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26話 ダンジョン保全機構 春の島管区

 ここは春の島ーー桜舞い散る美しき王宮と、それを囲むように流れる川。入ることができぬ王宮の美しさは、絵画や戯曲に表され皆が憧れる。そして春になれば川沿いを歩き、桜を楽しむ。

 そして王都があるこの島には、来るものもいれば去るものもいる。その切なさからいつしか、桜は出会いと別れを表すものとして、国中に広がったのだった。


 そして当然、王都がある春の島は、流行の発信源であった。魔法工学や魔法具開発では秋の島に劣るものの、ダンジョンの商業利用では引けを取っていない。



 ここまで読んで、セリアは引き継ぎ書を閉じた。夏の島の急にダンジョンに連れて行かれたのも驚いたが、引き継ぎ書を渡され完全放置も普通に驚く。

 しかもこれ、私向けの引き継ぎ書を作る時間がなくて、適当に魔法工事課の引き継ぎ書渡してるだろ。

 今回の事業ーーアクアハース・リストレーション以外に関わる内容が多すぎる。というかむしろ本当に書いてあるのだろうか。


 はぁ、と一息ついて辺りを見回せば、先輩が何か重そうな荷物を運んでいる。


「手伝いましょうか?」

「お前今日から来た⋯⋯助かる。そっち持ってくれ」

「セリアです」


 先輩に言われるがまま手伝い、設置後に梱包を剥がせば、やっと何を運んでいたのかわかる。いや、かなり予想外だが。


「魔法通話柱じゃないですか! えっこれ!? どうしたんですか!」

「秋の島管区からもらった」


 開発されたばかりの超高級魔法具に、動揺が隠せない。

 確かに秋の島管区なら、魔法具士との関わりも強いし持っていておかしくないが、それにしても太っ腹すぎる。


「本当は秋の島管区にも、冬の島管区にも、応援要請出してたんだよ。で、冬の島管区の返事が予算分けますで、秋の島管区の返事がこれ」


 そう言って、先輩ははぁーっと深めの溜め息をついた。希望通り応援を送ったのは、どうやら夏の島管区だけだったらしい。

 可哀想ではあるが、手伝ったことを恩に着せ、アクアハース・リストレーションについて教えてもらおう。それが目的だ。


「じゃあせっかく応援に来た私に、事業概要教えください。正直この引き継ぎ書は、クソです」

「お前噂通りの手厳しいな⋯⋯」


 了承してくれた先輩の説明に、今自分が知っていることを話す。


「港町で使っている魔法具に、ダンジョン”アクアハース”から魔力を引っ張っている。つい最近、ダンジョンの封印がほとんど解けてしまっていたことがわかった。までは聞いています」


 先輩は一つ頷いて、情報を補足してくれる。


「そうだな、正直もう少し酷い。今はダンジョン内にモンスターが跋扈していて、ほとんど未攻略ダンジョンの有り様だ」

「じゃあ私、もしかして対モンスター向けの魔法使いとして呼ばれました?」


 先輩の補足に少し疑問が過ぎる。確かに私は、対モンスター向けの魔法使いとしても、適性有りと判断されていた。


「いや、それも期待していないと言えば嘘になるが、メインの仕事はやっぱり魔法工事だな」

「封印のやり直しってことですか?」


 聞き返しながらも、かなり疑問だ。春の島管区にだって、魔法工事課や封印開発課がある。

 魔力利用が原因で封印が解け直したのなら、管区の魔法工事課と封印開発課で、もう一度同じ封印を施し、ダンジョンを閉鎖すべきだ。


「港町の夜景は、春の島の新しい観光地として有名になっていて、金の動きも大きい。封印をかけ直して次は安全に魔力を利用できないか。もしくはダンジョンを閉鎖するか。それを決めて実行するまでが、アクアハース・リストレーションだ」


 固まった私の肩を、先輩がポンと叩く。


「聞いたよ、期待の二年目なんだってな。こんなに早くから重たい事業に関わらされて、可哀想にな」

「私は何から⋯⋯取り組む、いや勉強すればいいでしょうか?」


 先輩に励まされ、ギギギと音が鳴りそうな動き方をする。

 まさか応援に来て最初に、仕事くださいじゃなくて、勉強させてくださいって言うことになるなんて!


「お前噂通り優秀だよ。過信しないし切り替えが早い」

「そうで、しょうか⋯⋯」


 現時点でできることが思いつかなかっただけである。


「そういうことは、明日マレーナさんに聞いてくれ。今日は歓迎会でもんじゃ食べに行くから、終業の鐘がなったら帰れるようにしとけよ」


 そう言われて、すっと頭が切り替わる。

 春の島の名物、もんじゃ。楽しみ⋯⋯。


 



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