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18話 シール・メンテ②

 ルミエナ殿下は、今日は運営調整課の随行で、夏の島の魔法具士のもとを訪ね、夕方には帰られるらしい。

 私が手伝えることは何もないから、明日実施のシール・メンテに備えて、色んな不測の事態を考えていた。

 机上だけでなく、封印開発課の研究室も借りて、少し魔法の練習もしたし、アレイシオ殿下に頼みたいことがあったから、それもちゃんと手紙を残しておいた。


 そうやって、執務室に帰ってきたときだ。よく知っている、高い声が聞こえたのは。


「どういうことですの、ダンジョン警備課長! あなた、話したでしょう!?」

「馬鹿お前! 目上の人にその態度やめろ!」


 今日の口論の相手はラウル先輩ではなく、ダンジョン警備課長らしい。


「落ち着きたまえヴィオラ嬢。それに自分は明日決行とまでは話していない。目処は立っていますと答えたのみ」

「ではどうして! ルミエナ殿下が明日のシール・メンテに同行したいとおっしゃいました! 日まで知っていらしたのよ!」

「だからお前⋯⋯! 俺が課長にちゃんと聞いて、あとで運営調整課行くから! なっ?」


 ヴィオラは、ラウル先輩の手によりダンジョン警備課長から引き剥がされ、執務室の外へ連れ出されて行った。

 また私に関係あるやつじゃん、と思いつつも、それ以上に気になったことがある。


「ヴィオラとラウル先輩って結構、仲良し?」

「知らなかったのか?」


 私の小さな呟きは、隣の席の先輩に拾われた。


「はい。やっぱり仲良しなんですか?」

「仲良しっつーか。良きライバル的な? そもそも運営調整課とダンジョン警備課ってどこも仲悪いじゃん。最近はもっぱらあいつらが喧嘩するから、課長たちが揉めなくて助かってるよ」


 先輩の言葉に、秋の島管区を思い出して納得する。

 揉めれば揉めるほど、謎の信頼関係が発達するあれね。


「セリア、ちょっと来い」

「あ、はい」


 先輩と呑気に話していたら、課長に呼ばれた。そりゃそうだ、さっきの話の当事者でもあるし。


「明日のシール・メンテ。ルミエナ殿下も連れて行くことが、九割決定した」

「はい」

「計画の見直しは、ダンジョン警備課がやる。魔法資源管理課への応援の手紙を書いておいた。あいつらダンジョン潜り慣れてるからな、ここぞとばかりに使ってやる。ほれ、渡して来い」

「ありがとうございます」


 やはりと言うべきか、課長はすでに次の動きを考えていたようで、私はさっさとお使いに行かされた。



 魔法資源管理課は、魔法資源置き場を確保するために、敷地内の別の建物にある。

 正門から出て、敷地の奥の奥に歩いていけば、急に腕を掴まれて、茂みと茂みの隙間に引っ張り込まれた。


「えっ?」

「警戒心が足りていないぞ。セリア」

「えっ? ルミエナ殿下?」


 茂みが全くというほど似合わない、ルミエナ殿下の存在に、開いた口が塞がらない。

 そもそもこの人、応接室で従者たちに囲まれていたはずじゃないのか。


「久々の再会だというのに、そんな顔で時間を消費して良いのか?」


 からかうように言われ、慌ててお辞儀する。


「ご無沙汰しております。ルミエナ殿下におかれましては、ご政務ご多忙の折とは存じますが、その後もお健やかにお過ごしでしょうか」

「おう、頭上げていいぞ。セリアも知っているだろうが、王位はほぼ確定。秋の島への復都も、私の力次第では可能になって来たな。あとお前が気にしそうなのは、ダンジョンか」

「はい、お気遣いありがとうございます」


 私が昔のように言葉を選べば、ルミエナ殿下もかつて私の雇い主だった頃のように話す。


「秋の島では、魔法資源を取り尽くして不要となったダンジョンも出てきた。ダンジョンとの共生を目指してやってきたが、そこは一筋縄とはいかない」

「ことダンジョン関係において、ルミエナ殿下の率いる秋の島を、すべての島が真似しています。予想外のことがあるのはルミエナ殿下の采配が優れていることに、他なりません」

