19話 シール・メンテ③
当初たった十人の予定だったシール・メンテの参加者は、ルミエナ殿下と随行員が加わったことにより倍の二十名となっていた。
自分の手の届かないところで、自分の仕事がどんどん大きくなっていることが怖い。
今日もし何か、予想外のことがあったとして、私は正しい判断を下せるのだろうか。
そんな大行列の先頭を、ラウル先輩と共に歩く。
「なんで私が先頭なのでしょうか?」
「その手に持ってる地図をもっかい見てから言え。俺の方が嫌だわ」
くだらない愚痴は瞬殺される。そりゃそうですね。ラウル先輩の方が嫌でしょうとも。わかります。
「最初の空間補正魔法地点、もうすぐ着きます」
「おー」
私とラウル先輩が止まれば、後ろの集団もピタッと止まる。嫌だなぁ、このプレッシャー。
これ、さっさと空間補正魔法かけて良いんでしょうか? 何か宣誓とかすべきですか?
馬鹿みたいなことが気になって、ラウル先輩に視線だけで問いかければ、やはり目だけで馬鹿かと切り捨てられた。
そりゃそうか。普通の仕事には変わりない。
「無系統魔法ーー歪度測定、基準位相固定。補正開始」
杖を振れば、目の前の歪みがみるみる直っていき、歪みが直ったことがわかる。
うん、大丈夫そう。
そうやってまた次の目的地へ歩き出す。
歪みが直った瞬間、少し後ろがざわついた気がするが、それも気にしない。
気にしてしまったら最後、仕事に集中できなくなりそうだ。
「次は簡易封印の解除ですね」
「そうだな。今日は温存のため下がっとけ」
「わかりました」
簡易封印を解除して出てくるモンスターは、ダンジョン警備課の先輩たちや魔法資源管理課の先輩たちが対処してくれる。
新しい封印と干渉しないよう、数箇所の封印を解除したままにしているから、移動中もたまに遭遇するけれど、そのための他部署応援だ。
私は何もすることなく、地図を見ながら歩くだけ。
「封印設置地点です」
最初の封印設置地点に到着し、後ろに向かって声を張り上げる。
そしたら、エルネスト先輩とセスが前に出てきた。
二人で何か話しながら、やはり淡々と作業し、数分後には青い光が部屋に灯った。
正常動作だ。
「順調ですね。仕事とはかくあるべきって感じがします」
「お前、配属後ずっとトラブルに見舞われてるもんな⋯⋯」
喜ばしいと声に出せば、ラウル先輩に可哀想なものを見る目を向けられた。解せない。
そうやって、半分ほどの封印を設置し終えたときだった。
急に地面が小刻みに揺れ始め、床に膝をつく。
「頭を庇え!!」
ラウル先輩の鋭い声が部屋中に響き、まさかと上を見上げる。
崩壊しつつある天井と、落ちてくる瓦礫ごと包み込むような大量の水。
アレイシオ殿下だ!
列の後方に目をやれば、杖を持って天井を見上げるアレイシオ殿下がいる。予定通り動いてくれた。そのアレイシオ殿下の行動に、私の心に余裕が作られる。
瓦礫ごと包み込むような大量の水は、そのまま天井と、四方の壁を覆うような形で凍り付く。
それを見上げながら、私も杖をもう一度握り直した。
「土属性魔法ーー体積、強度を設定。展開」
これで完全に分離して、瓦礫となったもの以外は、天井として固着され、強度も担保されただろう。
私が安心して息をついていれば、後方のざわめきが広がる。
瓦礫が落ちてこないことに気づいた皆が、少しずつ顔を上げているのだろう。
視線を全体からもう一度アレイシオ殿下に移す。
アレイシオ殿下もこちらを見ていたようで、目が合う。
お礼を伝えたくて、軽く目を伏せようとする。だけどその前に、アレイシオ殿下が自慢気に右の口角を上げた。
何だかまるで、秘密の作戦が成功した子供みたいだ。アレイシオ殿下につられるように、私もいたずらっぽく右の口角を上げた。




