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世界救済の扉は、今、開かれた ~最弱の俺が滅びゆく異世界を救うまで~  作者: 藤井めぐる
第1章 魔法防衛学院 入学準備編

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第9話 友達って素敵だな

ハルキは家に着き、自分の部屋のドアを閉めた。

薄暗い室内に、夜の気配が溜まっている。

外灯の光がカーテン越しに滲み、輪郭だけを曖昧に照らしていた。


小さく、息を吸う。

肺の奥まで、冷えた空気が入り込む。


指先に、意識を集める。

脈打つ感覚を、確かめるように。


《……ついて》


声はほとんど音にならず、喉の奥でほどけただけだった。

指を、軽く鳴らす。


ぱちり。


その瞬間、部屋の電気が付いた。



呪文ですらない。

ただの日本語。

けれど魔法というのは、言葉の「意味」ではなく

「願ったイメージ」に反応する。

呪文は形式的なものに過ぎない。


正確な詠唱も、理論も知らないハルキにとって、

これが今、手を伸ばせる限界だった。


……それでも。


魔法を使っても、

魔力の流れを確かめても、


「相変わらず雑だな」

「まあ、初学者にしては上出来か」


そうやって、羽を鳴らしながら現れるはずのカラスは、どこにもいなかった。


怪奇現象の犯人を追って、

夜のどこかを飛び回っているらしい。

しばらく戻らない――そう言っていた気がする。


(いつもだったら、面白がって学校についてくるのに……)


部屋が、妙に静かだ。

広くなったわけでもないのに、音が足りない。


ハルキはベッドに倒れ込み、スプリングの沈む感触に身を任せた。

天井を見上げると、白い光がやけに無機質に感じられる。


浮かんでくるのは、今日の出来事。

断片的な会話。

笑い声。


そして、佐藤の言葉。


――「一人で調べるなよ」


あのときの目は、冗談を許さない色をしていた。


……でも。


自分のせいで、田中さくらはもう巻き込まれている。

それだけで、十分すぎるほどだ。


佐藤まで、同じ場所に立たせるわけにはいかない。


犯人の目的は、単純だ。

“選ばれた者”を消すこと。


(それでも、まだ殺しに来ない)


つまり、

まだ“誰が”選ばれた人間なのか、確定していない。


だからこそ――

佐藤は危ない。

間違われれば、殺される。


「……巻き込むわけにはいかない」


喉の奥で、言葉が沈む。


「俺が……ちゃんと、終わらせないと」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

翌日の放課後。


昇降口へ向かおうとしたところで、佐藤に呼び止められた。


「なあ橘。せっかくだしさ、今日、新聞部の取材ってことで

 三人で寄り道しない?」


断る理由は、山ほどあった。

――本当は、断るべきだった。


けれど。


佐藤の背後から、

少し期待を含んだ視線がを向けた、

田中さくらと、目が合った。


そして、顔を上げると、ワクワクした表情の佐藤と目があう。


……断れるわけがなかった。






放課後の校舎は、昼とは別の呼吸をしている。

遠くの体育館から、部活の掛け声が反響し、

廊下には、古いワックスと埃の混ざった匂いが漂っていた。


窓から差す光は傾き、

白い壁を橙色に染めている。


「で、どこ行く?」


佐藤が軽く言う。


「新聞部の取材だろ?それっぽい場所、回らないと」

「それっぽいって……自販機とか?」


ハルキが指差す先で、

古い自販機が、低く唸るような音を立てていた。


「渋すぎ」

「でも、ここの炭酸、当たり外れあるんだよ」

「何それ、地味に怖い」


三人で近づくと、

金属の冷たさが、放課後の熱をわずかに奪う。


田中が小銭を入れ、ボタンを押す。


――ガコン。


鈍い音とともに、

見慣れないラベルの缶が転がり出た。


「……こんな商品、あったっけ?」


田中が首を傾げる。


「知らん」

「怪奇現象では?」

「却下」


佐藤の即答に、田中が笑う。


缶を開ける音。

微かな炭酸の匂い。


「……普通」

「残念......」

「何を期待してたのよ」


他愛ない会話。

けれど、田中は時折、ハルキを見る。

理由は分からない。

ただ、目が合うのだ。


廊下を抜け、

使われていない美術室の前で足を止める。


「ここ、夕方の光きれいだよ」


佐藤が窓を指す。


西日が差し込み、

床に長い影を落とし、

石膏像の輪郭を、柔らかく歪めていた。


「写真、撮る?」

「あり」


スマホを構えたハルキの横から、

田中が身を乗り出す。


距離が、近い。


「……橘くん、こういうの慣れてないでしょ」

「ばれてた?」

「構図が真面目すぎ」

「うるさい」


シャッター音。

少し傾いた画面。


「でも、いいじゃん」


田中は言う。


「変に盛ってないし……橘くんっぽい」


「それ、褒めてる?」

「たぶん」


後ろで、佐藤が吹き出す。


「お前ら、距離近くね?」


二人は同時に、一歩離れた。


「別に!」

「たまたま!」


声が重なり、

夕方の廊下に妙に響く。


「はいはい」


佐藤は満足そうだった。




校舎裏のベンチに並んで座る。

コンクリートは、昼の熱をまだ少し残している。


「悪い、ちょっと電話」


佐藤が立ち上がり、距離を取る。


残るのは、二人。


沈黙。

だが、風の音と、遠くの笑い声が、それを埋めていた。


「ねえ」


田中が言う。


「橘くんってさ……」

「うん?」


「思ってたより、普通だよね」


「どういう意味だよ!」


「いい意味!」


少し笑って続ける。


「もっと、近寄りがたいと思ってた」


「...俺も……田中さん、陽キャで怖い人だと思ってた」

「ひどい」


そう言いながら、田中は笑う。

夕焼けの色が、その表情に溶け込む。


「……なんかさ」


前を向いたまま、田中は言う。


「橘くんと一緒だと、変に考えなくていい」


ベンチの縁を、指先がなぞる。


「ちゃんとしなきゃ、とか。こうあるべき、とか」


少しの間。


「……安心する」


短い言葉。

でも、確かだった。


ハルキは、胸の奥が静かに締まるのを感じる。


「……ありがとう」


うまく、言葉にできなかった。


田中は、少し照れたように笑う。


「変だよね。まだ、そんなに仲良くなったばっかりなのに」


「……うん」


嫌な気分じゃなかった。




戻ってきた佐藤が言う。


「おーい、そろそろ帰るぞ」

「はーい」


立ち上がった田中は、少しだけ振り返る。


「また、寄り道しよ。今度は、二人で」


「……うん」


自然に、言葉が出た。


三人で歩き出す帰り道。

空は、ゆっくりと夜に沈んでいく。


ハルキの肩は、今日も静かだ。

カラスは、まだ戻らない。


それでも今は、

あの黒い影を、少しだけ恋しく思った。


放課後の寄り道は、

確かに三人の距離を、ほんの少しだけ縮めていた。


友達って素敵だな。

ハルキは思う。


いままで、ひとりだったハルキにとって、

ありきたりな言葉では言い表せないほどに、

この二人は素敵だった。



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