40話 アクアハース・リストレーション④
制圧班の先輩たちや、リオネル先輩はともかく、私たち魔法班員は、前後左右を王立騎士団に囲まれていて、危険という危険が省かれた状態で、”アクアハース・リストレーション 魔法工事”が始まった。
アクアハースに入ってすぐ、スライムとゴブリンが出たらしいが、私の視界に入りすらしない。
今日の魔法工事の流れは、まずは最奥である五階まで行き、魔力媒介石”ハース”を停止させる。 そして五階に一つ目の封印を施す。それができたらハースを運搬しながら、四階に下り、魔導線を張り巡らせる。
そして三階は封印、二階は魔導線と下りていき、最後に一階に封印を施したのち、ハースを設置・改造。
魔法班は班長であるマレーナさんを含め、もともとは九人もいた。だけど対モンスター適正がない人はアクアハースに入れなくなって、今日参加しているのは七人。
さらにリオネル先輩は、制圧班に混ざっているから、魔法工事の担当は六人になってしまっている。
前方ではオークが出たらしいが、やはり私の視界に入る前に、掃討されたらしい。
王立騎士団という戦力を得て、今日はみるみるうちにダンジョンの奥へと進んで行く。
「ハース停止します」
私くらいの高さの、白い魔法石。正面のみ透明で、中は緑の複数の石とそれを繋ぐように動く赤い光。
先輩が扉を開けて何か操作をすれば、赤い光がパタッと消える。
別の先輩が「封印設置します」と言い、作業をすれば、数分ののち正常を示す青い光が灯った。
「結界張ります」
次は私が声を出して、ハースに吸い付くような薄い警戒を張る。
緊張していたが、練習通り結界を張ることができ、一旦胸をなで下ろす。
予定通り先輩がハースを浮かして持ち上げ、階段を下り始める。
ここからはずっとハースの運搬が続くわけだから、油断は許されない。
四階では、私とハースの運搬担当の先輩以外の、四人の魔法管理官が分担して、魔導線を張り巡らせていく。魔法班全員が来れていたら、この作業は多分かなり早く終わった。
三階と二階でも、先輩が同じ作業を淡々と進めるのを、ただただ後ろで見ている。
でもこれは、私の結界術が評価されてこその役割分担だから、嬉しく思うべきところだ。
だけどこういう僅かな時間は、いつも雑談に付き合ってくれた、ラウル先輩がいないことが寂しい。
ダンジョンの中だから、太陽の高さで時間を判断することはできない。だけどそれなりの時間をかけて、一階に戻って来ることができた。
王立騎士団員の数が多すぎて、前方は全く見えないが、怪我人はいないらしい。
だけど私の仕事は、まだまだ残っている。
「封印設置します」
最後の封印が施され、皆が青く照らされる。前後左右から、安堵のざわめきが聞こえた。
「ハース設置します」
次は私だと、杖を握る手に力を入れる。難しかったし、丁寧に教えてくれる人もいなかった。だけどその分、練習時間はしっかり取った。
「魔石内の空間、拡張します」
リオネル先輩に見せてもらったように、杖を振る。手応えはあったが、先輩に見てもらわないと空間が足りているのかわからないのが、この魔法の怖いところだ。
「ハースの改造、開始します」
先輩は少しだけハースを触ったあと、振り返って強く頷いてくれた。大丈夫だったらしい。良かった。
ハースの改造では、魔導線との接続、魔力吸い上げ機能の変更、そして魔導線の故障を監視する機能の追加をする。これは、今回の魔法工事の肝とも言える。
本当なら班長であるマレーナさんか、魔法技能に優れたリオネル先輩が行う作業だ。
だけど二人は予定外のトラブルで、この作業を担当できなくなってしまった。急にやることになった先輩は、プレッシャーだったと思う。
緑の石の配置が代わり、銅色の魔導線が二つほどの石に接続された。そして最後に、赤い光が緑の石を繋ぐように動き出す。
「ハースの改良、完了しました」
先輩は、そう言うとローブで思いきり顔を拭う。
「空間拡張、解錠します」
私がそう言って、魔法工事は完了した。
集団の後方で雄叫びが上がる。きっと、制圧班の先輩たちが、思い思いに叫んでいるんだ。
これだけ予定外のことがたくさんあって、それでも魔法工事が終了したこと。
私一人の努力じゃない。先輩たちの負担の方が大きい。それでも。
頑張ったねって誰かに言ってほしいと思った。自分で自分に言いたいとも。
ーーダンジョンの外に出れば、ソレニオ殿下と事務班の皆。それに町の人達が、私たちを今か今かと待ち構えていた。
そして、歓声が上がる。
3/7更新忘れてましたすみません。
火木土に更新します。




