10話 天井崩落
周囲のコカトリスへの熱狂も落ち着き、数日かけてダンジョンの資料を確認していると、もう一度現地調査をする必要があるとわかった。
今は欠陥のある封印の構造、そしてその場所はわかっているが、ダンジョン自体の歪みの全貌がわかっていない。
ひとまず課長に許可をもらい、せっせとダンジョンの地図の写しを作る。
ダンジョンの地図の写しを持っていき、実際にダンジョン内で歪みの箇所を書き込んでまわるのだ。
「セリア、またダンジョンに行くんだって? 私も一緒に行ってもいいかい?」
「いいですよ。ただ、今回の現地調査はまる一日かかりますが、大丈夫ですか?」
どこから現地調査の話を聞きつけられたのか、アレイシオ殿下が執務室を訪ねて来た。
「それは⋯⋯日によるね。いつ行くんだい?」
「明日以降、今週中で考えています」
共有黒板の予定を見ながらあれこれと話す。今回はそんなに急ぎではないから、私もまだ調査日を決めていなかった。
「明後日でもいいかい?」
「はい、大丈夫です!」
すぐに日が決定して、アレイシオ殿下は上席管理官室に戻っていく。私はもし明日になったら地図の写し作りを急がないと、なんて思っていたから一日の猶予に胸をなで下ろした。
***
「モンスターは出ないと思いますが、何か気になることがあれば、すぐにおっしゃってくださいね」
「わかった。セリアも体調が悪くなったら、ちゃんと言うんだよ」
「はい!」
アレイシオ殿下に声をかけて、ダンジョンの扉を開く。さぁ、現地調査開始だ!
ダンジョンに入ってすぐ、光魔法で光源を作り出し、外と変わらないくらい明るく照らす。
「今日は随分明るくするんだね」
「はい! 今日は歪みを発見することが目的なので、周囲が見えやすいほうがいいんです」
地図を取り出し、今いる場所に「天井・壁の歪み」と書き込んだ。あとそれから、初日に行った部屋に出入りできる、歪んだ壁の場所も地図に落とし込む。
「じゃあ、次の部屋行きます」
次の部屋では、部屋の大きさや採取できる魔法素材から、この部屋が一体どこなのかを地図上から探す。ふむ、地下三階にワープしていたらしい。
そうやってある程度ダンジョン内を回りきったときだ。
「セリア、なんだか少しずつ天井が下がって来ていると思わないかい?」
アレイシオ殿下に声をかけられ、かじりついていた地図から目を離す。
いまいちわからない。
「そうですか?」
「まずこの部屋に来るのは三回目くらいだろう?」
「そうですね。歪みの発生源だからか、歪んだ壁を通るとここに来てしまうみたいです」
「そのたびに、天井と頭が近づいているんだ」
私とアレイシオ殿下では、身長が二十センチぐらい違う。私には全くわからないが、アレイシオ殿下が言うなれば、多分そうなのだろう。
「一旦ダンジョン出ましょう」
そう言って、入口付近に出る歪んだ壁の方に向かう。だけどそのとき、地面が揺れた。
片足を上げていたせいで揺れに耐えられず、その場で転倒する。痛い。
「セリア! 立てるかい!?」
「立てます! すぐに出ましょう」
私と違って、転げなかったアレイシオ殿下が手を差し伸べてくれる。それを下から見上げて、気づいた。
天井、崩れてないか。
「えっ?」
「セリア?」
固まった私を見て、アレイシオ殿下は自分の後ろを振り向く。
そして崩落してきている天井に気づき、固まったままの私をすぐさま持ち上げた。
天井の奥で、石が擦れ合う嫌な音が鳴り、細かな粉塵が雪のように降り注ぐ。
私は知っている。今から逃げても間に合わない。私たちはダンジョンの専門家だ。最近ではほとんどないけれど、昔は天井崩落で亡くなってしまう人もいたらしい。
新人研修でも相当言われた。どのくらいの高さなら間に合うから逃げろ。それよりも低けりゃ頭だけは守れって。
この逃げ方をしていたら、私は助かるかもしれない。
だけど私を抱えて走ってくれている、アレイシオ殿下は助からない。
こんなに緊迫していく状況なのに、崩落していく天井と、走って揺れるアレイシオ殿下の金髪が、なんだかスローモーションに見えた。
それはきっと、自分のやるべきことを。知っているから。
「干渉光魔法ーーリライト」
アレイシオ殿下が目を見開く。崩落しかけた天井が、そのまま動きを止める。
私は少し気まずそうに「あの、下ろしてもらえませんか?」と言った。




