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世界救済の扉は、今、開かれた ~最弱の俺が滅びゆく異世界を救うまで~  作者: 藤井めぐる
第1章 魔法防衛学院 入学準備編

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第4話 魔法使いが他にもいる?

ある朝のことだった。


「今日は、君の学校について行く」


カラスは何の前触れもなく、そう言った。

ハルキは、箸を持ったまま動きを止める。

味噌汁から立ち上る湯気が、二人の間をゆっくりと漂っていた。


「……は?」


間の抜けた声が口からこぼれる。

カラスは気にした様子もなく、

台所の流し台の縁にとまったまま、翼を軽く整えている。


「心配無用!今の姿のまま、堂々と同行するわけじゃないさ」


そう言って、カラスは首を傾げた。


「学校という場所は、魔力の流れが歪みやすい。感情が渦巻くからな。君が無意識に力を漏らしていないか、確認しておきたい」


ハルキは弁当箱を鞄に押し込みながら、ため息をついた。


「いや、確認以前の問題だろ。カラスがついて来たら、絶対に騒ぎになる」

「だから言っているだろう?」


カラスは、さも当然のように言う。


「“ついて行く”だけ。見える形でとは限らない」


その瞬間、カラスの輪郭がわずかに揺らいだ。


黒い羽毛が、朝の光に溶けるように薄れ、次の瞬間には――

ハルキの肩に、冷たい感触が触れた。


「……軽いな」


思わず漏れた言葉に、

カラス――いや、今はただの“影”のような存在が、

低く笑った。


「気配だけを残す形だよ。君以外には、ほとんど感じ取れない」


気配だけを残す??


