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手の平の『創造物』たち  作者: 今木照
創造神を殺す旅
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第12話 アカデミー最強の実力

 

 シモはその小柄な体からは想像できない程力強く走り、僕たちの十数メートル先に居た悪獣達へと徐々に距離を詰めた。

 彼の手の平からはチリチリと火の粉が散っていて、彼が走り抜けた後は少し粉塵が舞っていて煙っぽい。


 文字通り、体を燃やしながら駆けている様だ。

 単身で突撃してくるその命知らずな人間に気づいたのか、相対する悪獣達も臨戦態勢に入った様子である。


 シモがまず狙いを定め突撃していったのは、先頭に居た一体の悪獣。

 その悪獣との距離が残り2メートル程かというタイミング、シモより先に悪獣が行動を起こした。

 悪獣はシモに鉤爪をかざし、切りかかったのだ。


 ...しかし、悪獣の鉤爪攻撃はシモに当たることも、掠ることもなかった。

 シモはその攻撃を退屈そうに目で追っていたのだ。


 彼の柔肌を鉤爪が切り裂こうかというタイミング、彼はその刹那で攻撃を躱した。シモは体を素早く180°回転させることにより悪獣の目と鼻の先で攻撃を避けたのである。その所作はまるで、舞踏会でリズムを刻む一人の可憐な少女のように、無駄がなく、楽し気であった。


 さらに、僕の目は見逃さなかった。一連の回避動作の中で、シモが悪獣の側頭部に手の平をポンっと当てたのを。

 ...けれど、シモは手の平を当てるだけで追撃を起こすわけでもなく、プイっとそっぽを向いて歩き出してしまった。


 一方、シモに攻撃を避けられたその悪獣は、次こそシモを切り裂こうと再び前足を振り下ろす攻撃態勢に入っていた。

 しかし、当のシモは悪獣の前で歩いているだけだ。

 応戦するでもなく、再び襲い掛かってくる悪獣を躱そうとするとでもなく、ただ二体目の悪獣の方を見据えながら歩いていたのだ。


 ...いや、正確には歩きながら何かを呟いた。

 それは...



「ぼん。」



 たったその一言。

 そして、シモがその擬音を呟くのとほぼ同時に、それと全く同じ音が周囲に轟いた。

 シモを襲おうとしていた先ほどの悪獣の頭部が、「ボンッ!」と爆ぜたのだ。

 何が起こったのか、僕とクレマはすぐに理解した。


 さっきシモが回避しながら触れた悪獣の側頭部。

 その一瞬で、シモは自身の掌力である『爆破』を使って悪獣の頭部を爆弾にしていたのだ。

 一瞬で一体を片付けたシモを前に、僕は目を丸くしてあっけに取られていた。


 ...しかし、彼の殲滅劇はまだ始まったばかりだった。


 続いて2体目の元へ駆け出すシモ。

 今度は走っている途中で足元の雑草を何本か引きちぎり、握りしめていた。一方、2体目の悪獣もシモに向かって勢いよく特攻を繰り出す。


 今度はシモが回転して避けられないよう、横なでに鉤爪を繰り出そうとしている。...悪獣も学習しているのだろうか?


 しかしシモは、そんなこと想定内だ。というように笑っていた。

 シモが先ほど引きちぎって手で握りしめていた雑草。彼はそれを悪獣の目の前でばら撒いた。


 すると次の瞬間、複数の破裂音が響く。

 ばら撒いた雑草が、爆竹のように爆散したのだ。


 悪獣とシモの間に黒煙が立ち昇る。しかし、悪獣はその爆破に怯むことなく、煙の方に攻撃を仕掛けた。


 悪獣は右前足を横に大きく振りかぶり、素早く攻撃を繰り出す。

 その鉤爪は立ち昇る黒煙ごと、シモのことを切り裂いて見せた。


 ...筈だった。

 結局、その鉤爪はシモを捉えられなかった。切り裂いた黒煙の向こう側には、シモは居なかったのだ。

 では、シモはどこに行ったのであろうか。


 答えは”上”だ。


 少し離れた場所から観戦していた僕は大局的に見れていたからその動きを追えていたものの、悪獣の視点にしてみれば目の前から標的が忽然と消えるのは理解が追い付かないだろう。

