22話 不審な上司と同僚たち
最近、課長が席を外していることが多い。そのうえ帰ってくるとき、決まって機嫌が悪い。
私以外の先輩たちも気にしているようで、勝手に情報通だと思われている私は、先輩たちに無理矢理背中を押され、今日の昼食にヴィオラを誘いに行く。これギリ、仕事の話じゃない判定だよな⋯⋯。
それに先輩たち、私の図面整理手伝ってくれるって。本当なのかなぁ。
ヴィオラとのランチは嬉しいけれど、正直今は外にご飯を食べに行っている余裕はない。
少し気が重い状態で、階段を登っていく。
「ヴィオラ、今大丈夫?」
「セリア、今週が山じゃなかったのかしら?」
前の休日にヴィオラと食事に行った際、仕事の愚痴をかなり言ったからか、即座に仕事の話ではないとばれてしまった。
「そうなんだけどー。一緒にお昼行こう」
「あらあなたも?」
「私も?」
聞き返した私の言葉が、休憩開始の鐘の音にかき消される。
「まぁ、セリアなら連れて行ってもいいでしょう。行くわよ」
何もわからないまま、ヴィオラについていけば、階段下にラウル先輩がいた。
「ラウル先輩と約束してたの?」
「そうよ」
頷くヴィオラに、じゃあ私お邪魔じゃないかなと悩む。
二人からは何も聞いてないが、私は二人の関係を、もしかしたらもしかするんじゃないだろうかと、勘ぐっているのだ。
「お疲れ、セリアも行くのか⋯⋯」
少し悩む様子を見せるラウル先輩に、やっぱり今からでも帰ろうかなと悩み始める。けど仕出し弁当、先輩に買い取ってもらっちゃったしなぁ。
「セリアってトマトいけるか?」
「え、いけますけど⋯⋯」
かなり真剣な顔で問いかけてきたラウル先輩に、少し引く。トマトは好きだが一体何の話だ。
「じゃあよし。もう完全にトマトラーメンの口だったんだよなぁ」
「わたくしも、わざわざ黒い服を着てきましたの」
楽しそうに歩く二人。私が邪魔では無さそうなことはわかったし、トマトラーメンに行きたいから、私がトマト食べられるか真剣な顔をして聞かれたのもわかった。
いやでも待って。二人って一緒にラーメン食べに行くような、そういう間柄でしたっけ?
それに私今日、白のブラウスだ。
「にしても、セリアを誘ってくれてよかったよ」
席についたラウル先輩の第一声がそれで、少し驚く。私はまだ何も状況がわかっていないのですが。
「いえ、セリアから誘ってくれて、ちょうど良いから連れてきましたの」
「なるほどな。じゃあどっちから言う?」
「それはもちろん、誘われたわたくしでしょう?」
ラウル先輩は心得たとばかりに頷くが、私は何もわかっていないまま、とりあえず店員からトマトラーメンを受け取る。これ飛ばしたら絶対やばい。
「聞いてくださいまし! このわたくしに、春の島に応援に行けとの通達がありましたの! このわたくしに!」
「えっ? ヴィオラに?」
「次は俺の話を聞いてくれ! 俺にも春の島への応援の通達があった! 最悪だ!」
「ラウル先輩にも!?」
言い切って二人はトマトラーメンをすすり出す。なんというかこう、本気の食べ方だ。
「そのうえ昨日急に言われるなんて! ふざけないでくださいまし!」
「昨日言われて来週なんて納得できねぇよ! クソッ! こんな日は食って発散するしかねえ!」
「わたくし今日という日は、チーズリゾットまで食べきりますわ!」
そう言ってやはりトマトラーメンにかじりつく二人に、大人のストレス発散法だなと、遠い目を向ける。
同じ不本意な通達があったもの同士、ストレス発散の約束をしていたのかと、先ほどまでの疑問も解決した。
トマトラーメンを食べきった頃には、二人も少し落ち着いたようで、チーズリゾットを食べながら、事情を説明してくれる。
「春の島の大規模な仕事があるらしい。それで人員が足らねえからって、夏の島からも応援を出すことになったんだと。つかお前まだ聞いてないのな」
「私まだ聞いてないとはつまり⋯⋯」
この時点で察した。察したけれども。
「応援はラウル先輩、セリア、わたくしの三名ですわ」
「そうきましたか⋯⋯」
がっくり肩を落として、チーズリゾットにありつく。夏の島、ご飯美味しくて気に入ってたんだけどな。
「期間は三カ月から半年程度で、一応夏の島に戻って来れるらしい」
「三カ月はともかく、半年って長くないですか⋯⋯」
「わたくしも! わたくしもそう思いますわ!」
「俺もそう思う」
私の漏らした言葉に二人が力強く同意して、私も夏の島に染まっているな、と気づいた。
読んでいただきありがとうございます。
次話から投稿を木金土の週三日に変更します(21時〜23時目安)。




