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21話 お仕事ではない祝杯

 シール・メンテの翌朝、ルミエナ殿下は王宮に帰られた。

 運営調整課が港まで送って行き、私は正門前広場でその帰りを待っている。

 昨日の疲れもあり、席にいたってあまり集中できないから、どうせならと思ったのだ。


 そわそわするのか、私以外にも正門前広場に出てきている人は多い。

 ルミエナ殿下が来る前よりも落ち着きがないのは、ルミエナ殿下を知ってしまったせいで、本当に何事もなく帰ってくれるのか、不安になった人も多いからだろう。


 ダンジョン保全機構の馬車三台が正門前広場に入ってきて、周囲の人がバタバタと立ち上がる。

 隣りにいたラウル先輩もだ。

 あんなに運営調整課と仲悪いのに待つのか、とラウル先輩が広場に来たときは思ったが、ルミエナ殿下に最も振り回されたうちの一人であることも間違いない。


 まず一台目の馬車からは、運営調整課長が出てくる。二台目の馬車からも運営調整課の先輩が一人。そして三台目の馬車から、ヴィオラが出てきた。

 

「ルミエナ殿下は、無事出航されました」


 運営調整課長が宣言し、ワッと盛り上がる。視察から帰られて、こんなに盛り上がる人は、ルミエナ殿下だけだろう。

 運営調整課長のもとには、管理卿や事務局長が向かい、並んで正門に歩き出す。休む間もなく報告らしい。


 それとは違い、運営調整課の先輩は同期らしい人たちにもみくちゃにされ、ヴィオラは⋯⋯。

 あっ、一直線に私の方向かってる! 珍しくめっちゃ走ってる!


「セリア!!」

「ヴィオラ! お疲れ様!」

「ほんっとうに疲れましたわ!! こんなに予定と違うことばかりさせられる視察、中々なくてよ!」


 そうだよな、とうんうん頷く。

 私たち魔法工事課も予定外のことだらけだったし。魔法資源管理課は、ルミエナ殿下に渡された魔法植物の解析で、出迎えどころじゃないらしいし。

 だけど、直接ルミエナ殿下についてまわっていた部署が大変に決まってる。

 そう、運営調整課とダンジョン警備課が⋯⋯。


「何お前ら一人一台馬車使って、英雄みたいな戻り方してんだ」


 横から聞こえた、ラウル先輩の声に、呆れのため息が出る。

 ラウル先輩、こんな時に喧嘩売らないでください。


「行きにルミエナ殿下と随行員の方たちが使われていた分の馬車ですわ。空の馬車を走らせるのも可哀想ですし、別れて乗りましたの。全く、少しは物事の裏を読み取れないのかしら」


 いや、ヴィオラも買わないで。


「なんだと!? クソ、少しは労ってやろうと思って待ってたっつーのに」

「わたくしだって、ダンジョン警備課の協力あってこそ無事終わったと認識していましたのに。先ほどの侮辱で、感謝の気持ちなどなくなりましたわ!」


 え? お互い、感謝と労わりの気持ちがあってこれなの!?