 ましてや上にいるなんて。


 シモは雑草の爆煙に乗じて悪獣の視界から外れると、鉤爪が届くより先にジャンプをしていた。

 そして、最早もぬけの殻となった煙の向こう側を悪獣が攻撃しているその時、シモは頭上で悪獣を捉えていた。


 シモは悪獣をまるでハードルのように飛び越えながら、下に手を伸ばす。悪獣の背に彼の手の平がペタリと触れた。


 悪獣はその時になってようやくシモに気づいたらしいが、もうとっくに手遅れだ。シモの手の平に触れられたその瞬間、それはただの爆弾と化すのだから。


 シモは悪獣を飛び越えて着地する。

 その瞬間、シモの後方で大きな爆発が起こった。

 2体目、撃破。



 ...残るは最後の一体であったが、その悪獣は今までと少し違った。

 3体目の悪獣は、シモの着地の瞬間を狙っていたかのように、すぐさま彼に切りかかったのだ。


 しかし、それでもシモは悪獣の鉤爪を間一髪で避けた。

 ...と、言いたいところだったが、流石の彼でもその距離の奇襲を完全に避けきることは難しかったらしい。

 上体を逸らせて回避しようとしたシモのおでこに、悪獣の鉤爪が掠る。


 シモのサラリとした前髪がパッツンと切られ、おでこに赤い切り傷が現れた。

 それでもシモの驚異的な反射能力がなければ、切り傷どころでは済まなかったと思うが。


 一応初めての攻撃を食らったシモだったが、当然、彼はそんなことを気に留める様子もなく次の行動に移っていた。

 次の行動に移ったのだが...


(?...何やってるんだ?シモの奴...)


 彼は今までの2体の時の様に直接攻撃を仕掛けるでもなく、何故か1m程バックステップを踏んで後退した。てっきり彼の性格上、そのまま至近距離で攻撃を仕掛けるものだと思い込んでいた。


 そして後退したシモは、何故かそのまま両の手の平を地面に密着させ始めた。悪獣はそんなおかしな行動を取るシモに対して、躊躇なく飛び掛かろうとしている。

 それでも、シモは両手を地面に置いたまま動かない。

 僕はシモの行動の意味を理解できず、困惑するばかりだった。


 ...まさにその時。

 急にシモがこちらに顔を向け、叫んだ。


「オーゴ!戻して!」


 シモの快進撃に見入っていた僕は、唐突な名指しに動揺する。

 そして、そのタイミングはすでに悪獣が飛び出して、シモを切り裂く3秒前。というような瞬間であった。


 けれど、シモの言っている内容は一瞬で理解することができた。

 僕は急いで足元の適当な小石に触れ、その小石とシモの場所を『入替いれかえ』した。


 小石が一瞬光り、十数メートル先に居たシモと入れ替わる。僕のすぐ横にはシモが出現し、さっきまでシモが居た場所には小石が出現した。


 悪獣はさっきまでの標的が一瞬で小石になってしまった事実に、ほんの少しだが困惑しているように見えた。

 僕のすぐ横に出てきたシモは、おでこから血を流して無邪気に笑っている。



「オーゴ、ないす!!」



 シモがそう言って右の手の平をこっちに向けた時、さっきまでシモがいた場所が大爆発した。土煙が巻き起こるような、今までで一番規模の大きい爆発。

 距離を取っていた僕達の所にまで、熱は伝わってきていた。


 そう、シモが地面を触っていたのは、地面を爆弾にしていたからなのである。

 その爆心地の真上にいた3体目の悪獣は、当然、木っ端みじんに弾け飛んだ。


 今さっきまで悪獣だった鉄片が、僕たちの足元に転がってきた。

 こうして、1分前まで僕たちの前に立ち塞がっていた悪獣達は、今や1人の少年の手によってただの焦げた鉄塊になってしまったのである。


 僕が先ほどの爆発音で耳鳴りを味わっている間、シモはずっと僕に向けて手を挙げていた。シモがこちらに手の平を挙げていた理由は、どうやらハイタッチをするためだったらしい。

 シモはハイタッチを急かすようにユラユラ腕を揺らしている。


 しかし、シモの一連の爆撃ショーを見終わった直後の僕は、彼のその手の平を「いえ~い!ナイスぅ~!」と叩く勇気が湧かなかった。


「まさか...ここまで強いとは...」


 クレマが若干僕をたしなめるように口を開く。


「だから言ったろ。アカデミーの戦闘力一位は絶対的にコイツのモンなんだ」


 僕はこれから、シモにタメ口を使えないかもしれない。


「ねぇオーゴ!ほら、ハイタッチ!」


(...よし。このパーティは今後、作戦名『シモ』で行こう)


 僕はシモのハイタッチの手を避けながら心に決めた。


最後まで読んで頂きありがとうございます!

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