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世界救済の扉は、今、開かれた ~最弱の俺が滅びゆく異世界を救うまで~  作者: 藤井めぐる
第1章 魔法防衛学院 入学準備編

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第3話 君はまだ未完成だから

「魔法学校に入って欲しいんだ!」



「……は?」


間の抜けた声が、ハルキの口から零れた。


世界を救う、異世界、戦争の危機――そこまでは、まだ理解しようと努力していた。だが。


「まほう……がっこう?」


一音一音を確かめるように繰り返す。

頭の中で、ローブを着た生徒たちが杖を振り回し、

黒板に謎の文字を書く光景が浮かんでは、即座に理性がそれを叩き割る。

いわゆるハ〇ーポッターの世界だ。


「待て待て待て」


ハルキは両手を上げた。


「話が一気に児童書の棚に飛んだぞ」


カラスは少しだけ気まずそうに羽を鳴らした。


「うん、想定内だ。」

「想定内!?」


そこに引っかかるのか、と言わんばかりにカラスは視線を逸らす。



「君に目指してもらいたいのは、魔法防衛学院っていう。“魔法軍養成学校”だけどね。魔力の扱い、世界構造、異種族言語、戦闘理論、倫理学――」


指折り数え始めたところで、ハルキは頭を抱えた。


「俺、普通の高校ですら、成績危ういんですけど!?」


やれやれというようにカラスは首を振った。




「…。というか。なぜ学校なんだ」


ハルキは低く問う。


「いきなり世界救え、じゃダメなのか」


カラスの瞳が、ほんの一瞬だけ曇った。

夕暮れは去り、部屋の中は夜の静寂に包まれている。


「君は未完成だからさ」


静かな声だった。


「今のまま異世界に放り込めば、君は壊れる。心も、身体も」


その言葉には、冗談の余地がなかった。


「学院はね、“選ばれた者”を英雄にする場所じゃない」


カラスはゆっくりと続ける。


「基礎的なことを学び、交流を通じて成長をする。そうすることで魔法は完成に近づくのさ。ただ、強大な魔力を持っているだけじゃ、世界は救えないし、自分すら滅ぼすようになる。」


沈黙。


ハルキは壁にもたれたまま、天井を見上げた。


「……入学試験は、どうすんだよ」


ぽつり、と零れた言葉に、

カラスは一瞬きょとんとし―― 次の瞬間、誇らしげに胸を張った。



「そこは任せて!俺が専属家庭教師になって、鍛えてあ、げ、る。次の入学試験までに間に合うようにね♪。」



ーーーーーーーーーーーーーーー


翌朝、ハルキが目を覚ましたとき、

枕元には黒い鳥の姿はなかった。

一昨日までの日常に戻ったのかと、一瞬安堵する。


しかし、机の上の黒いカラスの羽を見つけ、ハルキはため息をついた。

昨日の出来事は、夢ではなかったのだ。


不思議に思いつつリビングへ向かうと、

テレビの前のソファに、カラスが座っていた。


彼は嘴で器用にリモコンを操作し、

テレビのチャンネルを次々と変えている。


「あ、起きた?」


カラスは、ハルキに目もくれず言った。


「こっちの世界の朝の情報番組は本当につまんない。芸能人のスキャンダルと天気予報ばかりだ」


呆れたように言って、彼はテレビを消した。


そして、ハルキに向き直ると、にっこりと笑った。


「さあ、魔法防衛学院の入学試験、合格目指して特訓開始だ!まずは魔力感知から始めよう。君の部屋で待ってて」


そう言うと、彼はキッチンへと消えていった。


しばらくして、カラスは湯呑みを二つ、トレイに乗せて戻ってきた。

(もちろん魔法で空中に浮かせながら)

中には、ただの熱湯が入っているだけのようだ。


カラスはハルキの部屋に入ると、机の上に湯呑みを二つ並べた。

そして、片方の湯呑みに指を差した。


「これを見つめ続けてみろ。だが、目を閉じるんだ。視覚ではなく、魔力で『水』を感知するんだ。熱さ、蒸気、流れるようなエネルギーを感じてみて」


カラスの静かな声が響く。


こんなことして、本当に世界は救われるのだろうか?


「うーん。うーーーん。」


ハルキは言われたとおりにエネルギーを感じるようにしてみるがどうもうまくいかない。

カラスは、少し呆れたようにハルキを見下ろしている。


「集中力が足りないな。君はまだ自分の中にある『何か』に蓋をしてしまう癖が抜けていない」


そう言って、彼はハルキの目の前に座り込む。


「まあ、最初から完璧にできるわけがない。でも、世界は君が完璧になるのを待ってくれない。だから、別の方法を試そう」


カラスは立ち上がると、部屋の隅にあったギターを持ち上げてきた。


ピックを魔法で取ると、彼は弦を一本一本、ゆっくりとなぞり始めた。

甲高い音と低い音が交差し、不思議な調べが部屋に満ちていく。


「いいか、今度は音を聴け。でも、耳で聴くのではない。君の魔力で、音の『うねり』を感じるんだ。弦の震えが、空気を震わせ、その震えが君の体にどう伝わるかを感じるんだ。そして、その震えを大きくしていく感覚で湯呑みへと伝えるんだ」


とカラスは言った。

彼はさらにギターを弾き始める。

今度は、それはもはや音楽というより、一種の呪文のようだった。


音の波がハルキの体を洗うような感覚。


ふと、ハルキは自分の心臓が、ギターの音色とシンクロしているような錯覚に陥る。


すると、湯呑みの中の水が、かすかに、ほんのかすかに波打ち始めたのを彼は見逃さなかった。


「……お、おい」


ハルキは、自分の目を疑った。


「さっき、動いたぞ」


カラスはにやりと笑う。


「君の魔力が、水を揺さぶった。まだ小さな力だが、確かに目覚め始めている」


と言って、彼はギターを置いた。


「今日はここまでだ。あまり一気にやっても、君は壊れてしまうからね。明日からは、もっと実践的な訓練をしよう」


そう言うと、カラスは再びキッチンへと消えた。


ハルキは、動いたばかりの湯呑みを見つめ、自分の手を見つめていた。


これは夢ではない。


そう思ってしまった瞬間、胸の奥がひどく冷えた。


高校はいつも通り始まる。

だが、明日からは本格的な訓練が待っている。


魔法防衛学院――その入学試験まで、残された時間は多くなかった。


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