37話 アクアハース・リストレーション②
よく晴れた晴天。雲一つない空。これらはダンジョンに入ってしまえば、何も関係ない。
今のうちにもう一度、出没モンスターの一覧をパラパラめくる。自分も作成に関わった詳細計画書と比べて、確実に理解が浅いからだ。
まず制圧班の先輩たちが、ダンジョンに入って行き、リオネル先輩とソレニオ殿下、アレイシオ殿下がそれに続く。最後に私とマレーナさん、殿を務めるラウル先輩だ。
アクアハース・リストレーションが始動してから、既に新しく破れた封印が二箇所あるらしく、念のため今回は干渉光魔法インターフェアを使えるリオネル先輩を、両殿下から離さないことになったらしい。
「ここに、魔力媒介石を移設予定です」
制圧班長が入口付近の一角を指差す。そしてこの場所は比較的危険度が低いことなど、必要な話を付け加えていく。
本来はマレーナさんの役割だけど、時間不足人手不足の私たちには、何度もアクアハースに行く余裕なんてない。
私とマレーナさんは現地調査を兼ねていた。それにもし制圧班長が言葉に詰まっても、リオネル先輩がいるから大丈夫だろう。
「ラウル先輩なんで殿なんですか? もう連携不足じゃないですよね」
「制圧班が少し前に出るときは、殿下たちの護衛を兼ねるから、殿下と親しい俺が選ばれた」
「そうなんですね」
ソレニオ殿下は穏やかな方で、アレイシオ殿下はダンジョンに対する知識があるから、視察は順調だ。
私はリオネル先輩に「俺の代わりに絶対に見ておけ」と渡された確認箇所一覧表を手に、しっかり確認する。今のところ不備はなくて、ラウル先輩と雑談するゆとりがあるくらいだ。
「マレーナさん、一から五まで確認終わりました」
「私も六から十二まで確認完了よ。それにしても十三の確認項目、前の調査ではなかったのにどうしたのかしら」
マレーナさんの言葉に従って、確認箇所一覧表を確認する。前の調査を知らないからよくわからなかった。
それにしてもリオネル先輩、上司のマレーナさんに、こんな表を作るってすごい自信だよな。そしてそれを受け入れるマレーナさんの懐がすごい。
調整力の高いマレーナさんと、現場知識と魔法技能のリオネル先輩で、バランスが良いのだと思う。
「新しい封印は数を減らします。この辺りは比較的封印が解けていないので、ここに大規模な範囲をカバーできる封印を設置する予定です」
制圧班長の声を右から左に、確認箇所一覧表の通り目を動かしていたら、一箇所気になるところがあった。ちょうど十三だ。
「マレーナさん。あの封印、下向きすぎじゃないですか?」
「変ね、ちゃんと確認した方がいいわ」
ラウル先輩に一声かけて、二人で封印に近づく。
「これ、解けそうです」
正常を示す青い光を放っている。だけど至近距離で見てみれば、確実におかしい。ほとんど二つに割れてしまっているのだ。
「危ないわね。セリアちゃん修復できる?」
「これはもう修復は無理なやつです」
戻って制圧班に報告しようと、足を動かしたとき。青い光が消えた。
「解けた!?」
「走りましょう!」
マレーナさん背中を押して駆け出そうとしたけれど、もう遅かった。
オークが二体現れて、目の前を塞いでいる。
目の前で一体のオークが斧を振り上げた。リオネル先輩からもらったモンスターの一覧に、まだ出ていないが今後出るかもしれないと書かれていたおかげで、久々に対峙するモンスターではあるものの、ディアウルフに襲われた時ほどの焦りはない。
こんなところで干渉光魔法は使ってはダメ。それに結界でも一撃ぐらい耐えられるはずだ。握りしめていた杖に力を込めて、結界を展開する。
「⋯⋯え」
一撃で結界が割れた。そのまま多少スピードが緩んだ程度の斧がやけにスローモーションに見えたとき、急に誰かに押し倒された。
「っ! 何やってんだ馬鹿っ!!」
遅れてラウル先輩の声と、剣と斧がぶつかる音がする。
「おうえん! 応援ー!」
上からマレーナさんの大声が聞こえて、マレーナさんが私を庇うように伸し掛かっていることに気づく。
マレーナさんが立ち上がった。私も人の走る足音を捉えながら、背中を起こす。
そして気づいた。ラウル先輩の、肩が赤い。
血だ。
応援に走って来てくれた中に、リオネル先輩もいたようで、私が見た時よりも増えたオークがどんどん倒されていく。
「セリア、視察は中止になったよ。オークを倒し切ったら、まっすぐ出口に向かうから、もう大丈夫だよ」
「アレイシオ殿下⋯⋯」
リオネル先輩について来たのだろう、ソレニオ殿下とアレイシオ殿下が何だかぼやけて見える。
アレイシオ殿下がなぜかハンカチを差し出してくれる。
「私は大丈夫です。怪我は、ラウル先輩が⋯⋯」
「違うよセリア。泣いてるんだ、君」
言われて目を拭えば、手の甲に水分がついた。
「あ⋯⋯。ハンカチあります。ごめんなさい」
ハンカチで涙を拭く。泣いていることを自覚してしまったせいか、しゃっくりが止まらなくなった。どうしよう、ここ。ダンジョンなのに。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
火木土に更新します。




