第7話 予想外の挑戦者
国歴248年 創造神討伐遠征1日目
父との別れを無事に済ませ、今度こそ門を出る。文字通り、僕たちの冒険の第一歩の瞬間だ。冒険が始まって最初の一言を発したのは、意外にもクレマだった。
「いやぁ、さっきは感動させてくれたねぇ。親って全員あんなモンなのか~?」
クレマが腕を上に突き出し、体を伸ばしながら問いかけてくる。
最初僕は、その質問の意味がよく分からなかった。しかし、暫く考えるとその質問のワケが理解できた。
つまりそれは、クレマがアカデミー生だったということである。
「そうか、クレマはアカデミー生だから、親を知らないのか」
僕は馬鹿にしようとした訳ではなかったが、自身のデリカシーのなさにハッとする。クレマはわざとらしく目を細めて、嫌悪感を惜しみなく押し出していた。
「ま、事実だからいーけどよ」
クレマはプイっと顔を背けてしまった。僕は謝罪を交えながら、先ほどの問いに答える
「ご、ごめんって...。でも、僕は一人っ子だから色々面倒見られながら育ったけど、父があんなにスキンシップを取るのは初めてだよ。普通の家もそんなもんじゃないかな。」
「一人っ子か。ならその性格も納得だな」
クレマはもはや興味がなさそうに、冷たい返答をした。そして彼女は、すでにもっと興味のある話題へと舵を切ったようだ。
「あ、そういえばおっさん。アンタとまだ喋ってなかったな。あんたは掌力者なのか?」
おっさんと言われて、ジンマはピクリと肩を動かした。出発してからパーティーメンバーが掌力者かどうかを聞くなんて、本来なら有り得ないんだろう。
ジンマは歩みを止めずに、クレマの質問に丁寧に返答をした。
「私は『おっさん』ではなく、『ジンマ』です。...そして質問にお答えするなら、私は掌力者ではありません。ですがご安心ください。私の武器はこの洗練された剣術!お二人のお手を煩わせるような事態には決してなりません」
クレマはジンマの返答に、少しお茶らけた様子で笑いながら言葉を溢した。
「はっは。自信満々なおっさんはいいねぇ~」
クレマは相変わらずおっさん呼びをやめなかった。すると、少し先を歩いていたジンマがぴたりと足を止めた。
「お、ジンマどうしたの?怒った?」
流石のオールバック執事でも、執拗なおっさんイジリに沸点が近づいたのかと思いきや、
「お二人とも、お待ちください。前の岩影に人がいます」
と、ジンマは怒ることなく一人前方を警戒していた。
ジンマの言う方に目をやると、そこには確かに人がいた。人というだけなら、狩人や行商人が国の外に居ることもあるので然程おかしくはないのだが、目の前の人間は明らかに目立つポイントがある。
その人間は、アカデミーの制服を着ているのだ。
「なんでアカデミーの生徒がこんな所に?」
僕が呟くと、横にいたクレマからバツが悪そうな声が聞こえてきた。
「げ!嘘だろぉ!?アイツ、何でこんなとこにいんだよ...」
クレマは心底嫌そうな顔をしている。その口ぶりからして、知り合いなのだろうか。
「なに?クレマ、知り合い?」
そう聞く僕の問いにクレマが答えるよりも先に、問題の人影がこちらを向き、声を上げた。
「ねぇねぇ~!みんなって悪王討伐のパーティーでしょ~?!」
少し遠くから声を張り上げてきたその人影をよく見ると、思っていたよりも幼かった。そしてなにより特徴的なのは、その靡かせている金色の髪だろう。性別は...女の子か?
その子は声を張り上げて続ける。
「君たちのパーティーの『ぜんえい』って人ー!戦おー!」
あの子が言う『ぜんえい』は、『前衛』だろう。...という事は、この宣戦布告はパーティの前衛、ジンマに向けられているということになる。
「あいつの名前はシモ」
横にいたクレマが、唐突に挑戦者の名前を教えてくれた。そのシモと呼ばれる少女は、僕たちにまだ声をかけ続ける。
「それでぇ、もしそのぜんえいの人に勝ったら、その人の代わりにシモをパーティーに入れてよ~!」
え?
パーティーに入れて...?
唐突かつ想定外の申し出に、三人とも揃ってポカンとしてしまった。
つまり前にいるシモという子は、ジンマと決闘をし、更にジンマに勝ってその空いた席に就こうとしているのだ。
こんな挑戦、一体何のために...?理由が分からない。
「ジンマ、分かってると思うけど、こんな挑戦に乗る必要ないからね。こちらに何のメリットもないんだし」
大丈夫だとは思っていても、念のためジンマにストップをかける。
しかし、ジンマは僕が思っていたよりも冷静ではなかったようだ。その証拠に、彼は笑ってその挑戦を受けてしまったのだ。
「はっはっはっはっは!オーゴぼっちゃん!このジンマを少々侮りすぎでは?これから続く冒険のために、ここで実力を示しておくのもいいでしょう!」
(おいおいおい、相手は子供だぞ...?)
僕はジンマのその対応にも、多少呆れた。
ジンマはそう言い終えると、腰の剣を抜いてシモの方へと近づく。
「そこのアカデミー生徒!私がこのパーティーの前衛、ジンマと申します!この精鋭パーティーに勝負を挑む心意気は認めましょう。しかし!勇気と蛮勇は違う!それをアカデミーの教員に代わり、この私が教えて差し上げましょう!」
「わ!シモと戦ってくれるの!?やったー!」
ジンマが挑戦に乗ると分かると、シモは分かりやすく興奮し始めた。
そしてシモとジンマは開けた場所に移動する。
双方、決闘の準備は整ったようだ。
けど、10歳前後ほどのあの子を相手にするなんて、ジンマもやっぱり大人げない気がしてしまう。
そんな事を考えながら眺める僕に、クレマが話しかけてきた。
「なぁ、オーゴ。ジンマって強いのか?」
僕は彼女の質問に、一切の私情を挟むことなく正直に答えた。
「まぁ僕の剣術の師匠だし、かなり強いよ。たとえ掌力がないとしてもね」
実際、ジンマは僕に剣術を教えていた張本人で、城内一、いや、下手したらルート国一の剣豪かもしれない。僕は今日に至るまで純粋な剣技の勝負で、彼に勝てたことが一度もない。
僕の回答を聞いたクレマは、何故か難しそうに眉を寄せる。
「そうか。...なぁ、ウチの成績表、覚えてるか?」
「え?まぁうん。ほぼ一位でのやつでしょ?」
喫茶店でクレマが見せてきた成績表を思い出す。
たしか、「座学部門」「運動部門」「総合」が全生徒の中で一位だった。
そんなクレマがシモを睨みながら口を開く。
「その通り。ウチは『ほぼ』一位だ。『全部』一位になれなかった理由が、まさにあいつだ」
「え、ってことはまさか、あの子が...?!」
「ああ」
シモの金髪の間からこぼれた、青く大きな瞳が、ギラリと輝いたように見えた。
「シモは、模擬戦闘部門『1位』だ」
続く!!
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