35話 仕事研修仕事仕事①
やっと、報告書を図面に落とし込む作業が終わった。席に座ったまま背中を伸ばす。そうやって気持ちに一区切りつけてから、マレーナさんのもとに向かう。
「図面への落とし込み、終わりました」
「えぇ、ありがとう」
マレーナさんは大量の図面をサラッと確認する。作業の中で確認した報告書はかなり古いものもあって、私はそれが心配だったけど、マレーナさんはあまり気にしていないようだ。
「セリアちゃんって現場詳しいよね?」
「はい、まぁ自分の中では得意⋯⋯な方です」
「この間の新プランの改良案を渡すから、工事当日に起きるかもしれない危険を書き出してくれる?」
「わかりました。危険一覧表ってありますか?」
秋の島管区でよく使っていた資料の名前を出す。マレーナさんに不思議な顔をされ、夏の島管区にもなかったし、春の島管区にもないことがわかる。
「それは何かしら?」
「秋の島管区にある、それぞれの作業に対してあり得る危険を書き出した一覧表です。秋の島に配属されたら、まず配られます」
「そうなの⋯⋯。じゃあ持って来てもらいましょう」
事もなげに言ったマレーナさんに驚く。ここから秋の島管区に手紙でお願いしたら、最低でも五日はかかるだろう。
「待つ時間ありますか?」
「魔法通話するから大丈夫よ。それに、明後日から二年目の研修でしょう。運んでくれる子もいてタイミングいいわね」
もらったばかりの魔法通話を活用すれば、確かに時間はあまりかからない。そしてそれを把握していて即座に繋がるのが、マレーナさんの強いところなのだろう。
だがそれ以上に、聞き逃がせない言葉があった。
「二年目の研修って何ですか?」
「聞いていないの? 魔法管理官の二年目を集めて研修があるのよ。セリアちゃんも対象よね?」
「聞いてません⋯⋯」
夏の島管区から応援に来ているせいで、何か生き違いがあったのだろうか。
「そう。とりあえず明後日から三日間だから、セリアちゃんも参加してね」
「明々後日に、視察の参加を引き受けています」
「研修優先よ」
言い切られて、頭が痛くなる。制圧班の人たちに断りに行かなくちゃいけない。
「制圧班には私から言っておくわ。セリアちゃんには魔法班の仕事をもっと任せたいし、そろそろ釘を刺さないといけないと思っていたのよ」
そう言ったマレーナさんに、自分への評価が着実に変わっているのを実感した。
***
ダンジョン保全機構の研修は、秋の島管区での開催が多い。一番ダンジョンが多いからだ。だがそのかわり、ダンジョンでの実地研修がない場合は、春の島管区で開催されることになっている。
だけど今回は、アクアハース・リストレーションの臨時本部で部屋が使われているため、王宮の一角を間借りすることになったらしい。
機構の動かしやすさを優先した安価な机や椅子とは違う、重厚なそれらに緊張しながら腰を下ろす。
隣の席の男性が、高価な家具をものともせず、ガタガタと音を鳴らしながら椅子を引く。
どうしても気になってしまって、同期だし軽く注意でもするかと書類から顔を離せば、よくよく見知った顔がある。
「⋯⋯ゼン、この椅子高いだろうから気をつけて扱いなよ」
「セリアお前久しぶりやんけ! 最初に言うことそれでええんか!」
言って聞くやつじゃないのは、まあわかっていた。
「いいよ感動の再会とかする仲じゃないし」
「わいもそんなんお前に期待してへんけど、まずは感謝の言葉やろうが」
そう言って、ゼンは私に封筒を手渡す。まさかと思った。
「危険一覧表持ってきてくれたの?」
「そうや。バリ急ぎやから研修に持って行ってお前に渡せ言われたせいで、昨日は船乗る前に出勤や」
「ごめんごめん。ありがとありがと」
「適当やなぁ」
ゼンから受け取った封筒を早速開ける。ゼンはまだ何か言っているけど、同じく平民の同期で、一年秋の島管区で共に働いたゼンに、遠慮なんて今更ない。
「これ、アクアハース・リストレーションで使うんやろ?」
「うん」
「噛ませろや」
「うん」
「言質取ったで」
身を乗り出してきたゼンに、顔を顰める。問い返せば、やってやったとばかりに説明してくれる。
この忙しいときに研修があって、春の島管区の同期に聞いたが、今晩は懇親会もあるらしい。少しでも仕事を進めたいと、拒否すれば面倒くさいゼンには一旦本人の希望を飲んであげることにする。
「機構の管理官以外は閲覧禁止だから」
「話早いやん。おおきに」
ありがたいことに危険一覧表は五部入っていた。それでも全然足りないだろうから、後で写しを作らないといけない。
だけど一旦は直接書き込める部数を貰えたことが嬉しい。アクアハース・リストレーションに関わる作業に、どんどん丸を付けていく。
久々に見たけれど、危険一覧表は見やすいしわざわざ書き出しを作らず、この状態でマレーナさんに見せよう。
着々と作業を進める私の隣で、ゼンは大人しく資料を読んでくれていた。
今日の研修は幸いにも、封印学の講義と実践、そして筆記テストだったため、休憩時間に持ち込んだ仕事を全て終わらすことができた。
ゼンも次の休憩からは、他の同期に混ざってテストの対策をしていた。
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