諜報部からの課題
お嬢様8歳のお誕生日の朝。
諜報部からの課題が与えられる。
「誰かにひよこを飼ってもらうこと」
わたくしの8歳の誕生日。
目覚めたら枕元に小さなカードがあった。
もしかして、バースデーカード?
お父様、覚えててくださった?
手に取ると白地に黒い鳥の絵だけが書かれたカードだった。
期待などしなければ良かった。
「課題です」
知らない男が背後に立っていた。
中肉中背の特徴のない顔だ。
悲鳴を飲み込む。
「このひよこを誰かに飼ってもらって
ください。
鶏になるまで食べてはいけません。」
「お、おまえは?」
「このカードの差出人です。
今日中にクリアできたら我が諜報部は
お嬢様に協力いたします」
諜報部からの試験、ということで
いいのかしら。
「メスなの?」
「オスです」
「難しいかしら」
ふわふわのひよこはピ、と鳴いた。
最初は甘くみていた。1人くらいいるだろう。
箱に入れて屋敷内を移動する。
使用人たちに聞きながら。
「ひよこを飼ってほしい人がいて、預かっているの。誰か飼えない?」
「お嬢様可愛いです!
申し訳ありませんが、使用人部屋は相部屋
なので飼えません」
「動物は苦手で」ピルル
「鶏小屋は作れません」
下級使用人のエリアにも移動する。
「おまえたち、誰か、ひよこ飼えない?」
「お嬢様が飼われるのが良いのでは?
使用人部屋では汚れます」
「オスですか。メスだったらコック長に
頼めますがね」ピヨ
「屋敷内では飼えませんよ。
オスはうるさいですし」 ピヨ?
「すみません、くしゃみがっ」
「食べちゃだめですか?」ピヨピーヨ!
そうだルーカス!今日は休みって言ってた。
探していたら使用人用の裏口から女性と
帰ってきていた。
あれは、キッチンメイドだ。
デートに行ってたの。
わたくしのこと、守るって言ったのに。
うそつき。ルーカスのばか。好きなのに。
わたくしの誕生日なのに、誰も。誰も。
涙が滲んだのを我慢して、また数人に聞いてみてもだめだった。
どうしよう。認めてもらえない。
わたくしは、跡取りとしてもだめなの?
部屋に戻って少し泣いた。
「お嬢様」ルーカスの声。
「お嬢様」
「お嬢様、無視されますか?
何か失礼がありましたか?」
言うのも悔しい。私ばっかり好きみたい。
でも。
「ひよこ」
「はい」
「飼って」
「いいですよ、と言いたいのですが鶏小屋がありませんね。
何かの課題ですか?
お嬢様がひよこを手に入れることは
できませんし」
わたくしが頷くと
「この課題の担当の方、いらっしゃいますか?質問があります」
わたくしの部屋のどこかからはい、と
声がした。
「飼える場所がないので私が在籍していた
孤児院に頼みたい。金銭を支払えば預かってくれると思います。
ただ、今日中に届けるには時間が足りません。
明日以降になりますが、課題の達成に
なりますか?」
ベッドの下から朝会った男が出てきた。
朝からずっと隠れてたの?怖い。
ルーカスも虫を見るような目で見ている
「達成とします」
「いいの?」
「まだ子どものお嬢様にそこまで厳しい
課題は出せません」
一日中探し回ったのだけどね。
「私共も危険が多いので、少しは苦労を
分かって頂きたいというのもあります。
これからは、我々諜報部をお使いください。
このカードを家令にお渡しくださったら
参ります。では失礼します」
合格したようだ。気が抜けた。
ソファーに脱力して座っていたら
「お嬢様、あの、プレゼント、です」
ルーカスが小さくて可愛い包みを
渡してきた。
「わたくしに?」
「お嬢様がお持ちのようなものは
差し上げられませんが
8歳のお誕生日おめでとうございます」
「えっええ。」
「では」と手を鳴らすと、レディースメイドがワゴンを押してきた。
バースデーケーキが乗っていた。
花も運び込まれた。
ルーカスが手配してくれたの。
お父様はいらない。もういいの。
「お嬢様は泣き虫さんですね」
恥ずかしくて顔を隠した。
「プレゼント、開けてもいいの?」
ルーカスが微笑んでいる。
ゆっくりと包装紙を破らないように開ける。
碧いリボンが入っていた。
「可愛いわ。嬉しい。ルーカス、結んで」
「えっ。侍女さんとかにお願いした方が」
「ルーカスがいいの」
普段器用なルーカスは、リボン結びは
苦手だったらしくひどく不格好になった。
「すみません……誰か呼びます」
「ルーカス、これがいいの」
恥ずかしそうなルーカスを見るのは珍しいな
と思いながら笑った。
ルーカス「いろいろしてたらお金が……
休み取れるかな」
キッチンメイド「買い物付き合ったよね?
ボーイのマルコくん紹介してくれるのよね?」
一部使用人の雰囲気が良くないのは昔の噂の
せいです。