第2話 君なら世界を救える
「世界を救う???日本が滅びちゃうのか?」
「ちがうよ。ここではない別の世界さ」
「別の世界??」
予想もしなかった返答に思わず眼を見開く。
「そう、ここの世界の人たちが、異世界とか、魔界って呼んだりする世界さ。」
その言葉は、ハルキの世界観を根底から揺るがすには十分すぎるほどの衝撃だった。
異世界??そんなもの存在するのか??
部屋の空気が凝固し、窓から差し込む夕暮れの光だけが、カラスの黒い羽毛を異様に輝かせている。
カラスの丸い瞳が真剣さに満ち、今までの陽気さはどこへやら、
まるで運命の宣告を下す神々のようだ。
ハルキの頭の中はひどく混乱し、
先程まで考えていた精神病の可能性すら霞んでしまう。
これは夢なのか、それとも現実なのか。
その区別がつかなくなるほど、眼前の光景は非現実的で濃密だった。
「世界を、救う…?異世界…??お前、一体何者なんだ?」
ハルキはかろうじて声を絞り出す。
足が震え、体の力が抜けていくのを感じる。
カラスの言葉に含まれる重みと、その身振りから伝わる圧倒的な存在感。
ただの鳥ではない。その大きさも知性も、そして口からする言葉も。
「俺はただのカラスだよ。でも、少し特別なんだ。」
カラスは首を傾げ、まるで困ったような仕草で言った。
「君に選ばれた理由は、君が持つ何かにある。君だけができることがあるんだ。それに気づいてほしくて、ここまで来たのさ。」
カラスはゆっくりとハルキに近づこうとする。
その一歩一歩が春樹の心臓を締め付ける。
「本当に大変だったんだ。なんせ異なる世界同士をつなげなければならなかったからね。俺は自分の姿を保ち続けることすら難しくなった。」
カラスは哀しそうに呟いた。
部屋の床に広がる夕日、埃の舞い、そしてその中を動く巨大なカラス。
ハルキは思わず再び後ずさりし、背中が冷たい壁にぶつかる。
これ以上近づかれたら、心臓が破裂してしまいそうだ。
「……やめろ。これ以上、近づくな」
カラスは足を止めた。羽毛が微かに波打ち、夕闇の中で影が揺れる。
「安心して。君を傷つけるつもりはないよ」
低く、しかし不思議と耳に馴染む声だった。
「もし害すつもりなら、最初からこんな面倒な方法は取らない」
ハルキは息を呑んだ。
“面倒な方法”
その一言が、逆にこの状況の異常さを裏付けている。
「……選ばれたって言ったな」
震える声を抑え、ハルキは問い返す。
「そんなの、勝手すぎるだろ。俺は、ただの――」
「ただの人間?」
カラスは言葉を遮り、くちばしの端をわずかに上げた。
笑ったのだと、なぜか分かった。
「そう、強力な魔力をもつただの人間さ。…今はまだ、ね。」
次の瞬間、部屋の空気が歪んだ。
音もなく、カラスの足元に黒い影が広がり、
墨を垂らしたように床を侵食していく。
影の中で、カラスの形をした紋様が淡く光った。
「異世界が滅びるまで時間がないんだ」
カラスの声は重く、夜そのもののように沈んでいた。
「3年以内に異世界で恐ろしい戦争が起こる。強力な魔法武器で魔法使いたちは滅びてしまう…。だからこそ、君なんだよ」
カラスは静かに告げる。
「お告げが来たんだ、君なら世界を救えるって。
そして、君はもう、この話を“聞いてしまった”」
逃げ道は、最初から閉ざされていた。
窓の外では、最後の夕日が沈み、代わりに夜が世界を塗り替えていく。
「選択は一つだけじゃない、君は世界救済から逃げることはできる。」
カラスは羽をすぼめ、深く頭を下げた。
「だが、選ばないという選択にも、もちろん、代償はある」
心臓の鼓動が、やけに大きく響く。
ハルキは拳を握りしめ、震える視線をカラスに向けた。
「……教えろ」
それは、覚悟の芽生えだった。
そして、何者でもない自分との決別
「俺は何をすればいい」
夜が、完全に訪れた。




