34話 アクアハース・リストレーション①
報告書を地図に落とし込んだ時点で、一度マレーナさんに報告に行く。
図面の写し作成に時間を取られるのは見えているから、地図だけでも先に渡した方がいいと思ったのだ。
「早いね」
「終わったのは地図だけですよ」
「十分早いよ。それに優先順位をよくわかってる。⋯⋯あー、部下にしたい若手管理官一位ってこっちかぁ」
マレーナさんの言葉に、言われ慣れた言葉が頭を過った。
「魔法と知識だけならゼン・アッシュ、実務込みならセリア・ノアルってやつですか?」
ゼン・アッシュは同期の魔法管理官で、ライバルだとお互い認め合っている。いつの間にか、若手のうち一位を争っていたとは知らなかったが。
「違う違う。セリアちゃんの二つ名だよ」
「⋯⋯かなり高く買ってもらえているんですね」
じゃあこっちって一体なんなんだ。その言葉は流石に出せない。
「セリアちゃん、魔法技能高いし、担当外の仕事も文句言わずにやるし、忙しい中休み取れって指示も素直に聞くし⋯⋯。十分、若手ナンバーワンを実感してたんだけど」
「あ、ありがとうございます」
結構不満に思っている部分はあったけど、口に出さなくて良かった。胸をなで下ろす。
「書類仕事できて、優先順位付けも上手くて、報連相早いから、前評判はこっちのことだったんだろうなって」
「買いかぶりすぎではないでしょうか⋯⋯」
素直に喜ぶか悩み、謙遜を選ぶ。私はどちらかといえば自信家だが、自分をそこまですごいとは思えていない。
「ううん、想定よりすごく働いてくれてる。だからこれもお願いね」
そうしてマレーナさんは笑顔で、私に仕事を押し付けた。すごい、第一印象より相当強かだ。
渡された書類を確認すると、追加の報告書である。
「明日の午前中までに地図に落とし込んでくれる? 図面はその後でいいから」
「わかりました」
量はそんなにない。前回と同じ作業でやり方もわかっているし、頑張れば今日中に終わる。
直前に褒められたせいと、的確な期限に、仕事を増やされたのに文句が言えない。マレーナさんはやり手だった。
***
朝、珍しく魔法班の全員が集まっている。班長のマレーナさんを除けば、魔法班は8人。いつも現地調査や王宮資料の確認、実験に視察で全員揃ったのは今日が初めてじゃなかろうか。
「打ち合わせをしましょう!」
マレーナさんの号令で、皆が机の上を片付ける。
アクアハース・リストレーションの臨時本部は、臨時本部というだけあって、机は移動させやすい軽い素材だし、打ち合わせのしやすさを考慮して、皆の荷物も少なめだ。
全員では初めてだけど、打ち合わせ自体は多いから、準備も早い。
皆の準備が整えば、マレーナさんが机の中央に数枚の書類を置く。
「魔法班の皆には、それぞれ封印のやり直し方法の検討と、魔力利用の方法を考えてもらっていました。それは皆わかっているわよね。その上で私も含めて皆、安全な魔力利用は難しいと判断していたと思うの。だけど皆の報告書をセリアちゃんに地図に落としてもらったところ、魔力を安全に利用できる方法を見つけたわ」
今のダンジョンの状態だと、封印はダンジョン内の魔力を活用し、継続的に封印効果が続くもの。魔力利用は、ダンジョンの魔力が一番集まる場所に魔力媒介石を設置した上で、ダンジョン内の魔力を循環させるポンプのような機能を付けている。
封印と魔力利用の両方に耐えられるだけの魔力がダンジョンにないこと。それと魔力循環により封印が破壊されること。その二つにより、今の事象が起こっている。
「新しい封印の手法は、設置時に魔力を込めて、今後も定期的に魔力を込めるものにする。魔力利用は、魔導線をダンジョン内に張り巡らせて、封印とは干渉しないようにする。この方法なら、アクアハースは運用継続できるんじゃないかしら? 皆の意見を聞かせてちょうだい」
即座に、リオネル先輩が手を挙げた。
「結界も魔導線も、保守の負担がかなり増えます」
流石リオネル先輩。言いづらい意見もズバッと切り込み、周囲の信頼も厚いリオネル先輩のことを、私は密かに切り込み隊長と呼んでいた。
ただ、マレーナさんはその質問への回答を既に持っていたらしく、報告書を二枚机の上に置いた。
「結界は極力数を減らすことで、保守の負担を減らしましょう。それから魔力媒介石に、魔導線が切れた場合、それがわかるような反応が出るようにすれば、少しマシになると思うわ。そしてこのくらいの負担増ならば、アクアハースは運用継続する価値があると思うの。贔屓が入っていれば教えてね」
リオネル先輩は、二枚の報告書を持ち上げてじっくり見てから、私たちに見て回すように指示した。
私は一度見ているから、すぐ隣の先輩に手渡す。
「この案であれば、俺もそれだけの価値があると思います」
皆の顔を見て、私たちに何も反論が無さそうなことを確認してから、リオネル先輩はそう言った。マレーナさんとリオネル先輩の意見が揃うと、ますます反論しづらい私たちのことを気遣ってくれたらしい。
「じゃあ、このプランを突き詰めましょう」
マレーナさんが、次の業務分担を発表していく。
私は変わらず、皆の報告書を図面に落とし込む作業の残りをやることになったけど、前のような不満も焦りもなかった。
だって、私はここで学んだことを夏の島に持ち帰って、次はもっと責任ある仕事をすればいい。幸いここには、マレーナさんやリオネル先輩という見習うべき先輩たちがいる。
それなのにどうしてか、喉に小骨が刺さったような違和感があった。不満でも焦りでも、ないけれど。
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