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23話 大慌ての引き継ぎ①

 昼食後席に戻れば、ポンと置かれているのは通達だ。

 昼休みに聞いて、内容は知っている。だからこそ、触りたくない。見たくない。


「セリア、ヴィオラ嬢から何か聞き出せたか?」

「私、来週から春の島へ応援に行くらしいです」

「はぁ?」


 聞いてくる先輩に、机の上を指し示す。


「触りたくないんで、かわりに見てもらってもいいですよ」

「⋯⋯うわっ、マジで書いてる」


 一縷の希望がここで潰えた。


「誰がセリアの仕事、引き継ぐんだろうな」


 少し遠くからボソッと聞こえた声に、周囲の先輩たちがすぐさま自分の仕事に向かう。

 なんでこう、逃げ足だけが速いんだ。



「お、セリア。通達見たか?」

「見ましたけど⋯⋯」


 ため息をついて席に座ろうとしたら、課長が戻ってくる。そして後ろには、なぜかセス。


「俺もギリギリまで断ろうとしたんだがな、お前が春の島に行くのは変えられなかった。だがその代わりに、セスを期間限定で借りてきた!」

「そうですか⋯⋯」


 それ、私にとっての結果はあんまり変わらないです。そう言いたかったが、周りの先輩たちの安堵のため息が聞こえたからやめた。


「じゃ三日しかないけど、引き継ぎ頑張れよ」


 課長はまたどこかに去っていき、セスは私の目の前でペコリと頭を下げた。


「えっと、とりあえず今日は引き継ぎ書作るから。あー明日、また呼びに行くね」

「明日は僕が封印の現場でいません」

「じゃ、じゃあ明後日」


 実質一日しかない。

 急に痛み出した頭を押さえながら、引き継ぎ書を作るため、真っ最中だった図面整理は置いておき、新しい紙を取り出す。

 そう、まずは仕事の整理をしなきゃならない。


 一つ目、今やってる図面整理。担当の区画と、提出先は封印保全課と書く。図面一覧を引き出しから取り出し、机の左端に置く。

 これは封印保全課に締め切りの先延ばしをお願いしたほうがいいな。

 二つ目、来週の貴族の視察。シール・メンテ関係の視察で、関係者は運営調整課とダンジョン警備課。

 これは引き継ぐ相手がセスで良かった。詳しいからダンジョンの説明は要らないや。参加する貴族の説明を取り出して、図面一覧の隣に並べる。


 そうやって、仕事を全て書き出し、関係する書類をまとめたら、もう日暮れが近い。

 魔法具で一冊の本にまとめ、机の上に置いたら、封印保全課に向かう。



「図面整理の件で、今いいですか?」

「セリアか。いいよ」


 封印保全課に行けば、運よく依頼主の先輩がいた。


「私来週から春の島に行くことになって、図面整理は後任に引き継ぐことにしたので、締め切り延ばしてもらえませんか?」

「来週から春の島って。もともとの締め切り来週頭だろ? 自分でやっていけよ」


 先輩はまあまあ厳しかった。

 私これ、秋の島ではもう少し遅めにやる仕事だって知ってるんだぞ。前の配属が封印保全課だったからな。そう言えたら多分幸せだった。


「でも引き継ぎとかあるので⋯⋯」

「じゃあセスに急ぎでやらせれば。後輩だし言いやすいだろ」


 ほんっとうに取り付く島がない。

 申し訳ないですけど、そういう無茶を押し付ける先輩にだけはなりたくないんです!

 もういい! 今日は居残りだ!



***



「引き継ぎ書、分厚いですね」

「一応締め切り近い順に並べたのと、一番上の図面整理は終わったから⋯⋯」


 セスにドン引きしたような声を出され、ただひたすら謝罪しかできない。

 私も作りながら思った。あれ、分厚いな? あれ、私仕事多いな? って思った。

 それに昨日見せた課長にも、同じこと言われた。課長は「セスじゃなくてエルネストが良かったか⋯⋯」とも言ってたけど、流石に私の不在でエルネスト先輩はやりすぎだと思う。


「セスは封印開発課しか経験ないよね?」

「はい」

「じゃあ今日は、ダンジョン実際に行っといた方がいいね。魔法工事課は一人でダンジョン行くこともあるけど、最初は先輩かダンジョン警備課にお願いしたほうがいいよ。危ないから」

「わかりました」


 セスに背負鞄を持ってきてもらって、一緒に開く。びっくりするほど、中身がない。封印開発課あんまり現場に行かないもんな。

 自分の背負鞄から、セスの背負鞄に補給物資やランタンと、ダンジョンに入るための魔法鍵を移す。


「魔法鍵は絶対に手放さないで。他所の人でも、これさえあればダンジョンに入れるから。あと、もしものときは、一度だけ機構に合図を送れるから、緊急事態に陥ったら使って」

「はい!」



 良い返事をしてくれたセスと共に、担当ダンジョンの中で一番近いところに向かった。


「このダンジョン、暗いですね」

「そうだね。でも照らせば問題ないよ。ほら、照らして」


 そう言うと、セスは火属性魔法を使って、辺りを照らした。


「火属性魔法はあんま使わない方が良いよ。息苦しくなるときがあるから」

「僕、光属性魔法あんまり⋯⋯」

「渡したランタン、光属性の魔法具だから。それ使った方がいいね」


 少し歩いて、課題となっているダンジョン内の池に行く。


「この池に発生するキラーフィッシュが、ちょっと珍しいんだって。だけどこの近い一帯が同じ封印に収まっているから、この池だけ別の封印に変えて、簡単に解除できるようにするのが目的」

「コカトリスみたいな感じにするんですか?」

「そうそう」


 定期的に解除されている封印は他にもある。封印開発課にいるだけあって、セスにとってもそこは守備範囲内だったようだ。


「まずは、封印設置の場所を考え直して、それが終われば、モンスターを退治しながら封印のやり直しだね」

「封印の場所って図面上で決めるんですよね?」


 セスになぜわざわざダンジョンに来るんですか? とばかりの視線を向けられる。


「図面は結構古いからね。図面と現場が合っているかの確認と、そもそもダンジョンの歪みだったり、モンスターの発生箇所の封印漏れがないかも先に確認しておいた方が良いの。特にこのダンジョンは、魔法資源管理課も来ないから」

「そうなんですね⋯⋯」


 一応承諾のような返事を返してくれた、セスの声には熱がない。あんまり現場向きではない性格なのだろう。


 そんなとき、ぱちゃぱちゃと何かが水たまりを踏む音がして振り返る。


「ジャイアントフロッグ⋯⋯」

「封印漏れあったね」


 正直資料を見たときから、ジャイアントフロッグが出る可能性はあると思っていた。

 このぐらいなら、セスに任せようと静観の構えでいるが、なぜか動かない。


「セス?」

「えと、こういうときどうしたら⋯⋯」

「ん? 戦うんだよ」


 促しても、セスは魔法を発動しようとしない。

 こりゃ厳しそうだなと思いながら、光の矢を発動する。


 こうやって人の心配ばかりしているから、自分の足元を掬われるのだ。


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