31話 温泉街
乗り合い馬車に三人で揺られ、温泉街に向かう。
「ヴィオラ、任せちゃったけど、どこ向かってるの?」
「温泉街ですわ! セリア好きだったでしょう?」
「温泉⋯⋯、好きだけど、ラウル先輩一緒に入れないよ」
「馬っ鹿お前! 変なこと言うな!」
周囲にたくさん人がいる状況で、大きな声を出したラウル先輩に、ヴィオラと二人冷たい目を向ける。
だから入らないって言ってるじゃん。
「メインの楽しみは、空飛ぶ魔法馬車ですの」
そう言うヴィオラに、次はラウル先輩と顔を見合わせた。私たち、自力で空飛べるけど⋯⋯。
ヴィオラが乗りたくて乗りたくて仕方がなかったという、空飛ぶ魔法馬車に乗り込む。ちなみに一時間待ちだった。すごい人気。
「すごい、馬車なのに全部透明だ」
「景色を楽しむため、そういう作りになっているそうですわ」
これ、どうやって作ったんだろう。乗ってしまえば私は、箒でいいじゃんという思いよりも、魔法馬車への興味が勝って、わくわくしてくる。
動くとき、どんな音が鳴るんだろう。
ちなみに、ラウル先輩はそんな私を見て、理解できないという顔をしている。多分この人はまだ、箒でいいじゃんと思ってる。
景色の解説も聞けますのよ、そう言ったヴィオラの通り、地形文化の解説を聞きながら、魔法馬車は飛んでいく。思っていたより遥かに静かだ。
ーーここは、付近一帯のダンジョン最後の水蒸気爆発をおこした爆裂火口で、いまも噴気が立ち昇っています。
大きな薄茶色の谷に、ところどころ黄色く見える場所があって、そこから白煙が立ち昇っている。
「うぉっ、すっげ」
ずっと興味なさそうにしていたラウル先輩が、でっかい感嘆の声を上げた。
雄大で、自然の不思議を感じる。私もこの光景を忘れたくないと、大きく息を吸い込んだ。
魔法馬車を降りれば、またヴィオラに手を引かれる。春の島に初めて上陸した、私たちを気遣って案内役を引き受けてくれたのだと思っていたけど、純粋に楽しんでいるようだ。
「ここは黒たまごが名物でしてよ!」
元気で明るい笑顔を見せるヴィオラには安心する。だけどその反面、ラウル先輩は黒たまごだけじゃ足りないのではないだろうかと気になってしまう。
ちらっと見えたお土産屋の食事処は、満席だったし、少食のヴィオラは黒たまごだけ食べて出発しかねない。
ラウル先輩の顔を伺えば、服の肩あたりを引っ張られる。耳を貸せということだろう。
「いちいち俺を気にするな。半分くらいお前らの警護のつもりで来てる」
「えー、一緒に楽しみましょうよー」
「半分っつったろ」
私の肩を開放したラウル先輩は、いかにも心配していますといった顔でヴィオラを見ている。
圧倒的に人手の足りていない事務班の仕事に、慣れない家事。魔法洗濯槽の前で立ち竦んでいたヴィオラが心配なのはわかる。
使い方教えるよって言ったのに、視察で全然帰れなかった私も悪かった。「女性服の洗濯手伝うの、マジで気まずかった」って言ったラウル先輩に対しても、それなりの申し訳無さを感じています。
「二人とも何しているの? 早く食べますわよ」
こそこそと話していたら、小さな手が黒たまごを三つ抱えて帰って来た。
ベンチに座って、卵の剥き方を教える。
「お前らって今、仕事何やってんの?」
ヴィオラがまだ卵の殻と格闘しているうちに、黒たまごを完食したラウル先輩が問いかける。
「私は視察の同行と、報告書を地図と図面に落としてます」
「わたくしは機構に届いた要望書を取りまとめていますわ。ラウル先輩はいかが?」
「連携の練習と⋯⋯馬の手配だな」
遠い目をしたラウル先輩に、新人みたいな雑用やらされてる⋯⋯! と同情する。
そうは言っても、私やヴィオラの仕事も、それに毛が生えたようなものだが。
「やっぱり応援じゃ、中心の仕事は任せてもらえないですね」
「そうだな。俺は未だに、引き継ぎ書に書いてあった、アクアハースで発生するモンスターとトラップの位置くらいしか知らない」
「わたくしは仕事こそ雑務ですが、情報は手に入りますわね。気になったのは、周辺貴族や住人の多くは、アクアハースの現状維持を求めているということです」
ヴィオラの言葉にそれはそうだろうと思う。アクアハースから引っ張っている魔力が飯の種になっているのだから、継続してほしいに決まっている。
「何が変なんだ?」
「最初の引き継ぎでは、封印をかけ直して次は安全に魔力を利用できないか。もしくはダンジョンを閉鎖するか。そう聞いておりましたの。今の運用のままで継続するという選択肢はどこから来たのかしら⋯⋯?」
「魔法班では、そんな案ないよ⋯⋯?」
ヴィオラと話が噛み合わず、またかという気持ちが過ぎる。
「先輩全員の報告書読んだけど、安全な魔力の利用案と、それに対して検討したが不可能って内容ばっかり」
「でもそれなら、継続利用したいって結論は一緒なんだろ。同じ方向見てる判定でいいんじゃねぇの?」
ラウル先輩はそう言うが、何だか違和感があって首を傾げる。
「魔法班は、まだ結論を出してない、と思います?」
「もう少し詳しく」
「報告書を見ている限り、心当たりを片っ端から試してるだけ⋯⋯みたいな印象を感じてます。全部の報告書を付けて、検討の結果アクアハースを封鎖しますって書類が簡単に作れそうです」
次はヴィオラが首を傾げた。
「わたくしの要望書取りまとめは、要望が多いため現状維持にしますという書類を作るのかしら? というような作業よ」
「とりあえず、またわかったことがあれば共有にしよーぜ」
私たちは、多少の違和感を抱いたまま、次の目的地に向かうことにした。




