緑髪女との会合
前回のあらすじ
ルート国の王子、『オーゴ』は、『悪王討伐遠征』を遂行するため、国王が選出した『パーティメンバー』に出会いに行く。
新たな出会い(特に清楚系美女との)に胸を膨らませるオーゴだったが、そこに現れたのは、剣技の師匠でもあり城の使用人でもある『ジンマ』だった。50歳の中年男性と一緒に旅をしたくないとごねるオーゴだったが、そこに、もう一人のパーティメンバーが到着する。
黒髪美少女を期待したオーゴは意気揚々と振り返るが、そこに居たのは、緑色の髪をしたイカツめのお姉さんだった!
理想と現実のギャップに打ちひしがれるオーゴ!...果たしてどうなる!?
国歴248年 ルート国 春
城下町のとある喫茶店にて。
閑静な喫茶店の中に、僕と緑髪の女が相見える異質なテーブルが存在する。
「あ、あのぅ、オレンジジュースでよかったですか...?」
僕は下手に出て緑女の機嫌を伺うが、彼女は関心がないようにこちらを睨んでいる。
いや、睨んではないのかもしれないが、緑女の目つきは鋭すぎる。
そんな目で見られたら、華奢な王子は委縮してしまうに決まっているだろう。
「アァ?何敬語使ってんだ。ウチ19だから歳もそんな変わんねぇだろ。」
「だ、だよね~、ウンウン。改めて、僕はオーゴ。歳は18...です...。」
彼女は、「そんなことどうでもいい。」というような感じで、緑髪越しに黒い瞳をゆっくりと背けた。
というか、本当なら王子の僕に対して、向こうが敬語を使うべきなんだけど...
まぁこの感じじゃあ仕方ない。
ここまでで、僕が観測した彼女の容姿をまとめてみよう。
彼女の顔立ちは、少々目つきが鋭すぎるものの凛々しさがあり、整っている。
細く伸びた眉毛は、彼女の刺々しい雰囲気を醸し出すのに一役買っているとみた。
身長は僕より10㎝程大きい(チィッ...)。
髪型が特徴的で、全体的には綺麗に切りそろえられたショートカットだが、触覚?というのだろうか、前髪の横の部分だけ長く伸ばしている。そして緑色。
服も見たことがない服を着ている。何かの模様が描かれた、これまた緑色の上着を羽織っているのだ。
と、僕が舐め回すように彼女を観察していると、今度は向こうから声をかけてきた。
僕はまじまじと見ていたことがバレないように慌てて視線を外す。
「ウチはクレマ。ご存じアカデミーから来た。これからヨロシク。」
緑色の上着の袖から握手を求め伸びてきたクレマの手は、白く透明感があり、指は長く細かった。
(あ~、すっごい女の子な手してる。こんな乱暴な話し方で目つきも切り裂くようなのに...。このギャップ...、アリだな!)
「よ、よろしくぅ~!...えっとえっと、特徴的な上着だね?」
僕の顔を見ないで握手した彼女は、早々に僕の手からするりと手を退かせ、オレンジジュースに手を伸ばす。
「ん?あぁ。見たことないだろ。上着は『スタジャン』。ズボンは『ジーパン』って言うらしい。詳しいことは言えねぇ、というか知らねぇ。」
確かに、聞いたこともない名前の服だ。
それに、彼女の含みを持たせた言い方も少し気になるな。
彼女はオレンジジュースを一口飲み込むと、不愛想に続ける。
「で、あのおっさんは何で来なかったんだ?」
「あ、あ~、ジンマのこと?ジンマは城で使用人として働いてるんだけど、忙しいみたいで...」
ジンマは僕達が喫茶店に行く運びになった時に、「申し訳ありませんが、まだお仕事を残していますので。これにて失礼ッ!」という感じで城に戻ってしまった。
なので今2人で喫茶店に来ているわけだが...
「まぁ、とりあえずジンマ?とは後々話すとして、お前の掌力でも見せてもらおうか。お前、掌力持ってんだろ?なら今後の冒険でも使う機会は多いだろうし、お互いの情報はなるべく知っておかねぇとな。」
久しぶりにオレンジジュースから手を離した彼女が、品定めをするように話しかけてきた。
こんな不良少女みたいな人間から、いきなり合理性に富んだ話題が飛び出してくるのは予想外である。
「あ、だよねだよね...!えっと、僕の掌力は直接見せた方が早いんだけど...」
僕は手ごろなものがないか、机の上を物色した。
丁度手のひらサイズの銀のスプーンがあったので、僕はそれを手に取りクレマの目を見る。
「僕の掌力の名前は、『入替』。僕の手の平で一度でも触ったことがある物は...ほい!」
僕の手にある銀のスプーンが一瞬発光した。
それは「まぶしい」とは到底言えないような、心もとない光り方だが、たしかに手の平のスプーンは光を放っている。
そして次の瞬間、そのスプーンは、重量感のある全く別の物体に変わる。
「好きな時に位置を入れ替えることができる!じゃじゃーん!」
僕の手には、先程の手のひらサイズの銀のスプーンではなく、金色に輝く大きな斧が乗っていた。
城内で触ったことのあるもので適当に思いついたのがコレだったからだが、クレマには存外良い評価をもらえたようだ。
その証拠に、彼女の瞳が出会ってからの最大サイズを更新した。
「おお!いいねいいねぇ!すげぇじゃん!」
「いやいや~、それほどでも~!......ゲッ!」
ここで僕は、クレマの賞賛の眼差しとは対称的な視線が、こちらに向けられていることに僕は気づいた。
その視線の正体は、バカみたいな筋肉を携えたこの喫茶店の店長の、怪訝そうな眼差しであった。
僕は急いで金の斧を銀のスプーンに戻して、誤魔化すように咳払いをする。
「...ゴ、ゴホン!じゃ、じゃあ!今度はクレマの掌力見せてもらおうかな!」
「おっ、いいぜぇ。じゃあウチの掌力も見せた方が早ぇからさ!」
パリィーーン!!w
そう言うが早いか、クレマは自身の飲んでいたオレンジジュースのグラスを、床に突き落とした。
無論、そのグラスは盛大に砕け散り、周囲に甲高い破裂音を響かせる。
中に入っていたオレンジジュースは、僕の足元まで流れてきていた。
「......は?」
僕は一瞬、彼女が何をしたのか理解が及ばなかった。
しかし、一瞬の間を置いた後、僕は事の重大さをすぐに認識し、クレマに詰め寄る。
「...って、ちょっ、おいィィ!なにやってんのよクレマァ!」
僕は顔面蒼白を超えて、顔面緑黄色くらいの顔をしていたと思う。
なぜなら僕の脳裏には、謎の筋肉保有者であるこの店の店長の二の腕がチラついていたからだ。
(...おいおい、死んだわ俺。....いやまじで。)
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