第20話 殺すということ
悪王討伐遠征3日目 シオン戦決着後
「はっ...はっ...はっ...、見事に........足元が........おろそかになっていた........」
シオンは笑うが、そのたびに口からは血が吐き出される。喋れば喋るほど、彼が弱々しくなっているように見えた。
「シオン、あまり喋らない方がいいと思う...」
僕はそんな彼を見ているのがいたたまれなくなって、思わず声をかけてしまう。シオンは弱弱しく、不思議そうな顔を浮かべた。
「何を心配している...?キミたちが...殺すんだぞ...?」
シオンはその体でもなお、まるでコチラの心を見透かしたような視線を向けてくる。その目はまるで、心臓を鷲掴みにされているような、そんな緊張感を感じさせた。
そのうち彼は納得したように目を伏せ、僕から視線を逸らした。
「そうか...キミたちは...人を殺したことがないのか...」
そういうとシオンは再び空を見上げ、どこか遠くを見るような眼をした。
「キミたちは...正常だ...。殺すか殺されるかの場面が来れば...、人は迷いなく...相手を殺す...。その後に残るのは...、後悔と、懺悔と、もう戻れないという...喪失感だけだ。しかし...人は慣れてしまう...。いつしか...命を奪うことに...何も感じなくなる...。キミ達は...どうなるかな...?」
シオンはそう言っている間にも大量の流血をしている。放っておいても、5分と持たずに死んでしまうだろう。
「おいオーゴ、シオンは創造神側の人間だ。コイツの言葉に惑わされるなよ」
「分かってる。...けど、クレマは何も思わないの?」
「思わねぇ。この旅はそういうもんだ。悪を殺すのがウチらの使命だ」
クレマは本当に何も感じていないような表情をしていた。表面上は。
しかし、彼女の視線がシオンから動くことはなかった。
「そうだね。悪は殺さなくちゃ駄目だ」
シオンは僕たちの会話を聞いていたのか、口角を上げて笑った。
「...『悪』...ね...」
するとおもむろに、彼は自身の上着をおぼつかない手つきで脱ぎ始めた。シオンが下に着ていた、血に染まった白いシャツが見える。
そのシャツの胸部には、見慣れない小さい黒い箱のような物が幾つかくっついていた。僕たちはその行動の真意が分からないまま、シオンを見下ろす。
「何をしている?」
シオンは僕の質問を受け、少し呆れたような表所をした。
「爆弾も、わからないのかい...?今から...ワタシは自爆する...」
自爆。
一瞬、彼の言っている意味が分からず、僕は立ち尽くした。
次の瞬間、クレマに右腕を強く引かれる。彼女は僕とシモの腕を両手で引き、全速力で走りはじめた。そして今更、シオンの言っていた言葉の意味が分かった。
「い、今、自爆って言ってたよね!?」
「ああ!!あの野郎、負けたからってウチらを巻き込んで死ぬつもりだ!」
珍しくクレマが慌てている。
「あの爆弾、シモの掌力より強いのかなぁ?」
「知るかよ!!いいから走れ!!」
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僕たち三人は森の入り口近くまで走った。ここからならかなり距離があるし、例えあれが強力な爆弾であっても、巻き込まれることは無いだろう。
「どんくらいの爆発かな~?」
シモは呑気に森の奥を眺めている。
「一応耳は塞いでおけよ」
「う、うん」
シモは全く耳を塞ごうとしないが、鼓膜を守るためにも、僕はクレマの指示には従っておこう。
今のところ、森の奥からは鳥たちのさえずりが聞こえるだけで、異変は感じられない。この風景があと数秒後には焼け野原になっているなんて、とても想像できない。
「・・・・・・・・・・・」
1分ほど経っただろうか、未だに爆音は聞こえてこない。
「ねーねー。もしかしたら凄い小っちゃい爆弾だったのかもよ?戻って見てみない?」
シモが僕の服を引っ張って主張する。しかし、もしもシオンが、僕たちが戻ってくるのを待っていたとしたら...?いや、その前に彼は死んでいるだろうけど。
「...一応、もう1分だけ待ってみよう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
さらに、1分ほどが経過した。
依然この森は焼け野原になることもなく、平穏そのものだ。
「これは...」
僕の頭の中に、一つの可能性がよぎる。
(まさか、はったり...?)
「チッ!やられた!」
舌打ちを溢したクレマは、森の奥へと走りだした。
シオンの居た所まで戻ろうと駆け出したのだ。そのすぐ後ろをシモが追い、シモの後ろを僕が追った。
(自爆の宣言は嘘だったのか...?けれど、どっちにしろ今頃シオンは死体になっているんじゃ...)
暫く走り、さっきシオンと戦った場所まで到着する。先に現場に到着したクレマは、足を止めて立ち尽くしていた。
後から追いついたシモと僕も、現場を見て唖然とする。
「き、消えてる...」
そこには爆発した痕跡どころか、シオンの死体すら残されていなかったのだ。
続く。