カラスは一生懸命説明するが、

ハルキにはよく分からなかった。







玄関を出ると、朝の空気が頬を打った。


通学路はいつもと変わらない。


自転車のベル、登校中の生徒の声、電線に並ぶ本物のカラスたち。

その中に、ひとつだけ“違うもの”が混じっている。



「……絶対、変なことするなよ」


ハルキが小声で言うと、肩越しに声が返ってきた。


「努力するよ♪」


努力、という言葉の選び方に嫌な予感を覚えながら、

ハルキは学校へ向かって歩き出した。



その日、彼はまだ知らなかった。

この何気ない登校が、

取り返しのつかない事件の始まりになることを。








教室のドアを開けた瞬間、いつもの喧騒がハルキに襲いかかる。

机を叩く音、友人たちの罵声、教師の注意。


でもハルキにとっては、すべてが、まるで別の世界の音のように聞こえる。


「おい、ハルキ! お前、今日も眠そうな顔してんじゃん」


と隣の席の佐藤が笑いかけた。

相変わらずイケメンで嫌味がない


ハルキは無理やり笑顔を作り、自分の席に座る。


肩に乗せたカラスの「気配」は、何も言わないが、

その重圧だけは確実に感じ取れる。

まるで、自分の心の内を覗き見されているような、気味の悪い感覚だ。


「おはようございます!」


と教師が教室に入ると、生徒たちが一斉に起立する。

ハルキも、その流れに従う。


だが、その瞬間、自分の視界が、一瞬だけ歪むのを感じた。


まるで、周りの光が、自分の中心に吸い込まれていくような感覚だ。


「どうした?」


と佐藤が心配そうに尋ねる。


「いや、なんでも……」


ハルキは首を振った。


その時、肩の「気配」が、ほんの少しだけ熱を帯びるのが分かった。


「面白いな。君の心の揺らぎが、僕にも伝わってくる。この感覚は初めてだ」


と、カラスの声が頭の中に直接響いた。


ハルキの心臓が、カラスの言葉と同時に不意に打ち鳴らされた。


感じたことのない違和感。俺とカラス以外の魔力


ここの教室に、魔法使いがいるとでも? 無意識に視線が走る。








窓際の女子グループ、前で教師に質問している優等生、廊下を歩き回る風紀委員。


誰もが、ごく普通の高校生に見える。だが、「魔力」は、そんな目で見てわかるものではないはずだ。


「どこだ?その『魔力』の正体は」


ハルキは、心の中で呟いた。


すると、飛び立ったカラスの「気配」が、ゆっくりと教室の隅へと滑っていく。


「あそこだ」


と、カラスの声がハルキの頭に響く。


その視線の先には、クラスで最も可愛いとされる女生徒がいた。


名前は、田中さくら。活発で明るい太陽のような少女だ。

ハルキとはまるで正反対。


「彼女か……」


ハルキは、驚きを隠せなかった。

田中さくらは、窓の外を眺めている。

確かに、彼女の周りは、ほんのわずかに、空気が歪んでいるように見える。


それは、ハルキがさっき感じたのと同じ、視界の歪みだった。


「クククク、面白い面白い」


とカラスが興奮したように言う。


「ハルキ、なぜ君の学校に、魔力を持つ人間がいるのだろう? それも、強力な力だ。これは、俺たちの予想外だ。おそらく、俺と同じ魔界からのものだ。誰かが彼女に魔力の種子を植え付けた。」


カラスは、田中さくらの周りをぐるぐると舞うように動く。


まるで、獲物を見つけた猫のようだ。


「おい、何もするなよ」


とハルキは制止した。


だが、カラスは聞く耳を持たない。


彼は、ゆっくりと田中に近づいていく。


そして、田中の背後で、彼女の影に同化しようとした瞬間、

田中が、ゆっくりとこちらを振り返った。


カラスは田中さくらの影に潜り込もうとしていたが、

彼女が振り返ったことでその計画は失敗に終わった。


カラスは素早く空中へと舞い上がり、

教室の天井付近で羽ばたきながら、さくらを見下ろしている。



「おはよう!橘くん!」


さくらがあいさつをした。


田中さくらの声は、教室の喧騒の中でも明るく澄んでいた。

彼女の笑顔は、太陽のようだった。

しかし、ハルキの目には、その笑顔の奥に隠された何かが見えていた。


それは、他の生徒には決して見えない、歪みだった。


「お、おはよう、田中さん」


ハルキは、慌てて返事をした。


彼の心臓は、まだ激しく打ち鳴らされている。


田中の周りの空気が歪んでいるのは、やはり見間違いではなかった。


「ねえ、橘くん。何か、ぼーっとしてるみたいだけど、大丈夫?」


田中は、少し心配そうな顔でハルキを見つめていた。


彼女の瞳は、真っ黒で、深い井戸のようだった。

ハルキは、その瞳に吸い込まれそうになった。



「だ、大丈夫だよ!......あのさ、変なこと聞くけど、最近おかしなこととか起きなかった??」


田中さくらの笑みが、ほんの僅かに引きつる。


彼女は首をかしげ、困ったように軽く笑った。


「変なこと? そうね、テストが迫ってることとか、食堂のパンがいつもより少ないこととか、そういうこと?」


その言葉は軽やかだったが、ハルキの耳にはどこかよそよそしさが響く。

彼女の黒い瞳が、一瞬、ハルキの奥を覗き込むような、測るような光を帯びる。


視界の隅で、カラスが焦ったように羽ばたいているのが見える。


『拙いなぁ。もっと上手く聞け』


その声はハルキの頭に直接響き、少し耳が痛む。

田中が再び窓の外へ視線を戻そうとしたその時だった。


彼女はふと気づいたかのように、ハルキの肩越し、彼の背後にある空間をじっと見つめた。


「…あれ?」


さくらの口から、かすかな声がこぼれる。

彼女の表情からは、先ほどの太陽のような明るさがすっかり消え失せ、

代わりに何かを確かめるような、鋭い眼光が宿った。


その眼差しが、ハルキ自身を突き刺すようだった。


ハルキは、息を飲む。


今、彼女はカラスの存在に気づいたのか。

それとも、全く別の「何か」を感じ取ったのか。


教室の雑音が、まるで遠くの方で鳴っているように聞こえ始める。


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