオラは黄色い悲鳴を上げながら、焼き鳥に手を伸ばす。ダルムは春の島ではメニューになかったけど。でもダルムってそんなに美味しい? 私にはよくわからない。


「私、ねぎま食べてもいいですか?」

「いいよ。遠慮せずに食べていいからね」

「ありがとうございます!」


 一人一本ダルムを頼んだ三人は、とりあえずとばかりにダルムを食べている。私は空気を読まず、ねぎまを獲得。私の分のダルム頼んでないし。そもそも鳥じゃないよね、ダルムって。


「じゃ、俺ももいきます」

「私は皮をもらおうかな」


 さっさとダルムを食べ終わり、ももに手を伸ばすラウル先輩。間髪染入れずアレイシオ殿下も、次の串を食べ始めて、私は春の島で夜の空を飛んだことを思い出した。

 アレイシオ殿下って本当に、ちゃんと男の子なんだよなぁ。


「あの勢いで食べたら、すぐにお腹いっぱいになりそうですわ⋯⋯」

「本当にね。ヴィオラ、レタス巻き半分こしない?」

「いいわね。そうしましょう」


 ガツガツと焼き鳥を食べ進める二人を前に、私とヴィオラはゆっくり食べる順番を決める。あんなに何も考えず食べれる胃袋が羨ましい。


「野菜巻き串もさぁ、あんまり見なかったよねぇ。春の島」


 熱々のレタスをハフハフ言いながら頬張る。あぁー染み渡るー。


「そうね、食文化の違いはかなり感じたわ。同じ国ですのに」

「そうだね。私は王宮に住んでいた期間も長いけど、こちらの物を食べれば、自分は夏の島の人間なんだと実感するよ」


 ヴィオラの言葉に、ラウル先輩が即座に頷く。そして茶化すようにアレイシオ殿下も肯定した。この人、王族ブラックジョークもまぁまぁ多い。

 そして何を思ったか、ヴィオラは私に視線を向ける。


「セリアは秋の島出身でしょう? 夏の島で食生活に困ったりしなかったの」

「秋の島って冒険者が多かったから、各地の食文化がかなり持ち込まれてるんだよね。だから実家で使ってた出汁が、実は夏の島産だったってこととか結構あって。困るよりは驚きの方が多かったよ」

「確かに、夏の島の料理の偽物みたいなの、多かったわね」


 ヴィオラは新人研修を思い出しているのだろう。自信満々に連れて行った店のほとんどで「知っている料理と似ていますわ」と言われたし。


「そもそも、なんでセリアって夏の島に配属替えになったんだ?」

「確かに気になるね。夏の島を希望していたのかい?」


 とても今更な問いをされる。ダンジョン保全機構は、配属替えを承諾していなければ、応援は行かされても配属替えはされない。

 秋の島では、配属替えを承諾している管理官が半分以上だったが、夏の島がそうでないのは分かりきっている。


「いえ、実は冬の島を希望していたんです」

「え!? わたくしてっきり、研修時に語ったわたくしの夏の島への愛が通じたのかと⋯⋯」


 言葉を失ったヴィオラと、キョトンと首を傾げるアレイシオ殿下とラウル先輩。いや、そうですよね、わかります。

 冬の島は雪が多く、他の島と比べて、こう、田舎だ。土地が広いため移動も大変。温暖な気候である夏の島の人から見れば、どうしてそこに住みたいのかわからないだろう。


「冬の島では、未攻略ダンジョンに入れるので⋯⋯」


 若干の気まずさから、木杯を揺らしながら答える。


「セリアはダンジョン攻略がしたかったのかい⋯⋯?」

「⋯⋯え? 今も?」


 慌てて木杯を机に置いたアレイシオ殿下と、食べかけの砂肝を落としたラウル先輩。

 この二人が、アクアハースで泣いていた私を思い出したのは、言われなくても、わかった。


 だけど私は元ルミエナ殿下の影武者。冒険者と共に未攻略ダンジョンに潜って来た、百戦錬磨の魔法使いである。秘密だけど。

来週から、水・土の週二回更新に変更します。

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