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24話 大慌ての引き継ぎ②

 今日、午後からラウル先輩とヴィオラと合流して魔導船に乗る。

 急に春の島へ応援に行くことになった私たちへの気遣いとして、今日の午前中はお休みだ。


 なんだかんだ、荷物の準備は昨日終わっていたから、私は普通に半日のお休みを満喫していた。

 はんこの貯まった湯めぐり帳を眺めて、なんだかんだ春の島も楽しみだと想像を巡らせる。

 夏の島で地道に巡っていた温泉。数こそ夏の島の方が多いが、春の島の方が街道や乗り合い馬車が多い。休日のたびに温泉に行くのだって、夢じゃないのだ。


「セリア! いるか!!」


 扉が叩かれ、先輩の声がする。今日出発の私の下宿先に来るということは、相当な何かがあったに違いない。


「います!」

「良かった! 今すぐ荷物持って機構に行くぞ!」

「はい!」


 緊急事態だとはわかっていたので、あらかじめ荷物も引っ掴んでいる。言われるがままに箒にまたがって全力のスピードを出した。



***



 機構に着けば、小走りで会議室に連れて行かれる。詳細が聞きたいが、多分それどころではないのだろう。

 説明がもらえるタイミングまで待つつもりだ。


「セス!?」


 会議室に入れば、なぜかいるのはセス一人。先輩は「詳しいことはセスに聞いてくれ」と外に出て行ってしまった。


「今日、貴族の視察じゃ⋯!?」

「それの! 希少な魔法植物の場所がわからないんです!」


 自分が引き継いだはずの仕事の内容を言えば、セスの口から呼び出された理由が明かされる。

 そういえば、シール・メンテのことは詳しいだろうと、今日の視察の引き継ぎを適当に済ませてしまっていた。


 セスに渡されたダンジョンの地図を見て、すぐに魔法植物の場所を指し示す。

 セスはその通り地図に印を入れ、もう一度口を開く。


「あと、担当の魔法資源管理課の人って、今日の視察行かないんですか?」

「え、行くはずだけど⋯⋯」


 言われてみれば、魔法資源管理課の担当魔法管理官がいれば、別に私を呼び出さなくても解決できたはずだ。

 不思議に思っていると、会議室に疲れ切ったヴィオラが入って来た。


「ヴィオラ!?」

「セス! あの時間管理できない魔法官は今捕まえてきましたわ。先輩と合流して差し上げて」


 ヴィオラも同じ一件で呼び出されていたらしい。多分私より早くからいるのだろう。椅子に座って動かなくなってしまった。


「じゃあ僕行ってきます!」

「あっ行ってらっしゃい! 迷惑かけてごめんね」


 セスが出ていくのと入れ違いに、ラウル先輩が入って来る。これで春の島応援メンバーが全員揃ってしまった。一体どういうことだ。


「ラウル先輩も!?」

「やっぱりお前も呼ばれたか⋯⋯」


 そしてラウル先輩も椅子に座って動かなくなる。この後、魔導船に乗るんだけど、二人とも大丈夫かな。



 回復したら話してくれるだろうと、静かに待っていると、ゆっくりと扉が開く。

 入って来たのは、アレイシオ殿下、魔法工事課長、ダンジョン警備課長、運営調整課長の四人だ。

 それに一切無反応で突っ伏している、ラウル先輩とヴィオラを慌てて揺さぶる。っていうか何事!?


「あまり緊張しなくていいよ。私は管理卿の代理だからね」


 アレイシオ殿下はそう言ってくれるが、ここにいるのがアレイシオ殿下ではなく管理卿でも普通に緊張する。


「じゃあ順番に言い訳を。直属の上司から聞いてもらおうか」


 アレイシオ殿下がそう言うと、まずダンジョン警備課が書類を見ながら話し出した。


「ラウル、今日の視察に行く剣士がいなかったのはなぜだ」

「申し訳ございません。頼んだのですが誰も行きたがらず喧嘩になってしまい、そのまま忘れてしまっていました」


 次に魔法工事課長が口を開く。


「セリア! 何でセスが魔法植物の場所を知らないんだ!」

「すみません。セスがシール・メンテに参加していたため、今日の引き継ぎを適当に済ませてしまっていました」


 最後は運営調整課長だ。


「ヴィオラ。今日の視察の担当官が急に入れ替わっていたのは、わかっていたはずだ。それにあいつの遅刻癖も。後任になぜ一言伝えておかなかった。貴族の情報よりも大切なことだろう」

「申し訳ございません。引き継ぎの優先順位を間違えていましたわ」


 私たち三人とも頭を下げ、場が沈黙する。

 自分のミスを反省しながらも、どうして二人がここにいるのか、状況がやっとわかった。


「三人とも、短い期間で引き継ぎを頑張ってくれたのは知っている。この無茶な状況下であれば、多少間違いや漏れがあるのも仕方がないことだろう」


 アレイシオ殿下がフォローしてくれ、ささくれ立っていた心が少しだけ落ち着く。

 言い訳だけど、相当忙しかったこと。無茶を言われたこと。加味してほしい。


「いえ、殿下。これはただの間違いではありません」

「誰か一人でも気づけば、この問題は起きなかったんだ!」

「君たちは三人で春の島に行く。その君たちこそが、情報共有できてなくてどうするつもりかね?」


 三課長は一切手を緩めてくれない。ただ話を聞いていて、その通りだとも思い始めた。


「ラウル、セリア、ヴィオラ。顔を上げてごらん」


 アレイシオ殿下の声に顔を上げる。机の前に立つ殿下は、課長たちと違い、本当に怒っている顔をしていなかった。


「春の島は夏の島とは違う。関わる相手も初対面の人ばかりだろう。春の島にいる間、君たちの誰かが引き受けた仕事は、君たち三人の仕事。そのぐらいの意識で、皆の仕事を気遣うように」

「はい」

「わかりました」

「気をつけますわ」


 アレイシオ殿下の言葉に、私たちは思い思いに返事をする。

 私たちの春の島応援は、まさかの出発前から失敗という、不穏な始まり方をしたのだった。

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