「それだけお世辞が言えたら、政治の世界でもやっていけたんじゃないか」


 ため息をつくルミエナ殿下に「身分が足りません」と馬鹿真面目に答える。

 そうするとやはりかつてのように、ルミエナ殿下はげんなりした目を向けた。

 これが言い訳だと知ってるからか。


「それよりまあ、本題だ。セリア、リライト使っただろ」

「申し訳ございません!」


 茂みに引き込まれたときから、正直この話題は覚悟していた。

 一も二もなく、膝をついて頭を下げる。土の感触が、思ったより冷たい。


「騒ぎにもなっていないし、見られていないのだろう。今回は見逃してやる。もちろん、次はない」

「ありがとうございます⋯⋯!」

「ただ、原因は天井の崩壊。また同じダンジョンに潜る。次は私も一緒に。この意味はわかるか?」

「⋯⋯わかりません」

「じゃあ、考えろ。明日もう一度問う」


 そう言って、離れていくルミエナ殿下の足音が聞こえた。

 足音が完全に遠ざかったのを確認してから、私はそっと頭を上げた。



***



 魔法資源管理課との調整がつき、大慌てで上席管理官室に向かう。

 そうしたら、アレイシオ殿下は不在で、私の残した手紙に返事が残っていた。

ーー先に行っている。


 ああー遅かった! と嘆くことも後回しに、封印開発課の研究室へ走る。


 すると予想した通り、アレイシオ殿下とセスが、魔法を使いながら話していた。


「遅くなってすみません!!」

「いいよ。ルミエナ殿下の件は、私も知っている」


 優しく微笑んでくれるアレイシオ殿下に、こういうところが本当に助かると肩の力が抜ける。

 お礼を言って、手紙に書いていたことではあるが、もう一度概要を話す。


「シール・メンテの中で、また天井や床、壁が崩壊する可能性は高いと思っています。なので、その対策を手伝ってください!」

「もちろん」

「僕も大丈夫です。エルネスト先輩にもこちらを優先しろと言われました」


 アレイシオ殿下もセスも承諾してくれる。

 セスについては、もともとエルネスト先輩に相談した結果、セスにだったら手伝わせてもいいですよと許可をもらっていた。

 だが、アレイシオ殿下には本当に手紙を置いていただけだ。協力すると一も二もなく言ってもらえ、本当に助かった。


「崩落を防ぐには、私の結界術で全てを覆うことが一番間違いありません。ですが、結界術では封印や空間補正魔法に干渉してしまいます」

「それでこの方法なんだ」


 私の言葉に、さっそく納得したようにアレイシオ殿下が呟く。本当に頭の回転が早い。


「はい、アレイシオ殿下の水魔法で、大量の水を発生させ凍らせる。それが瓦礫を受け止めている間に、私とセスの土魔法で補強します」


 水魔法や土魔法のような、もともと自然界に存在する物質の魔法は、封印や他の魔法に干渉しにくいのだ。


「協力するのはいいんですが、僕がいなくてもセリア先輩だけで解決できるのではないでしょうか?」

「空間補正魔法をかけるのも私なの。魔法展開中に崩落したら、セスにやってもらいたい」

「そういうことですか。わかりました」



 説明後、少し練習する。あまり複雑なことではないから、開始が予定より遅れていたが、問題なく魔法を使えるという結論に達することができた。

 そうして、終業の鐘まであと僅か、という時間。封印開発課の研究室から出て、アレイシオ殿下と二人で廊下を歩く。


「急なことなのに、ご協力いただいてありがとうございます。しかも一番大変なところを⋯⋯」

「むしろ私がお礼を言わせてほしい」


 私の席がある執務室の手前で、アレイシオ殿下は立ち止まった。


「セリア。約束を守ってくれて、ありがとう」

「えっ」

「ルミエナ殿下ではなく私を頼ってくれて、嬉しいよ」


 その言葉に、どんどん自分の顔に熱が集まっていくのがわかった。

 確かに私は、干渉光(かんしょうこう)魔法リライトが使えて、ダンジョン崩落なんてどうにでもできるルミエナ殿下ではなく、アレイシオ殿下を頼った。


 だけどそれは約束を守ろうとしたわけじゃない。

 頼っていい人として、自然と、思いついてしまったのがーー。

 そこまで考えて、もう一度違うと首を振った。

 自然とアレイシオ殿下の顔が浮かんだのだって、結局あの夕食会があったからだ。


「セリア、顔が赤いけど」

「これは殿下の、⋯⋯じゃなくて夕日のせいです」


 廊下には、赤い光が差し込んでいた。


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