パーティー任命式
前回のあらすじ
パーティー顔合わせでクレマの掌力を知ったオーゴ!
彼女の超越的な掌力に驚くオーゴだったが、それよりも度肝を抜くことは彼女がアカデミー主席だったという事だ。
なんだかんだあった顔合わせも無事終わり、喫茶店で別れを告げるオーゴとクレマ。
そしてそれから二日後!!
オーゴとクレマ、そしてジンマは、国王による『悪王討伐遠征パーティー任命式』に臨席していた!!
パーティー顔合わせから2日後...
「これより!以下の者達の、悪王討伐パーティー任命式を開式する!」
清々しい晴天に恵まれた休日。
我が父、カイ国王の珍しく厳粛な声が城内の大広間に響き渡る。
数段上がった場所にある王座から国王が見下ろしているのは、跪いた僕、クレマ、ジンマの三人。
そこから更に10数メートル離れた場所から取り囲むように見ている者達は、この城の護衛、使用人達、そして一部の国民等々、計500人位だろうか。
城の外では、城門を囲むように数千の人々が集まっている。
なぜ、城にここまでの人間が集まっているか?
理由は簡単。今日は国王による、正式なパーティー任命式だからだ。
更に数十年に一度の、王族の出立というのも影響してこれだけの人数を集めている。
まぁ、この僕は注目されるのに慣れたものが、ジンマなんかは緊張でぎこちない事この上ない。
「それでは、前衛として任命する!我が城が誇る剣豪、ジンマ!前へ!」
国王が声を張った。指名されたジンマはビクリと上半身を硬直させ、立ち上がる。
そしてそのままカクカクと膝を曲げて、王座の方へと歩み寄る。
この任命式では、冒険者が指名を受けて国王の面前に歩み出て、王からの言葉を受け取ると共に、任命式の目玉であるマントが授与されることになっている。
「我が城の顔として、恥じぬような活躍を所期している!」
「は!はひぃ!」
国王の激励を受けて盛大に声を上ずらせたジンマが、城内の憫笑を誘う。
ふとジンマの方を見ると、国王は彼にマント授与をしながら、小声で何かを耳打ちしているように見えた。
「ジンマ、真の目的を忘れるな。」
「...はい、カイ様。」
僕には二人の間でどんな会話があったのかは聞き取れなかったが、ジンマの顔つきが変わった所を見ると、きっと何か鼓舞されたのだろう。
ゆっくりと階段を下りて元の体勢に戻るジンマを尻目に、国王が次を呼ぶ。
「続いて、後衛として任命する!アカデミーの主席であり『巻戻』の掌力者、クレマ!前へ!」
名を呼ばれたクレマが僕の横からむくりと立ち上がり、王座に歩みを寄せる。
一段、また一段と階段をふわふわ上っていく彼女には、覇気どころか緊張すら感じられない。
そんな彼女にも、国王は厳かな表情で言葉を贈る。
「新進気鋭の貴様の健闘を所期している!」
「うす。」
(いやいやいや、「うす。」って...)
クレマが驚くほどこの場に不適当な返事を繰り出したので、僕は呆れたらいいのか怒ったらいいのか分からなくなってしまう。
だが、我が父は気にする様子なくクレマにマントを授与する。
それでも、まだクレマの不適切は止まらなかった。
「国王、ウチは結局後衛なんすね。」
マント授与中の王に私語を使う人間は、今まで何人居たのだろうか。
否、彼女が国歴上初であろう。
そして父も父だ。
クレマの常識外れな言動を注意するでもなく、なんといちいち彼女の質問に返答しているのだ。
「確かに君なら前衛も務めることが可能だが、不本意だったかな?」
「いや、後衛の方が楽だし、全然いいっすよ。」
僕は思わず目を瞑る。
(あの二人はこの式をアカデミーの卒業式か何かだと思ってるのか?...いや卒業式でもあんな私語ダメだと思うけど...!)
こんな場で話す内容じゃないだろうと呆れ果ててしまう僕は、真面目君なのだろうか。
マントの授与が終わったクレマは、のそのそと階段を下りて自分の位置に戻る。
(ふぅ...)
一旦気を取り直そう。
次はいよいよ僕の番だ。
「最後に、中衛として任命する!我が息子にして『入替』の掌力者、オーゴ!前へ!」
緊張でカックカクだったジンマ、逆に、むしろこちらを緊張させてきたクレマ。
今までの二人の印象で今年のパーティの総評が決まろとしている今、この現状を変えるにはやはり僕がピシッと決めるしかない!
僕は滑らかに立ち上がり、着実に一歩一歩を踏みしめる。
そして父の、...国王の面前に立つと、竹の如き直立で背筋を伸ばしきる。
王は僕の目を見つめ、大きく口を開いた。
「我が国の代表として、相応しい立ち振る舞いを所期している!」
そう言い切ると王はマントを手に取り、僕の肩に掛ける。
こうして城のステンドガラス越しの神秘的な光を浴びながら、ルート国の国章があしらわれた赤いマントを王につけられていると、まじまじと旅の始まりを実感する。
と、そんな感傷に浸っていた僕の肩に、ふと父が手を置いた。
「オーゴよ、この旅には沢山の困難が付き纏うだろう。予期せぬ危険や試練が降りかかることもあるだろう。だが、この国の希望として必ず悪王の元に辿り着き、この世界に光をもたらしてくれ。」
父の黒い瞳には、光に横顔が照らされた僕の顔が映っている。
いつもは頼っていいのか分からない父だったが、この瞬間は一国を背負う王の大きさのような物を見せてくれたような気がした。
「はいっ...!!!」
ここまでの姿を見せて貰って、僕が期待に応えないわけにいかない。
婚約者探しの道すがら、必ずしも悪王を討伐することを、この胸に深く誓った。
僕が階段を下りて元の場所に戻ると、王は息を深く吸い、大きく宣言をする。
「以上の3名を、正式に悪王討伐パーティーに任命する!これにて、閉式!!」
王の閉式の宣言を皮切りに、僕達に数百の拍手が浴びせられた。
全ての拍手が、僕達の為だけに贈られているこの空間。
「悪くねえ気分だな。」
クレマが緑色の髪の毛越しに横目でこちらを見つめ、口角を上げてくる。
これだけの祝福が僕たちに浴びせられているのだ。僕はクレマの心情に同感せざるを得ない。
「確かにね、ははっ。」
ふと、天井のステンドガラスに描かれた天使が、僕達に笑いかけた気がした。
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