39話 アクアハース・リストレーション③
「まずアクアハースは時間が経てば経つほど危険な状態になるから、来週魔法工事を決行することになったわ。それから王立騎士団が協力してくれることになったから、制圧班は駐屯地へ行って訓練をしているの。その制圧班の仕事を引き継いでリオネルくんがモンスターの一覧を更新しているから、セリアちゃんはリオネルくんの仕事を引き継いでちょうだい。それからセリアちゃんは当日の計画に参加することになったから、合間を見て魔法の練習もしておいてね」
リオネル先輩の仕事ってなんだろう。マレーナさんは別の先輩に呼ばれて行ってしまった。
何もわからないまま、次はリオネル先輩のところに行く。
「詳細計画の見直しをした。危険の洗い出しをしたら、前のように詳細計画書をまとめてくれ。それから俺は当日、制圧班に混ざることになった。それを踏まえて魔法工事の分担が決まったから、確認しておけ」
たった二枚の紙を渡され、リオネル先輩もどこかに行ってしまう。
もともと人手は足りていなかったが、今回のことで完全に余裕のない職場となってしまったらしい。
リオネル先輩から渡された一枚目の書類は、詳細計画の変更点のメモだった。
前回の詳細計画書を持ち出して、それに変更点を書き加えていく。次に危険一覧表を出して見直し。それができたら、仮の詳細計画書を作っていく。
いつもならこの時点で報告に行くが、今日は仮の詳細計画書をまとめてから報告することにする。多分、赤字部分を読み飛ばさず三種類の書類を見比べながら、私の報告を受ける余裕が皆にない。
詳細計画書は一度の修正で無事通ったが、気づけば窓の外が夕暮れ色に変わっていた。それでも今日中に終わったのだから、成果としては上々だ。制圧班の先輩に渡し、明日王立騎士団の駐屯地へ行くついでに、王宮で印刷して来てもらうようお願いする。
そしてやっと二枚目の紙に向き合う。これは当日の魔法工事の役割が箇条書きにされているだけだ。
私は魔力媒介石の運搬・改造補助。詳細計画書と照らし合わせて、自分のやることを明確にする。
基本は運搬時に魔力媒介石に結界を張るだけだが、魔力媒介石の改造中に、空間補正魔法で魔石内の空間を広げるというのがよくわからない。
迷惑だなと思いながらも、リオネル先輩のもとへ行くことにした。
「やったことないのか、それなら練習しておいた方がいいな」
リオネル先輩は棚から小さめの魔石を取り出して、杖を振る。
「手、入れてみろ」
「わかりました」
手を入れてみれば、見た目と中身のサイズが全然違うことがわかる。
「長時間保たないが、魔石内の作業では大体やる。要領はわかったか」
「わかりました」
すぐにできるようにはならないだろうが、この環境下では、できるようになるまで自分で練習するしかない。
***
ダンジョン保全機構 春の島管区から、アクアハースまでは非常に遠い。
今回は制圧班も事務班も魔法班も関係なく、前日から馬車で出発し、港町に一泊することになっていた。
もちろん、王立騎士団も同じだ。
そして私たちが港町に一泊する理由、魔法工事の内容は、もう皆が知るところとなっている。
ーーありがとうソレニオ殿下! ありがとうダンジョン保全機構!
港町の夜景に混ざり、デカデカと掲げられている光る垂れ幕を、宿屋の一室から眺める。
最近は忙しさのあまり忘れてしまっていたけど、アクアハース・リストレーションは事業開始当初の目的を、やっと達成できるのだ。
「ヴィオラー。これ、すごくない? まだ工事してないのに」
「アクアハースの運用継続は絶望的だったのよ。運用継続という判断をしてくれただけでも、感激だと思うわ」
ヴィオラの言う通り、港町に乗り入れたときには、たくさんの人が私たちの馬車を歓迎していた。窓から見えたその光景を思い出して、工事が終わっていないというのに、私まで感慨深くなってしまいそうだ。
「ラウル先輩にも見てもらいたかったね」
「⋯⋯そうね。伝えに行きましょう、アレイシオ殿下にも」
二人で顔を見合わせて頷きあう。
私は明日、先輩たちや王立騎士団の人たちと最終の打ち合わせをして、ソレニオ殿下の演説を聞いたら、アクアハースで魔法工事をする。
ヴィオラはソレニオ殿下が演説する環境を朝から整え、その後はソレニオ殿下と事務班長と共に、アクア男爵から誘いを受けている夜の宴会の打ち合わせに参加するらしい。
つまり魔法工事が無事終わったら、今日は町をあげての大宴会ということだ。
「セリア。無事、戻って来てね」
ラウル先輩もアレイシオ殿下も参加できないけど、私たちだけでも元気に楽しもう。そう言って抱きしめ合った。
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