36話 仕事研修仕事仕事②
昨日研修の合間に行った、アクアハース・リストレーションにおいての危険整理を、マレーナさんに持って行く。
今日も朝から研修があるから、長々と報告する時間はない。
「ありがとうセリアちゃん、完璧よ。残り四部の危険一覧表も貰うわね」
「あ、一部こっちで貰っていいですか? 魔法班全員分になるように、写し作った方がいいと思ってるんですけど」
マレーナさんに渡された仕事が一段落すれば、私の仕事は一旦なくなる。研修中だからそれが正しいと言われればそれまでだけど、余裕があるうちに誰かがやるべき簡単な作業を進めておきたい。
「写しづくりは、アクアハース・リストレーションに関係ない魔法管理官にやってもらって、春の島管区の魔法管理官全員に配るわ。だから気にしなくていいのよ」
「わかりました」
上司とはすごい存在らしいと学生の頃から漠然と知っていたけど、働き始めてからは思い知らされるとも言うべき時がある。
私が五歩先しか見ていない今、マレーナさんは数十歩先を見て仕事を回しているのだ。
「セリアちゃん、今日も懇親会?」
「今日はないです」
「研修後戻って来てもらってもいいかしら? リオネルくんが当日の詳細計画書を作っているから、その作業に危険整理した内容を書き加えて見る書類を一枚で済むようにしたいの」
流石アクアハース・リストレーション、仕事が湧き出て止まらない。頷きながらも、一切手を緩められない過酷な環境に慄く気持ちが生まれ始めた。
研修会場に着いたのは、私が一番最後の到着だった。そのせいで同期たちに肩をバシバシ叩かれる。飲み過ぎて寝坊したんじゃなくて、仕事してからの研修なんだってば!
「絡まれとったな」
「うん⋯⋯。っていうか飲み過ぎて真っ赤だったのはゼンでしょ」
「テストの対策全く参加せず、封印学で一位取られたらなぁ。些細な揚げ足でも取りたぁなるやついっぱいおるやろ」
「一位?」
ゼンに指差された、裏返しで机に置かれた紙を手に取る。そしたら昨日のテストが満点に一位との記載付きで、帰ってきていた。
その喜びを表に出す前に、講師役の先輩が入って来る。周囲のざわめきが引き、私も慌てて椅子に座った。
「今日の魔法資源学だが、抜き打ちテストから始める」
講師役の先輩の言葉に、一度引いたざわめきが戻る。
「二年目研修の魔法資源学では、魔法植物の採取や保管方法、モンスターからの魔石や他の素材の剥ぎ取り方法を教える。一年目研修でやった魔法植物の見分けや、モンスターと取れる魔石の結びつけができていない管理官が受けても無駄だ」
ざわめきが引くどころか、物音一つしない静寂が訪れる。私含め、全員の背筋が伸びたと思う。
そんな私のテスト結果は、六十点が及第点のうち八十点という結果に終わった。あまりにも不合格の管理官が多いとのことで、予定されていた研修の前に不合格者向けの研修をするらしい。
ぞろぞろと同期たちが隣の部屋に移動するのを見ながら、私は今朝渡されたリオネル先輩が作成中の詳細計画書を取り出す。
「セリア何点やったん?」
「八十点。ゼンは言わなくていいよ」
「俺、百点ー! お前四問も間違えてるやん。補修受けた方がええんとちゃうん?」
「聞いてない聞いてない」
ゼンが魔法資源学が得意なのは知っている。明日の実践魔法学で取り返すから、今日は好きなだけ言っとけばいいよ、と適当にあしらう。一年目研修の実践魔法学で、勝てたことないけど。
「お前魔法資源学の復習する前に、仕事とかしてて今日の研修大丈夫なん?」
「だって、終わんないんだもん」
ふーんなんて興味なさそうな声を出したくせに、ゼンは私の手元を覗き込んでくる。
リオネル先輩と打ち合わせする時に、詳細計画書の作業と危険一覧表の作業を紐付けやすいように、番号を振っているのだ。
「なに?」
「ここ変やで。他の封印も解けてモンスターに襲われる危険、はもっと前やろ」
「あ、確かに⋯⋯」
魔法資源学はともかく、現場経験や現場知識では負けていないはずなのに、気づかなかった。自分が忙しさのあまり見落としが増えているのなら、先輩たちもその可能性があると、この時思うべきだった。
***
「戻りました!」
バタバタと外套を脱ぐ。室内が暖かすぎてびっくりした。
「セリア、準備できたら打ち合わせしたい。何時からならできる?」
「すぐできます!」
「すぐ?」
リオネル先輩にさっそく声掛けられ、研修の合間に書き込んだ危険一覧表を取り出す。私の準備物はそれぐらいしかない。
「今日研修じゃなかったか?」
「補修の時間があって、対象じゃなかったので余裕がありました」
「魔法資源学か⋯⋯」
あの研修方式は毎年のことなのか、リオネル先輩は納得したように危険一覧表を手に取る。
書類の内容に対して、確認の時間が長い。
「あの、不備ありました?」
「⋯⋯いや、大丈夫だ。この内容で、詳細計画書に追加していこう」
「わかりました。何部作りますか?」
「一部でいい」
リオネル先輩に新しい詳細計画書を渡される。基本的に計画書なんて、関係者全員分は最低でも必要だ。一部でいいことなんてあるのか?
「来週、ソレニオ殿下とアレイシオ殿下が視察に来られることになった。この計画に問題がないか、アクアハースに実際入って確認したいらしい。そのかわり、王宮の魔法印刷機を使わせてもらえることになった」
「え! あの!?」
魔法印刷機は本体も高く、使う限り高価な魔法インクを買い続けないといけない悪魔の魔法具なのだ。秋の島では、金持ちから金を絞り続けるためだけに作られたとすら言われている。当然、ダンジョン保全機構にはない。
「研修で王宮に行くついでに印刷もして来てくれ。俺は今から制圧班と、出没モンスターの一覧を更新するから、それもついでに頼む。各十五部」
「十五部⋯⋯。太っ腹ですね。」
「マレーナさんの手腕だよ。あの人現場ダメだけど、仕事は本当にできるから」
そういうリオネル先輩は現場が得意な先輩だ。対モンスター適正が高いどころか、数少ない光干渉魔法インターフェアの使い手でもある。
私が目指すべきは、確実にリオネル先輩の路線だろう。
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