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16話 シール・メンテ①

「セリアさん、いいところに」


 廊下を歩いていたら、封印開発課のエルネスト先輩と遭遇する。

 眼鏡をかけた神経質なこの人は、一回り以上歳下の私にも敬語を使う、少々距離感の掴みづらい人だ。


「お疲れ様です。私に用事ですか?」

「これ、どうぞ。あなたの魔法工事計画への確認事項、一覧です」


 ズラっと並ぶ箇条書きに、反射的に「オェッ」と言うのをなんとか堪えた。


「資料の記載事項が十分じゃなかったんですね。すみません」

「封印開発では、確認事項が増えるのは当たり前のことです。あなたの資料は、二年目にしては良くできていました」


 エルネスト先輩のフォローはありがたい。ありがたいのだけども、二年目にしてはってまた含みのある⋯⋯。


「すみません、読むだけじゃわからない部分が結構あります」

「私とセリアさんだけで話すのではなく、魔法工学課長やうちの後輩も含めて、話すべきでしょう」

「えと、そうですね」

「打ち合わせの調整はあなたの仕事ですよ。魔法工事課主導の案件なんですから」

「すっすみません」


 私がもう一度謝れば、言いたいことは言い切ったとばかりに、去って行くエルネスト先輩。

 それを私は慌てて追いかける。

 すみません! 打ち合わせできる日だけ先に教えてください!!



ーールミエナ殿下が視察に来られる、数日前の話だ。



***



 会議室には、私と魔法工事課長。封印開発課のエルネスト先輩、そして若手の課員のセス。

 確かセスは今年の新人だったと思う。勉強のために連れて来られたのだろうか。

 打ち合わせは、まさかのルミエナ殿下お迎えの日に被ってしまったが、ここにいる人は誰一人、お迎えの対象となっていないので、さほど問題はない。


「まず、セリアのつけた”封印に欠陥があるダンジョンの魔法工事計画”ってそのまんまの名前をどうにかすんぞ」

「え? なんでですか?」


 課長が予定と違うことを言い出し、首を傾げる。わかりやすい方が良くないですか?


「そろそろ、正式工事名が必要だと思っていましたが、急に言い出されたということは⋯⋯」

「そういうことだ」


 二人で通じ合っている課長とエルネスト先輩。私は「おじさんたち何考えていると思う?」って一緒に頭を悩ませる仲間が欲しくて、セスの方を見る。

 セスは一生懸命、議事録を取っていて、私のようなことは考えていなさそう。ダメだこりゃ、と天を仰いだ。


「さっき帰ってきた運営調整課から聞いたが、やはりルミエナ殿下はこの計画を気にされているらしい」

「そうですか。では正式工事名は”春都(しゅんと)一〇〇年 夏の島管区 ダンジョン封印是正工事”とかでいいでしょう。問題は通称ですね」

「そうだな。おいセリア、なんか考えろ」


 課長に雑に振られ、頭を全力で稼働させる。

 いや私は急に正式工事名が決まっただけで、いっぱいいっぱいなんですけども。


「あー⋯⋯えっと、封印環境整備とか」

「センスねぇな! 次、エルネスト」

「そうですね。シール・メンテとかどうでしょう?」

「いいな、こういうのだ。セリア、覚えとけ」


 急に振られてこき下ろされた。何だったんだ今の時間⋯⋯。

 不満に思いながらも「勉強します」と首肯した。


「では本題ですが、問題はやはり、封印と空間補正魔法が干渉しないか、という点です。セス、資料を」


 やっと本題に入ったか、と息をつく。そして私も、空間補正魔法を落とし込んだダンジョンの図面を取り出した。

 前倒しで進めていただけの仕事だけど、役に立つ場があるのは嬉しい。


「セリアさん、もう図面ができているんですか? それなら、かなり早く話が進みそうです」


 エルネスト先輩の反応を見て、次からもこの順番で仕事を進めようと決めた。

 隣で課長が「俺が言ったった」と胸を張っている。ルミエナ殿下の視察のためだが、今回はそれが事実。次は「私仕事早いんです」って顔をしていたい。


「封印との干渉を考えて、空間補正魔法の位置を決めていますね。これは⋯⋯確かに⋯⋯」


 エルネスト先輩は、資料を見ながら、ふむふむと頷く。

 そしてなぜか、悔しそうな顔をした。


「セス、見習いなさい。これがあなたの一つ上の出世株の仕事ですよ」


 なるほど、評価されているんだ。ニヨニヨとした表情にならないよう、唇を噛む。嬉しい。


「気になる点は、一点だけ」

「あっはい」

「ここの空間補正魔法だけは、少し干渉すると思います。他のところでも土魔法を使っていますし、ここも三箇所に分けて土魔法にした方がいいかと」

「わかりました」


 修正点をその場で、図面に書き込む。

 次の確認項目は、ともらった紙を確認しようとしたら、エルネスト先輩に止められる。


「もう見なくていいですよ。それは図面がないと思って、細かく聞きたい点を書き出していただけです」

「わかりました」


 平静を装って頷きながら、心の中で小さな自分が跳び上がっている。

 予定より早く仕事が前に進むって、嬉しい!


「うちはこれで、最後封印の微調整をすればいいだけになったので、明後日には工事ができますよ」


 もともと言われていた予定より、一週間以上の前倒しだ。

 アレイシオ殿下と、ラウル先輩に予定を聞いて、工事当日の日を決めよう。

 そう勇んで私は会議室を出ていくのだった。

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