 どうして普通にそれを伝えられないのか。そして私を間に挟んで口論しないでほしい。戸惑うから。


「えーっと、じゃあ。お互い感謝の気持ちがあるということで。私も感謝の気持ちがあるし、三人で祝杯でもあげますか」


 ええい、どうとでもなれ。そう思って、めちゃくちゃ適当な提案をする。

 多分拒否して、どっちか執務室に帰るだろう。それがラウル先輩だったら無視して、ヴィオラだったら追いかけよう。


「まぁいい、けどよ」

「わたくしも、構いませんわ⋯⋯」


 なぜか二人とも肯定の返事をして、執務室に帰って行く。

 大口を開けて、放置された私は、斜め後ろからの笑い声を受けて、やっと現実に戻ってくる。


「アレイシオ殿下⋯⋯」

「面白いよね、この二人」


 笑いながらアレイシオ殿下は、さっきまでラウルがいた、私の隣に移動する。


「あの二人って、もしかするともしかすると⋯⋯なんですか?」

「さぁ? 二人のことは昔から知ってるけど、こんなことになってるとは思ってなかったしね」


 そういうアレイシオ殿下の頬は、苦しそうにピクピクと動いている。


「私、あの状況の二人に挟まれて、祝杯上げることになりました⋯⋯」

「うん。ッ見てたよ」

「え、今笑いましたよね?」

「笑って、ッない、よ」

「絶対笑ってます。笑った罰として、どうです? アレイシオ殿下も」


 伺うように言った私に、今度こそアレイシオ殿下は声を立てて笑った。

 


***



「では、視察が無事に終わったことに!」

「乾杯!」


 四人で杯を合わせる。

 勝手にアレイシオ殿下を誘ってしまったけど、廊下で事前に告げたときも、二人は特に気にする様子はなかったし、今も普通だ。

 ヴィオラは「いいですけど、セリア少々勘違いしていませんこと? わたくしの兄とアレイシオ殿下が仲良いだけで、わたくし自身はアレイシオ殿下と友人というわけではなくてよ」と言っていたけれど、嫌なときはちゃんと嫌だと言う子なので、問題はない。

 ラウル先輩なんか「確かに! あの人も立役者だよなぁ! 年も近えし、おっさんらの飲み会にに連れて行かれるより喜んでくれそう」とだいぶ乗り気だった。


「にしてもセリア、すげえ店選んだな」

「課長におすすめ教えてもらったんですけど、ダメでした?」


 ラウル先輩に指摘され、首を傾げる。課長には、ちゃんとお手頃な店を教えてもらったんだけどな。

 それに、すぐに出てきたもずくが美味しい。結構当たりの店じゃないだろうか。


「あーあの人か。この店、すげえ度数高え酒置いてんだよ。つかせっかくだし頼んどいた。これ」

「宴会にこの店を選ぶと、飲める人と勘違いされるから、気をつけることね」


 ラウル先輩の説明と、ヴィオラの注意に、なるほどと頷く。

 やはり夏の島には、知らない文化がいっぱいあるらしい。


「あ、でも。アレイシオ殿下は結構お好きなんですよね? 泡盛」

「そうなんですの?」


 ラウル先輩がニヤニヤとアレイシオ殿下に詰め寄る。なぜかヴィオラも良い笑顔で、アレイシオ殿下を追い詰めている。


「⋯⋯好きだよ。魔法工事課長のこれは、私への気遣いかもね」

「ヒュー! じゃ、もっと頼みましょう!」


 楽しそうに注文しに行くラウル先輩。なぜか照れて、手で顔を仰いでいるアレイシオ殿下を覗き込めば、気まずそうな顔をされた。


「実は好きなんだ。こういう、治安の悪い飲み方」

「へえ。やっぱり、アレイシオ殿下って結構男の子ですよね」


 私がそう言った瞬間、隣のヴィオラが崩れ落ちた。

 泡盛のせいか、疲れのせいか。ヴィオラも結構酔っているらしい。


「アレイシオ殿下、バレちゃってましたねー!!」


 ラウル先輩も酔っているのか、アレイシオ殿下の肩をバシバシと叩く。


「記憶をとばさせてあげよう」


 そう言って、ラウル先輩の杯に酒を注ぐアレイシオ殿下がやけに楽しそうに見えたから、きっと私も酔っているのだろう。



ーーこうやって、仕事の達成を祝って、楽しく笑い合える人がいる。そんな私の仕事は、明日もきっと楽しい。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

夏の島編はここで一区切りとなります。

この先は、ダンジョンという現場と王族たちの選択が、より強く交差していきます。

ここまで楽しんでくださった方は、これからの展開も見守っていただけると嬉しいです。

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