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2話 ダンジョン保全機構 夏の島管区

 ここは夏の島ーー青い海。生い茂る緑。肥沃な大地と海の恵みに愛されている。大地の緑と海の青が生むコントラストの美しさは、様々な物語や戯曲で語られ知らぬ国民などいない。

 そしてこれはあまり知られていないが、島民の地元愛が強すぎる地域でもある。

 平民が離れたがらないのは、農業、漁業、畜産が栄えているのだから当然と言えよう。だがなぜ、貴族も島から出たがらないのか。


 他の島の貴族に嫁げば、あるいは婿に入れば、貴婦人になれる、爵位を継げる。

 そんな条件を捨ててでも、なぜか彼らは夏の島に残るのだ。


 そんな事情から、平民が主力のダンジョン保全機構でも、夏の島管区には異常なほどに貴族が多い。

 男爵家の令息令嬢なら他の管区でもそれなりにいるが、子爵家の令息令嬢がゴロゴロいるのは夏の島だけだ。



「ラウル先輩、ほんっと、ほんっっとうにありがとうございます!」


 勢いよく頭を下げる私に、ラウル先輩は「いいって」とニカッと歯を見せて笑ってくれた。本当に助かる。


 先日、ダンジョンの封印が解けたため、現場調査すらままならない。急いで簡易的な封印措置を行うことになったのだが、そのためにはもう一度ダンジョンに入らなければならない。そして一度封印が解けたダンジョンに入るには、剣士の同行が必要になる。

 魔法使いばかりの魔法工事課に所属している私には、ダンジョンに一緒に行ってくれる剣士の伝手がなく、最初の壁にぶち当たってしまったのだ。そもそも夏の島管区に配属されたばかりだというのに、伝手がある方がおかしいよ。

 さらに同行を依頼するダンジョン警備課も、他の課と同じく貴族ばかりときた。

 そんな中、一番身分の低い男爵家出身のラウル先輩にダメ元でお願いしてみたところ、快く引き受けてくださったのだ。


「俺もセリアのことは噂で聞いて、気になっていたしな」

「噂って何ですか?」


 もしや優秀な若手的なやつですか!? と期待に耳をピクピクさせる。


「平民なんだろ?」

「あ、そうです。夏の島管区、貴族ばかりですもんね」

「俺は貴族っつっても名ばかりで、この仕事で食ってるからよ。勝手に親近感湧いてたんだ」


 そっちの噂かーと一度はガッカリしたものの、それを上回る嬉しい言葉をいただいた。

 ラウル先輩、私も親近感が湧きました!


「で、こっからどーすんだ? 剣士は一人でいいのか?」

「えっと私、前まで封印保全課だったので、こういう仕事初めてで⋯⋯」


 剣士は一人でいいか? とラウル先輩に問われ、考えておくべき前提が漏れていたと焦ってしまう。

 情けない言い訳を口走りながらラウル先輩の顔を見ると、変わらず私の話を聞いてくれる姿勢を保ってくれている。

 その状況に安心して、資料を見せながら、今の状況の説明を始めた。


 一つ目、封印開発課に簡易封印くださいと依頼したが、ダンジョン封印当初の資料がないと厳しいと言われた。

 二つ目、アレイシオ殿下が王宮に資料が残っていないか探してくれている。

 三つ目、アレイシオ殿下が資料を探してくれている間に、ダンジョン警備課に協力をお願いしに来た。

 四つ目、同行してもらう剣士の人数の決め方がわからないから、教えてほしいということ。


「アレイシオ殿下って結構実務に関わってんだな。悪い、話がそれた。それならセリアはダンジョン攻略時の資料の確認をした方がいいな」

「ダンジョン攻略時の資料、ですか?」

「普通は封印の資料を見れば、発生するモンスターがわかるんだが、今回はそれがないんだろ?」

「はい」

「じゃあダンジョン攻略時の資料から、発生するモンスターを見てくれ。あとどのモンスターなら剣士何人っていうのは、規定に載ってるぞ」


 ラウル先輩への感謝よりも先に「マジか」という感情が生まれてしまう。

 もちろん、ラウル先輩に次にすることを教えてもらえたのは助かった。いい先輩だ。今日から懐く。

 だけどそれ以上に、この仕事、思ってたより、現場から遠い!!


「顔に出てるぞー。まあわかるよ。想像と違うよな、この仕事」

「うっ、すみません」

「でも二年目で魔法工事課だろ? 期待されてんじゃん」


 確かに評価され、期待され、魔法工事課に来た。

 だけど配属初日以来、ずっと資料探し、計画立案、依頼と調整しかしていない。その上次は規定ときた。魔法使いというより、ほとんど文官の仕事だろこれ。

 でも、前いた封印保全課も、もう少し現場に近いとはいえ、魔法を使うことはあっても、さらに魔法を磨く必要を感じないところだった。ダンジョン保全機構自体が、こういう組織なのだろう。

 だって地元では魔法を磨くなら、もうダンジョンじゃない。魔法具開発だ。って言われていた。

ーー時代遅れ機構って呼ばれているのも、知っていて就職した。


「それに、ここにしかないっていうやりがいもあるからさ」


 フォローするようにラウル先輩が言う。

 私は本当は別に、やりたいことがあった。王女の影武者であった過去が、それを許さなかった。

 だけど残った選択肢の中で、自分のやりたいことがここでしかできなかったから、ここに就職したんだ。


 複雑な気持ちを抑え込み「そうですね。早くダンジョンに入れるように頑張ります」と言えば、ラウル先輩は「任せたぞ」と歯を見せて笑ってくれた。


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